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脱炭素社会に向けスポーツ界も『気候行動枠組み』、IOC担当者が日本の団体に「できることから取り組みを」

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イメージ提供:一般社団法人 Sport For Smile

スポーツの世界でも脱炭素社会の実現に向け、気候危機対策を中心とした環境問題に取り組む流れが加速している。UNFCCC(国連気候変動枠組条約)とIOC(国際オリンピック委員会)が連携し2018年のCOP24で発足した「スポーツ気候行動枠組み」には現在、約300のスポーツ団体が署名。日本でも2021年からプロスポーツが連帯して気候変動問題に取り組む「Sport For Smileプラネットリーグ」が始動し、各スポーツがそれぞれのコミュニティでファンへの影響力を活用した意識変革と行動変容に力を入れ始めている。(廣末智子)

CO2排出量 2030年に半減、2040年に正味排出量ゼロにコミット

「スポーツ気候行動枠組み」は〈より大きな環境責任を担うため、組織的な取り組みを行う〉〈気候変動の全般的な影響を削減する〉〈気候変動対策のための教育を行う〉〈持続可能な責任ある消費を推進する〉〈情報発信を通じ、気候変動対策を求める〉の5原則を据えている。さらに、各団体が運営方法を持続可能な手法に変え、ファンへの啓発活動に力を入れることを約束。2021年のCOP26では、CO2排出量を2030年に半減し、2040年に正味排出量をゼロにするという「新基準」が発表された。

この「新基準」に署名する団体は、自動的に温室効果ガス排出量実質ゼロへの行動を促す国連のキャンペーン“Race to Zero”に参画することとなる。日本でも「Sport For Smileプラネットリーグ」に加盟するBリーグの「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」と「アルバルク東京」「群馬クレインサンダーズ」の3団体が新基準に署名し、“Race to Zero”の一員として、CO2排出量の削減のため、ファンが会場のアリーナに来る際に公共交通機関を利用するようアスリートが呼びかけるなどの活動を行っている。

また世界では「スポーツ・ポジティブ・サミット(Sport Positive Summit)」という国連とIOCの連携実施によるハイレベルフォーラムも2020年から毎年開催されており、スポーツ界として気候変動対策をはじめとする環境問題や社会課題に向き合い、今すぐ行動を起こそうといった議論が待ったなしで進んでいるという。

IOC サステナビリティマネージャーが日本のスポーツ界にエール

「Sport For Smileプラネットリーグ」のオンラインセミナーに登壇した、IOCコーポレート&サステナブルディベロップメントのサステナビリティマネージャー、ファブリジオ・ダンジェロ氏(イメージ提供:一般社団法人 Sport For Smile)

そうした中、「Sport For Smileプラネットリーグ」は、日本のスポーツ界のサステナビリティを牽引する団体を対象に定期的に行っているセミナーで新たなグローバル・スピーカー・シリーズを開始、その第1弾としてこのほど、IOCコーポレート&サステナブルディベロップメントのサステナビリティマネージャーを務めるファブリジオ・ダンジェロ氏がゲストスピーカーとして登壇。IOCが気候変動問題に対してどのようにコミットし、行動をしているのかについて語った。

ダンジェロ氏はすでに毎年の熱波や高温が多くのアスリートに影響を与えており、さらに「10年、20年先にはさまざまな形で気候変動の影響がスポーツに表れてくる」と指摘。そのために、「IOCは今こそ、スポーツ界のモデルとなるアクションをとらなければならない」として気候変動対策に立ち上がったという。

最初に取り組んだのは「インパクトを理解するところからだった」。つまり、イベントや競技を通じた人の移動や物品の調達など「スポーツ組織の活動の中で実際に自分たちがたくさんのCO2を排出していること」を自覚し、その状況がどれほど深刻なのかを「幹部をはじめとする内部のステークホルダーに分かってもらうことが非常に重要だった」とダンジェロ氏は振り返る。

「スポーツ気候行動枠組み」ではCO2排出量の算定においてスコープ1と2の計測を必須としているが、スポーツ界においてはCO2排出量の70〜80%がファンの移動などに伴うスコープ3に当たる。これらを減らし、2030年までにCO2排出量を半減するというコミットメントを達成するために、ダンジェロ氏は「各部門が目標値を持って努力し、排出を減らすことに資する取り組みを続けていく必要がある」と強調した。

またダンジェロ氏は国際テニス連盟やワールドセーリングなど、国際的なスポーツ連盟がスポーツ用品や器具などに使われている炭素繊維を再利用できる素材としてサプライチェーンの中で循環させる取り組み(炭素繊維循環アライアンス)や、国際ホッケー連盟などが大きなイベントを実施する際、新しい会場をつくるのではなく、サッカー等のスタジアムに敷き入れるだけで設置できる移動式のコートを利用するといった工夫をしていることを紹介。「持続可能な取り組みに資するような発想はどんなスポーツでも見つけていける。すべての組織が歩調を揃えて進んでいくことが重要だ」と述べ、日本のスポーツ団体にもできることから環境汚染や気候変動対策に取り組むようエールを送った。

同氏の考えでは、アスリートはアンバサダーの役割を担っており、例えば気候変動に対して連盟に働きかけるといったアクションを通じて、組織を動かすことも可能だ。つまり、スポーツの発信力はそれだけ大きく、問題解決の近道になりうるという。

スポーツ団体に所属する人は『世界の3.5%』になってほしい

「Sport For Smileプラネットリーグ」ではいち早くCO2計測を開始することにコミットした団体に対し、CO2計測事業者と連携してのクラウドサービスの無償提供を行っているほか、海外の団体の実務担当者や環境の専門家などを講師に迎えたセミナーやワークショップなどを企画し、日本のスポーツ団体の環境問題への対応を支援している。

同リーグを運営する一般社団法人「Sport For Smile」の梶川三枝代表理事は、「世界の3.5%の人がデモに参加することで社会は変えることができるというデータもあると聞いており、Sport For Smileではスポーツ団体に所属する人にはぜひその3.5%になっていただきたいと思っている。世界には戦争や飢餓で苦しんでいる人も多い中で私たちは恵まれており、スポーツの力を与えられた事業を営んでいる。日本でもそういった立場にあるスポーツ界の人々が最初に行動を起こし、ファンの影響力を活用して地球を守ることにつなげていきたい」と話している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。