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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

デンマークのエネルギー企業の事例に見るネットゼロ社会に向けたブランド変革

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day1 アフタヌーン プレナリ―

フィリップ・リネマン・Kontrapunkt Executive Creative Director

国際社会は2050年のネットゼロ実現に向けて足並みを揃えようとしている。今後10年以内に世界で10億人の人口が増えるとされる中、人類は気候変動、生物多様性の損失、増大する廃棄物、社会不平等とさまざまな課題に向き合いながら、リジェネレーション(地球の再生)を目指していかねばならない。デンマーク発の世界的に有名なブランドエージェンシー、「Kontrapunkt(コントラプンクト)」が、同国のエネルギー企業を世界で最もグリーンでサステナブルな企業へと抜本的に改革した秘訣とは――。

1980年代からデンマークの多くの官公庁や国際的な企業のデザインを手掛ける同社は、空間デザインやグラフィックデザインなどにとどまらず、経営戦略や企業ブランドの変革に対するサポートも行う。2015年には日本法人を設立。クライアントにはデンソーや日産自動車、三菱自動車工業、資生堂、アシックスなど多数の日本企業が名を連ね、これら企業のグローバルブランド展開への一端を担う。

そんな同社のクリエイティブディレクターを務めるフィリップ・リネマン氏はプレナリ―セッションで、「今やサステナビリティはみんなのビジネスになった。各企業がデザインを通じて変革を引き起こし、行動とコミュニケーションを同時に進めることで、気候変動を逆行させることができる」と強調。その1例として、同社の支援によって、抜本的なブランドの改革に成功したデンマークのエネルギー企業「オーステッド」の変化の道筋について語った。

オーステッドはカナダのメディア・投資調査会社『コーポレート・ナイツ』による「世界で最もサステナブルな企業100社(グローバル100インデックス)」で、4年連続上位にランクインしている。その背景には、コントラプンクトがブランディングのデザイン変革から並走してサポートしたことが大きい。

というのも、現在、デンマークで100年以上の歴史を持つ発電所の名前に由来し、デンマーク文字を取り入れた遊び心溢れる企業ロゴをもつオーステッドは、2016年までは「DONG(デンマーク石油天然ガスの頭文字を取ったもの)エネルギー」という会社名だった。リネマン氏によると、当時は従来型の大手企業で赤と黒をブランドカラーとし、「アクセスしにくい企業のイメージ」があったという。

2017年、そのDONGエネルギーのCEOが、コントラプンクトに「大胆なミッションがある」と伝えてきた。それは、「ブラックエネルギーを扱う企業から、グリーンエネルギーを扱う企業へと完全に変革したい。すなわち、CO2の排出量を減らしていく」というものだった。そしてその言葉通り、2007年には同社のビジネスの13%でしかなかったグリーンエネルギーは2017年には59%、2023年には95%と大きく増え、同社は風力発電の大手企業として抜本的な改革に成功したのだ。

抜本的な改革に着手したオーステッドのパーパスのプラットフォーム(リネマン氏がセッションで使用した資料より)

彼らは改革をどこから始めたか。まずはコントラプンクトがグローバルなブランド戦略を開発し、全体的な課題の定義を行い、目的を明確にした。そして、それを実際の行動へと移した。具体的には、全く新しいブランドに生まれ変わるため、社名とロゴのイメージを、デンマークならではの価値観と自然の力を表現するものへと変えた。その結果、企業ブランドは高まり、イメージの変革にとどまらず、従業員が自社への誇りと、新たな目的を持つようになったという。

「オーステッドは、気候変動を逆転させようという目的のために、戦略的にサステナビリティを強調し、それが評価されたわけです」。その過程で取り組んだコミュニケーションのキーワードとしてリネマン氏は、「大胆な(bold)」「楽観的(optimistic)」「独創的(inventive)」といった言葉を挙げ、「ソリューションリーダーとなることを目指し、行動とコミュニケーションを同時に進めることが大事だ」と強調した。

「2050年のターゲットに見合った目的をつくっていない組織は、ぜひそれを設定してください。そして、一方通行のコミュニケーションではなく、消費者がその目的を一緒に達成しようと感じられるようにしなくてはなりません。製品を売るために広告を行うのならば、むしろサステナビリティの真実を書くジャーナリストを雇ったほうがいいぐらいです」

セッションでは、リネマン氏自身が大好きだという、宇宙飛行士が宇宙から見た地球を映し出す動画を時間をかけて紹介する場面も。「自分自身が地球に脅威をもたらしているということを自覚し、責任を取らなければいけません。地球を宇宙から俯瞰して見ることで、我々は地球という同じ一つの宇宙船に乗っていることを実感することができるでしょう」とわれわれ人類が人種も国籍も関係なく共創・共存していくことの重要性を語った。(井上美羽)

井上美羽 (いのうえ・みう)

埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。都会より田舎派。学生時代のオランダでの留学を経て環境とビジネスの両立の可能性を感じる。現在はサステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人を発信している。