カーボンニュートラルの実現に向けた森林活用の新技術と「心豊かな生き方・暮らし方」
第5回未来まちづくりフォーラム
(左から) 小寺氏、池上氏、栂野氏、関口氏、玉木氏
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日本政府は、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル(以下CN)の達成を2050年までとしており、脱炭素に取り組むことは企業にとっては社会的責任であり、ビジネスチャンスでもある。日本は国土の3分の2を森林が占める森林大国であるが、実際に使われている木材の半分以上が輸入木材だという現状があり、自国の資源をいかに活用するかがカギである。本セッションでは、街やオフィスのあり方を根本的に変えることで、脱炭素社会を目指す自治体と企業の取り組みを紹介する。(保科彩)
ファシリテーター
小寺 徹・一般社団法人CSV開発機構 専務理事
パネリスト
池上武史・横浜市 温暖化対策統括本部 副本部長
関口政宏・オカムラ サステナビリティ推進部 部長
玉木欽也・青山学院大学 経営学部 教授/SDGs人材開発パートナーシップ研究所 所長
栂野 晃・熊谷組 建築事業本部中大規模木造建築推進室 室長代理
(※所属・役職はセッション開催時)
中小企業を支援し、市民とともに取り組む横浜市
横浜市は、2018年に宣言した「Zero Carbon Yokohama」の取り組みを加速させるため、今年1月に「横浜市地球温暖化対策実行計画」を改定。2030年度の温室効果ガス排出削減目標を2013年度比50%に引き上げた。それを達成するために力を入れているのが、脱炭素技術を擁する企業が多い臨海部におけるイノベーションだと、横浜市の池上武史氏は話す。「『みなとみらい21地区』において、2030年度までに電力消費に伴うCO2排出量を実質ゼロにする『大都市における脱炭素化モデル』の構築を目指す」という。
また池上氏は、技術面などで対応できない中小企業には、市が情報や支援策を提供して、一緒になって取り組むと決意。市民への啓発に関しては、それぞれの地域が抱えている課題と「合わせ技で取り組むことが大事」と力を込めた。また、子どもたちへの教育については、タブレットなどを活用したデジタルコンテンツを充実させたいと話した。
池上氏
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栂野氏
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森林資源の活用が大きなテーマ
熊谷組の栂野晃氏は、建築業界が全産業の約4割のCO2を排出している現状を「先導的に変えていく責任がある」と述べた上で、CNに対する自社の方針を示した。その中の「木材利用の促進」の新技術として、建物のCO2を「見える化」するソフトウェアや、木質耐火部材、住友林業とタイアップした木造ハイブリッド建築を紹介。建てる側と利用する側の「双方で一次エネルギーを削減する」ことの重要性を語った。
栂野氏は、「日本の国土の3分の2を占める森林資源の活用が大きなテーマ」であり、木材の商流の川上にいる住友林業と川下の自社が手を取り合い「その大義に取り組んでいく」と述べた。また、自身は週末に子どもたちに体感してもらうネイチャープログラムに取り組んでおり、子どもたちが「将来世界を変えていく人材になってほしい」と期待を寄せた。
関口氏
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玉木氏
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オカムラの関口政宏氏は、同社のサステナビリティとして、「人が集う場の 創造」「従業員の働きがいの追求」「地球環境への取り組み」「責任ある企業活動」の4分野の重点課題を紹介。その歩みは1966年から続いているという。CNへの取り組みとしては、2030年に2020年比で50%削減することを2021年に宣言。昨年1年間だけで約20%の削減を達成したと報告した。
また「ラボオフィス」では、実際に社員がオフィスとして使用し、レイアウトや運用方法など働き方の実証実験を行っている。関口氏は、コロナ禍を経たオフィスは仕事内容によって働く場所を変えられる方向に進んでいるとの考えを示し、「例えば会議室などで木製家具などを使った『オフィスのリビング化』により、議論が活発化したりリラックスして話せたりする」と話した。
CN実現には循環型社会とパートナーシップが不可欠
小寺氏
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SDGsによる地方創生やサーキュラーエコノミーについて研究している青山学院大学の玉木欽也教授は、研究者の視点から、「横浜市は官民一緒になって新しい街を作っていること」「熊谷組は林業と建設を結び付けたこと」「オカムラは環境配慮型の製品サービスを展開していること」を特に評価した。
また、「SDGsネイティブ」である若者たちとの協働が鍵になると指摘し、「CNの実現には循環型の経済と社会、そして生活が必要であり、そのためにはSDGsの17番目の目標である『パートナーシップ』が重要」だと主張。「誰もが活躍できる社会を、多様な人たちと一緒に実現していくことが大事」と力説した。
この玉木氏の発言を受け、ファシリテーターの小寺徹氏は、「今まで組んだことのない相手とも組む」ことの重要性を強調。「そうした歩みが、新たな街づくりにつながっていく。今回の議論がそのきっかけになってほしい」とセッションを結んだ。