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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

都市のレストランの社会的役割と、これからの『農』の在り方

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SB国際会議2023東京・丸の内

左から鴨田氏、岩澤氏、芹澤氏

Day1 ブレイクアウト

パンデミックを経て、人々の価値観が大きく変わった今、飲食業界においても材料の調達から料理を消費者に美味しく食べてもらうまで、すべての過程でサステナビリティに配慮した経営が必須の時代になっている。その最先端で腕をふるう2人のシェフと、都心に農園を広げるスタートアップの代表が、レストランの社会的役割や、食料自給率の低い日本でのこれからの『農』の在り方も含めて語り合った。(井上美羽)

ファシリテーター
下田屋毅・日本サステイナブル・レストラン協会 代表理事
パネリスト
岩澤正和・PIZZERIA GITALIA DA FILIPPO オーナーシェフ
鴨田 猛 ・ひらまつ サンス・エ・サヴール 料理長 

芹澤孝悦・プランティオ Urban Farmer / CEO & Co-Founder

フードシステムの変革は料理人の役割だ

東京・練馬のピッツェリア「PIZZERIA GITALIA DA FILIPPO」のオーナーシェフ岩澤氏は、地元の農家と連携するだけでなく、日本の地方にある食材の良さを再発見するために、地方に足を運びイベントや商品開発をしている。「料理人は、美味しいものを作ることに対して人生をかけているからこそ、地方に眠っている食材の価値を見出すことができる。その場所、その土地でしか食べれないものを地域の人々と一緒に発展させていきたい」という。

同店は昨年、日本サステイナブル・レストラン協会のサステナビリティ評価の三ツ星を獲得し、同協会が主催するアワードで調達賞も受賞した。これについて岩澤氏は「スタッフ全員がサステナビリティを意識して取り組んだ結果だ」と強調、「料理人が動けば地球の未来が変わる。フードシステムの変革は料理人の役割だ」として飲食業の次世代のロールモデルとなるための挑戦を責任を持って続ける決意を示した。

自然の危機に直面しているのは一次産業の方々

一方、東京・丸の内に店舗を構えるサンス・エ・サヴール料理長の鴨田氏は、「食のサステナビリティとは、すべての人が安心して食卓を囲めることだ」と話し、自然や環境に配慮した野菜や魚を使用し、生産者の思いの伝わるコース料理を提供するといった活動に力を入れていることを紹介。生産者との間で大事にしていることは「規格外野菜が出た時にも、気兼ねなく相談できる関係性の構築だ」と言い、「台風で倒れてしまった野菜でも、すぐに料理人に連絡してくれればピューレにするなど、いくらでも美味しくすることができる」と胸を張った。

活動の原点は、「たくさんの生産者と出会うなかで、自然の危機に直面しているのは一次産業の方々だとあらためて認識し、その問題を共有したい、と考えたこと。レストランが協力しなければ改善できないと気づいたことだ」と語る場面も。さらに「丸の内に店があるからこそ、伝えられることがたくさんある」とレストランをサステナビリティのハブとして機能させていく意欲を見せた。

一体誰が食糧の安全を担保するのか

2人のシェフの話に続き、全く別の切り口から食の持続可能性についての考えを表明したのは、世界初というIoTアグリセンサーを開発し都市農園を推進するスタートアップ、プランティオ Urban Farmerの芹澤氏だ。

「農家は100万人を切り、食料の調達をほとんど輸入に頼り切っている日本では、持続可能な農業を営むことは極めて難しい状況です。しかしいまだに日本では、野菜は農家が作るという他人事の国民意識が根強い。世界では80億人の人口を突破し、2年後に食肉が、5〜7年後には野菜が不足すると予測されている中で一体誰が食糧の安全を担保するのでしょうか?」

そう警鐘を鳴らす芹澤氏は、水やりや収穫の時期などをAIが知らせてくれるシステムを使って消費者が自分で野菜を栽培し、収穫した野菜を近くの飲食店に持ち寄って食べるところまでデザインした仕組みを構築。東京・大手町で都内最大級のシェアリング農園を実装している。

芹澤氏によると、世界では三ツ星レストランほど、自前の農園を持っているのが当たり前で、こうした自転車や歩いて行ける場所にある農園で育てた野菜を消費者へと届ける『ファーム・トゥー・ テーブル(Farm to Table)』の考え方は急速に加速。フランスでは一昨年、世界最大の屋上農園がオープン、ドイツのフランクフルトでは敷地の3分の1に野菜や果物を植えることが義務付けられているほか、ロンドンでは3080カ所以上の農園があり、12万人が自給自足しているという。

芹澤氏は、「環境貢献・地域活性・食農教育・食糧自給に関わる課題は『農』が『農業』になってしまったことにより出てきた課題であり、それらはすべて『アーバンファーミング』(都市部で野菜を育てる活動のこと)で解決できる」と力説した。

下田屋氏

これを受け、ファシリテーターの下田屋氏は「サステナビリティの課題を認識して行動を起こしていくために、まずは自分が食べるものの確保を考えていく必要がある」と話し、「都市でファームトゥーテーブルを行うには、どのような課題があるか」という問いを二人のシェフに投げかけた。
そこで岩澤氏は「都市における地産地消は理想だが、需要と供給のバランスを整えていくためにも、地方と都市の連携が大事」だとアーバンファーミングと同時に、地方の美食文化を守る重要性を改めて強調。鴨田氏も、「ネットで情報を得ることはできるが、実際に生産者と会って、感銘を受けることが大事」と、食と環境のプロである生産者から直接学ぶ必要性を説いた。

それぞれの視点から食の持続性を議論した今回のセッションであったが、パネリスト3氏の共通点は「作り手と食べ手をどれだけ近づけるか」という課題であり、一消費者としてもこれからの食と農の在り方について考えさせられる機会となった。

井上美羽 (いのうえ・みう)

埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。都会より田舎派。学生時代のオランダでの留学を経て環境とビジネスの両立の可能性を感じる。現在はサステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人を発信している。