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Xの時代に求められる人財価値を最大化させるサステナビリティ経営とは

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左から)田中氏、最勝寺氏、間宮氏

Day2 プレナリー

企業がSX(サステナブル・トランスフォーメーション)を実践していくためには、自社のパーパスを社会の実像にオーバーラップさせ、事業を担う人的資本への投資や人財戦略の推進を行っていくことが肝心だ。登壇したKDDIは、社員のスキルアップを目指した教育機関「DXユニバーシティ」を、花王は新人財活性化制度「OKR(Objectives and Key Results)」をもとに人材価値の最大化に取り組んでいる。本基調講演では、DXやESGなどをキーワードに、それぞれの取り組み状況や課題などについて議論を深めた。(いからしひろき)

ファシリテーター
田中信康・SB国際会議 ESGプロデューサー
パネリスト
最勝寺奈苗・KDDI 執行役員 コーポレート統括本部 副統括本部長 兼 サステナビリティ経営推進本部長
間宮秀樹・花王 人財戦略部門 人財戦略部門統括 上席執行役員

KDDIは「DX ユニバーシティ」で組織力の最大化を図る

最勝寺氏

まずはKDDIの最勝寺奈苗氏が、昨年5月に掲げた「KDDI VISION 2030」と「中期経営戦略 (2022-2024年度)」を元に、同社のサステナビリティ経営の基本方針を説明した。それによると、同社のサステナビリティ経営とは「長期志向と社会価値の観点を組み入れ、企業価値の向上と社会の持続的成長を好循環させていくこと」で、その戦略的中核を担うのが5G通信とDXだ。では、それをどう推進していくか。鍵を握るのが「人財ファースト企業への変革」だ。

具体的には社内に「DXユニバーシティ」という教育機関を設け、「全専門領域でプロ人財の比率を30%に高める」「全社員1万1000人がDXスキルを習得する」という目標を設定。つまり、全社員のスキルを底上げすることで「組織力の最大化を図っていく」ことが、事業戦略の推進ひいてはサステナブルな経営につながるという。

花王は新人財活性化制度「OKR」で社員活力の最大化目指す

間宮氏

花王は中期経営計画「2030年を見据えたK25基本構想」の柱の一つに「社員活力の最大化」を掲げる。施策の切り札が新人財活性化制度「OKR」だ。従来のトップダウン的なKPIに対して、社員起点によるボトムアップ的な手法で目標を設定し、かつ社内で共有しながら達成を目指している。

花王の間宮秀樹氏は「少し高めの目標を設定することがポイント。それにより、自ら努力して周りとも連携しながらチャレンジしていく組織風土を醸成したい」と狙いを語った。社員が記入するフォーマットには「事業貢献」や「ESG」といった項目もあり、かなり経営に踏み込んだ内容だ。ただし、間宮氏はこのOKRだけで社員の活力が最大化されるとは考えておらず、「加えてD&Iやウェルビーイング、評価表彰、教育、組織の風土改革などを複合的に進めることが大切」と語った。

成功のためのキーワードは透明性のあるコミュニケーション

田中氏

ディスカッションではファシリテーターの田中信康氏が、まずKDDIの人財活用をマテリアリティに組み込む狙いについて質問した。それに対して最勝寺氏は、企業理念やフィロソフィーなど経営の根底に関わることとしつつ、「実情としてDX人財が足りない。そこをなんとかしたい」と本音を漏らした。

花王の間宮氏に対しては、導入して2年が経過したOKRの手応えについて尋ねた。間宮氏は「日本に実例が無かったので浸透に時間がかかったが、チャレンジングな社員が増えている」としたが、「マーケティングや研究開発、工場など職種によって浸透度にばらつきがある」と課題を挙げた。

KDDIが人財育成の砦とする「DXユニバーシティ」については、制度を作るだけでは社員には浸透しないため、「タウンホールミーティングや職場での1on1など、多方面からアプローチするよう心がけている」という。そうした人財育成が経営パフォーマンスにどれくらい影響を与えているかを最勝寺氏は、「人事面も含めて見える化し、データを有機的に深く分析していきたい」と抱負を語った。

間宮氏は、OKRの記載項目にESGがあることについて、「そもそも会社の基本方針ではあるが、社員一人一人がESGを自分事化し、どう取り組んでいくかを考えることが重要。職場や役割によっては難しいかもしれないが、それでも考えることに意義がある」と力を込めた。

KDDIは「DXユニバーシティ」、花王は「OKR」とそれぞれ異なる取り組みではあるが、「どちらもトレードオン(好循環や相乗効果)の発想であり、社員の自律心をくすぐることでマインドを高めようという点で共通している。成功のためのキーワードは透明性のあるコミュニケーションだ」と田中氏がまとめた。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。