都市に第二の森林を!~都市木造・木質建築への挑戦~
SB国際会議2023東京・丸の内
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Day1 ブレイクアウト
脱炭素社会の実現に向け、中高層建築に国産材を積極活用する動きが始まっている。森林が吸収した炭素を貯蔵するのは木材であり、それを建築に使うことが炭素の固定につながるからだ。外国では森林伐採による森林資源の減少が問題になっているが、日本は森林蓄積量が増えている。木材の活用は森林の環境維持にもつながる問題だといえる。「都市に第二の森林を!」という意気込みで木造の中高層建築に取り組む三菱地所と竹中工務店の考え方を見る。(依光隆明)
ファシリテーター
植原正太郎・NPO法人グリーンズ 共同代表
パネリスト
森下喜隆・三菱地所 関連事業推進室 室長
吉原正・三菱地所設計 R&D推進部 木質建築推進室長 兼 構造設計部 室長
松崎裕之・竹中工務店 参与 木造・木質建築統括
森下氏
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森下氏はデベロッパーとしての三菱地所の取り組みを軸に、サステナブルな森林の循環へと話を進めた。
「国土の7割を占める日本の森林蓄積量は52.4億立方メートルで、毎年8000万立方メートルずつ木が増えている。これをうまく使っていこうとするのが木造の一番の原点」と前置きし、「当然、伐ったところには木を植えていくということをしっかりやっていかなければいけない。それをすることによってCO2をしっかり吸収していく、それが森林循環につながっていく」と強調。
三菱地所が手掛けた数々の木造木質建築物を紹介し、「木造木質化を推進していこうという取り組みをグループ挙げて行っている」と説明した。
ディベロッパーでは珍しい挑戦としては、鹿児島県で竹中工務店と一緒に製材工場をつくり、都市木造に使いやすい形ですべての材を使い切るビジネスも展開している。
吉原氏
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次に吉原氏は、設計側の立場から近年注目が集まっているCLT(直交集成板)を話題にし、「欧州を中心に新たな木材建材CLTが技術開発され、大型建物に使われている」と報告。その利点は「RC(鉄筋コンクリート)に匹敵する強度で、重さはRCの5分の1から6分の1。施工が早く簡単。RCのように乾かす必要もない。軽いので構造がスリム化できるし、工期短縮ができる」点にあるとした。
吉原氏によると、CLTの製造量は「欧州では1995年からうなぎ上りに増え、2020年の調べでは75万立方メートル。これに対し日本は1.5万立方メートルで、欧州の25年ぐらい前の数値」にとどまっている。日本ではまだ少ないCLTを使った中高層建築物の例として、吉原氏は北海道材を約1000立方メートル使用した札幌市の11階建て建築物の試算を紹介。「木材の使用によって約790トンのCO2を固定した計算になる。これは乗用車に換算すると1000台分の年間排出量に当たる」と説明した。
松崎氏
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松崎氏は400年以上に達する竹中工務店の歴史を踏まえ、「古くはもう300年以上は木造建築を作ってきた」として、木造建築と同社の親和性を強調。さらに「2019年に10階建て、21年に14階建てをつくり、25年には17階建てをつくろうと頑張っている」と木造高層建築のロードマップを示した上で、「そのためにも山のことを考えなければいけない。森林サイクルを含んだ森林資源と地域社会の持続可能な好循環を、森林グランドサイクルと呼んで活動している」と報告。
一例として、2019年宮城県に日本初の高層木造建築を完成させた際、「山に利益を返すために植林をした」取り組みを映像で紹介した。
植原氏
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3氏のプレゼンテーションを受け、ファシリテーターの植原氏は「木造木質建築は本当にサステナブルなのか」と問題提起した。脱炭素のためには木を伐ってはいけない、木を保護しないといけないという声があることを踏まえての指摘だ。
これに対し森下氏は「海外では木を伐りすぎているケースがある」とした上で、日本の森林の現状を「使っても使ってもそれ以上に木が増えている。循環をつくることこそが大事だ」と強調。
吉原氏は「コンクリートや鉄は製造時にCO2を非常に排出するのに対し、CO2を吸う木材は炭素を貯蔵できる部材であり、都市に建物をつくることによって、都市が第二の森林となる」と述べた。松崎氏は「森林は伐ってこそ生きていく。ちゃんと手入れをしないと山は荒廃する。大雨が降ると土砂崩れやいろんな被害が出るが、それはやはり手入れをしないから。きちっと手入れをする、再造林していくということがサステナブルにつながる」と続けた。
SB国際会議2023が開かれた東京・丸の内では、三菱地所と竹中工務店も設計・施工に携わる形で、国産材を使い、木の使用量が世界最大規模となる東京海上日動の「木の本店ビル」が5年後に竣工する計画だ。これについてはセッションのタイトルにもなった「都市に第二の森林をつくる」という観点から、「構想木造建築の良さを体感できるエリアとして丸の内が先鞭をつけることができたら」(森下氏)と夢が語られる場面もあった。