サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サステナビリティに対する日本社会の成熟度を高めるために――メディアの責任と役割を議論

  • Twitter
  • Facebook

SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 ブレイクアウト

世界的にサステナビリティやESGを最重要課題と捉える流れが加速する中で、欧米に比べて日本では気候変動対策をはじめとする環境や社会問題に対して全般的にまだまだ意識が低いと指摘する声がある。日本でもサステナビリティに対する社会的な成熟度をもっと高めるために何ができるのか、問題を報じるメディアの責任と役割について議論がなされた。(依光隆明)

ファシリテーター
牛島慶一・EY Japan気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)プリンシパル
パネリスト
堅達京子・NHKエンタープライズ 第1制作センター社会情報部 エグゼクティブ・プロデューサー
小平龍四郎・日本経済新聞社 上級論説委員兼編集委員

はじめに議論の方向について、牛島氏はサステナビリティに関する国や地域、世代間の意識差に言及。その上で、「これらをいかに足並みをそろえて同じ方向に方向づけしていけるのか。そうしたことを考えたとき、メディアの役割、メディアとわれわれの関係性の中に改善すべきポイントはないのか」と問題提起した。

堅達氏

堅達氏は、ドキュメンタリー制作などを通じて15年以上、「あの手この手で気候変動や脱炭素、2015年にSDGsができてからはSDGsの番組を放送してきた」と前置き。昨年12月のCOP27もエジプトの現地で取材したが、そうした時にリアルに感じるのが、日本と海外の市民のサステナビリティに関する意識の差だという。

それは気候変動対策に関する調査結果にはっきりと出ている。「不思議なことに日本では脱炭素といったサステナビリティに関する取り組みをやろうとすると、コストがかかるとかネガティブに捉える人が6割もいます。世界では3割なのに。逆にサステナビリティに取り組めば、未来が良くなるとポジティブに捉える人は世界で6割を超えているのに、日本は3割しかいない」。

堅達氏は、昨年、新聞や雑誌、テレビやウェブメディアなどが垣根を超えて制作した番組「いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。1.5度の約束」の仕掛け人でもある。「サステナビリティに取り組むことで、暮らしも未来も経済もビジネスもよくなるという事実をうまく伝えていかなくては。1.5度の約束を達成するには、私たちメディアの役割も大きい」と述べた。

小平氏

一方の小平氏は「モヤモヤ感」という表現で言葉の問題を俎上に載せた。「サステナビリティとかESGとか、薄っぺらい感じがして腹落ちしないという声を非常によく聞く」とした上で、そのモヤモヤの根源は、「アルファベットの用語が非常に多いことにあるのではないか」と指摘。そして「数あるアルファベットの中で一番メジャーなのはESGだ」とし、日経新聞朝刊にESGという言葉が載った回数を紹介した。

小平氏によると、ESGという言葉が増え始めるのが2015年で28回。以来急速に増え、2022年には837回に達した。2003年の記事を紹介しながら、小平氏は「当時はSRIという言葉が一世を風靡していた。これは社会的責任投資と訳されるが、概念はESGと全く一緒」と説明。「過去いろんなアルファベット用語が流行っては消えていった」として、「ESGとかSRIとかSDGsとか、あまり表面的な言葉にこだわらない方がいいのではないか。報道する際は言葉だけを追いかけるのはやめようと思っている」と述べた。

また小平氏は、サステナブルな経営を行うグローバル企業の市場評価の図表などを示しながら、「まだまだ世の中に良いことをしようという企業が市場の評価を得るところまではいっていない」とも指摘。「そういう意味で、サステナブルブランドというものが、本当に持続可能なのかどうかが、今まさに問われており、報道する側としては面白いテーマだと思っている」という。

牛島氏

牛島氏は自身の体験として「取材を受ける時に、日本の企業がうまくやっている事例を求められる場合と、海外ではもっと進んでいるのに日本の企業は大丈夫か、という事例を求められる場合と、二通りがあるように感じるが、その意図はどこにあるのか」と小平氏に質問。

これに対し、小平氏は「新聞記者には『出羽守(ではのかみ)』がいる。二言目にはすぐ『欧米では』と書く人のことだ」と前置きしてこう答えた。「日本経済新聞にも出羽守がたくさんいる。自分も時々書く。その根っこにあるのは、記事を通して読者に行動変容を起こさせたい、社会を良い方に変えたいという問題意識だ」。

この『行動変容』という言葉を、牛島氏は「重要なキーワードだ」と受け止め、「社会の行動変容を起こすために、メディアは大きな役割と責任を担っている」と総括。

最後に現状のメディアの課題を2氏に問い、堅達氏は「サステナビリティでいえば、やはり科学に基づいて気候変動や脱炭素を報道しないといけない。ところが日本のメディアは人材が不足していて、専門記者の数が圧倒的に足りていない。記者クラブ制度もある中で、2年かそこらで担当も変わっていく」と指摘。これに小平氏も「全く同感」と応じ、「専門性」と「分かりやすさ」の二つを兼ね備えることこそが「ジャーナリズムの専門性だ」と強調した。