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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

エシカル・ファッションを本当の意味でブレークスルーさせるには――現状と展望を議論

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 ブレイクアウト

いま、ファッションの世界でもサステナビリティが強く求められている。注目を集めているのは、「人にも地球にも優しい」エシカル・ファッションだ。原材料の選定から生産、販売、消費、再生まで、ブランドのみならず私たち消費者もエシカル(道徳的・倫理的)な行動を取ることで、ファッションを通じてサステナブルな社会へ貢献できる。そうしたエシカル・ファッションの最前線の現場で、新しい商品や売り方を提案し、実践する3氏が今後の展望などを議論した。(眞崎裕史)

ファシリテーター
生駒芳子・ファッション・ジャーナリスト/アート・プロデューサー/日本エシカル推進協議会 会長
パネリスト
唐沢海斗・ラヴィストトーキョー 代表取締役
坂口真生・GENERATION TIME 代表取締役/エシカルディレクター
嵜本晋輔・バリュエンスホールディングス 代表取締役社長

生駒氏

セッションの冒頭、ファシリテーターの生駒芳子氏が、児童労働や環境汚染などファッション界が長年抱えてきた問題を指摘。それらを見直す動きとして、ここ数年で自然環境を守るエコロジーに加え、人権や動物福祉などの視点も含むエシカル・ファッションが急速に広がっている。生駒氏は「エシカル・ファッションこそがラグジュアリーなのではないか、という考え方にシフトしつつある」と世界のトレンドを紹介した。

続いてパネリスト3氏が、事業内容やそれぞれの取り組みをプレゼンテーションした。

唐沢氏

唐沢海斗氏が代表を務めるラヴィストトーキョー(LOVST TOKYO)は、廃棄りんごから生まれた「アップルレザー」など植物由来のヴィーガンレザーを用いた、アップサイクルのアイテムを展開している。パッケージには土に還るものを、商品のタグには、植えると花を咲かせることができる“シードペーパー”を採用。今後は、青森産のりんごと国内産の皮革を用いた地産地消の商品開発にも乗り出すという。

嵜本氏

一方、嵜本晋輔氏が代表のバリュエンスホールディングスは「地球そして私たちのために循環をデザインする」とのパーパスを掲げ、ブランド品などのリユース事業をグローバルに展開。提携と直営を含めた買取専門店は世界18カ国170店舗に上り、国内では東京と大阪に計4店舗、従来の業界のイメージを覆すような、高級感に溢れたリユースショップを構える。商品のタグには、独自に算出したCO2排出削減貢献量などを記載し、「世にある中古品を再流通させることで、お客様の行動や購買がどれだけ地球に貢献できるのかを見える化」しているのが特徴だ。

坂口氏

またエシカル・ディレクターの肩書で活躍する坂口真生氏は、かつて勤めたアパレル企業で「エシカル」という言葉に出会い、2012年以降、エシカル経済圏を作る活動から始めた。展示会や百貨店でのキャンペーンなどが大きく広がりを見せ始めたところで、コロナ禍に。そこからラジオ番組を企画して情報発信に努めるとともに、「倫理と向き合うコンビニ」として、エシカルな商品を限定して取り扱うエシカルコンビニを立ち上げた。坂口氏はこうしたチャレンジの一つ一つを「環境都市のインフラをつくっているイメージ」で取り組んでいるという。

高くても売れていく理由を考えねばならない

セッション後半は、生駒氏がパネリスト3氏に質問を投げかける形で進行した。いくら崇高な理念を掲げても、実際に商品を手にしてもらわないと看板倒れに終わる。理念への共感を、どのようにして消費につなげるか。さらにその先のサステナビリティに向かうには、何が必要か。

エシカル商品が相対的に「高い」ことについて、唐沢氏は価格の意義を消費者に理解してもらうコミュニーケーションの重要性を指摘。「デザインが気に入ったとか、(購入への)入り口はどこにあってもいい」とした上で「本質的には、動物福祉や環境問題から入ってきた人たちの成功体験を最大限にしたい」と語った。エシカルブランドの共通の課題としては「共感以上の付加価値付け」を挙げ、「だからこそ挑戦として面白い」と続けた。

嵜本氏は「高くても売れていく理由を考えねばならない」と強調。その一つが、「新品を持つことがステータスというような固定観念が少なからずある」中で、リユースをよりファッショナブルに見せるためのブランディングであり、リユース品の購入を通じて気候変動問題に対して顧客が「ちょっといいことをしたな」と思える体験を提供することだという。最近では、CO2排出削減貢献量などを記したタグがSNSに投稿され、それを見て来店する客も増えてきているとし、「一定の手応えはある」と語った。

エシカル消費は今後さらに大きなうねりになっていくのか。この問いに対して、坂口氏は「現状、関係者には、まだブレークスルーしているというところまでいっていない感覚があるのではないか」との実感を述べた。その上で、消費者の「飽き」や「熱がさめる」ことがないよう、「最終的にエシカルが当たり前になることを目指したい」と強調。「本当の意味でエシカル消費がブレースルーしていくための仕掛け」として、近くメディアコンテンツとメディアコマースを中心に取り組む計画があることを示し、「エシカルで新しいビジネスモデルをつくっていく」と力を込めた。

会場からは、エシカル商品が手に入る場所をつくってほしいという要望のほか、リサイクルや廃棄に関する質問が寄せられた。生駒氏が「エシカル・ファッションの未来が見えるトークだった」と締め括った通り、エシカル・ファッションを巡る現状や課題の共有に加え、「トレンドの先」を感じられるセッションとなった。