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炭素は企業の新しい資本になっていくのか――タイのソーシャルイノベーションから考える

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

現在、世界はネット・ゼロ・エミッションを目指している。炭素排出量に関する情報開示は、今後炭素税の導入などシステムの変化により義務化されていく。つまり、炭素排出量の情報を開示することで、顧客や市場に認められ、ブランド価値を高めることができる。本セッションでは、タイで新しい金融システムを構築しようと試みる企業の挑戦を通して炭素と企業のブランド価値の関係を探り、「炭素は企業の新しい資本になっていくのか」をテーマに議論した。(井上美羽)

ファシリテーター
シリクン ヌイ ローカイクン・Sustainable Brands Thailand カントリーディレクター
Kanita- Nucci Tungwarapojwitan・SB Thailand
パネリスト
Suthat Ronglong ・Perpetual Innovation Company Limited R&D Co-founder & CTO
Paphon Mangkhalathanakun・Perpetual Innovation Company Limited Co-founder & CEO

セッションは全員がタイのメンバーで進められた。ファシリテーターを務めたのは、タイのSBカントリーディレクターであるシリクン ヌイ ローカイクン氏で、タイで新しい金融システムを構築しようとサービス展開を試みるPerpetual Innovation社の共同創設者であるPaphon Mangkhalathanakun氏と、Suthat Ronglong氏の2氏がパネリストとして登壇。企業のブランディングを消費者とのコミュニケーションの観点から分析する専門家のKanita- Nucci Tungwarapojwitan氏も同席した。

Mangkhalathanakun氏

Mangkhalathanakun氏は、タイで15年以上、中小企業向けの銀行に勤めながら、中小企業が抱える資金調達の問題を解決することができない既存の銀行システムに疑問を抱いていたという。そこで「金融システムの変革を通して、脱炭素社会を実現させたい」というパッションのもとに立ち上げたのがPerpetual Innovation 社だ。

同社は脱炭素社会の実現のために、既存の金融システムの変革に挑戦をしている。具体的には、ブロックチェーンを使用したカーボンサークルというプラットフォームを提供し、中小企業や個人がデータを理解して実行可能な計画に変換できるよう支援しているという。

カーボンサークルでは、企業の活動を独自の計算方法で排出量に変換し、監査人による認証を受けた数字データをブロックチェーンに公開する。そして、炭素税を考慮した企業の純利益を算出することで、企業の業績を評価しレーティングを行う。企業は、このシステムを使って自分たちの脱炭素戦略を調整したりカスタマイズしたりすることができる仕組みだ。

Ronglong氏

企業が炭素排出量のデータに目を向け、情報開示を行うようにするには、そうした企業に対するインセンティブが必要だ。Perpetual Innovation 社の共同創業者であるRonglong氏は「経営コストに炭素排出のコストを加えることで、企業を脱炭素の取り組みにもっと意識を向けさせ、サプライチェーン全体に反映させることができる」と話した。

Ronglong氏は、タイの貧しい村の出身で、グーグルやNASAでの仕事を手掛けた後、「自分の幸福は地元タイにある。国中をまわって問題を理解し、人々の生活を変えるソーシャルイノベーターになろう」と決意して今があるという。

さらにMangkhalathanakun氏は、自社の脱炭素化の進捗状況を把握し、透明化することの重要性を説いた。アジア圏ではまだ準備段階だが、企業や銀行には、将来的に炭素税などの環境に関する規制が導入され、そうすると、企業の収益に大きな影響が出ることは避けられない。これを踏まえ、Mangkhalathanakun氏は「今すぐ脱炭素化に取り組み、進捗状況を示すことで、将来的な炭素税の影響を受けずに価値を創造できる」と述べ、「オフセットだけでは問題を先送りするだけだ。具体的な脱炭素の取り組みをすぐにでも進める必要がある」と強調した。

一方、金融機関は、企業の開示する炭素排出量のデータをもとに融資を行い、「正しいことをした企業」に対するインセンティブを与えることで、脱炭素化を進めていく必要がある。

Tungwarapojwitan氏(左)とローカイクン氏

最後にローカイクン氏が、「本セッションの話を聞いたビジネスマンが、自社のCEOに対してどのように提案し、実際の行動につなげていけばよいでしょうか」と問いかけると、Mangkhalathanakun氏は「まずは現在の排出量を出し、30%の炭素税が明日導入されたら自社の収益にどのくらいの打撃があるのかを提示する。シンプルな言葉を使い、利益や目的を明確にし、具体的なアクションプランを提案することが大切だ」と答え、聴衆に行動に移すよう呼びかけた。

サステナビリティに対する消費者の行動を研究しているTungwarapojwitan氏も、「今回の国際会議で『共創』という言葉をたくさん聞いたが、ブランドと消費者がともに地球をより良いものにしていくことこそが大事だ」と話し、セッションを終えた。

井上美羽 (いのうえ・みう)

埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。都会より田舎派。学生時代のオランダでの留学を経て環境とビジネスの両立の可能性を感じる。現在はサステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人を発信している。