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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サステナビリティは持続可能ではない。リジェネラティブなシステムこそが必要だ――チャド・フリシュマン氏が直言

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SB国際会議2023東京・丸の内

Day2 プレナリー

チャド・フリシュマン・RegenIntel CEO & Founder

3年にわたるコロナ禍を経て、海外から来日したスピーカーや参加者も多かった今年の国際会議。中でもSBグローバルから初登壇したチャド・フリシュマン氏の「(今取り組んでいる)サステナビリティは、持続可能ではない」とする直言に、ハッとさせられた人も多いだろう。私たちの心に強烈に響く、そのメッセージの真意はどこにあるのか。

「地球温暖化を食い止め、逆転させるだけではなく、私たち人間がプラネットポジティブな存在にならないといけない」

そう切り出したフリシュマン氏は、『人間がプラネットポジティブな存在になる』という意味について、「人間と地球の健康、ウェルビーイングは一体であると気づくことが何よりも重要。私たちは自然から切り離された存在ではなく、生物多様性の一部だと理解することだ」と説明。そして、そのような存在になるためには「現状の、内在的な搾取を前提とした平等ではない経済や社会のシステムから脱却し、さまざまな側面においてリジェネラティブな(再生可能な)システムにつくりかえていくことが必要だ」と語気を強めた。

それに続く文脈で発せられたのが、記事冒頭の、「サステナビリティは持続可能ではない」という言葉だ。これについては、国際会議の前日に行われたSB-Jフォーラムでもフリシュマン氏が熱く語る場面があった。そこから氏の言わんとするところを紐解くと、例えばSDGsの目標について、氏は「貧困にあえぐことがない、飢えることがない、清潔な水へのアクセスがある、といった人々の最低限の暮らしの話をしているに過ぎない」と指摘する。しかしながら、私たちが目指すのは「すべての人々のベストのウェルビーイング」であり、「単に飢えをしのぐというような話でなく、すべての人々が喜びに満ちた生活を実現していくのが本来のあり方」というのが氏の論点だ。

「ですから、今取り組んでいるサステナビリティの活動を止めてくださいというのではありません。しかし、その持続可能な目標を、サステナビリティを、超えていかなければいけない。ベストでかつ最も喜びに満ちた状態を目指すには、リジェネラティブなシステムこそが必要ではないでしょうか」

100のソリューションを実行し、日々の振る舞いを変えれば1.5度目標の達成は可能だ

地球温暖化を逆転させるための方法を実行することは、貧困や飢餓の根絶、ジェンダー平等といったSDGsの目標達成にもつながることを表したチャド氏作成の図

リジェネレーション(再生)はサステナブル・ブランド国際会議でも2021年、2022年とグローバルのテーマに掲げられてきた。世界の潮流は今、従来型の大量生産・大量消費主義の経済モデルから、地球環境との共生を意識した持続可能なモデルへと転換し始めており、より意識的に地球や暮らしの環境を再生(リジェネレーション:Regeneration)する形で社会を構築する「再生型ビジネス」「再生型経済」へ踏み込むことが求められている。

フリシュマン氏はこのリジェネレーションについて分かりやすく解説したポール・ホーケン氏による著書『ドロ―ダウン―地球温暖化を逆転させる100の方法―』のリサーチ・ディレクターも務めている。初来日となった今回の会議では、同書に出てくる地球温暖化を逆転させるための温室効果ガスの削減方法について、再生可能エネルギーやフードロスの削減、土壌再生型農業など、科学者の研究によって効果が数字で実証された上位25位を示しながら、「私たちの日々の振る舞いを変え、100のソリューションすべてを実行することによって地球環境を回復させることができる。再生可能型の将来をつくっていくためのエコシステムはすでにあり、温暖化の1.5度目標を達成することは可能だ」と訴えた。

ここで重要なのは、「どういった将来になるべきであるのかを想像し、その道筋はどこにあるのか、到達点をきちんと見据えること」だ。その上で新たなソリューションを導入することは、多大な費用対効果を生み、「地球を救うだけでなく、経済をも救うこと」にもつながる。さらには「分散的なメカニズムを使って、インクルージョンを意識しながら行う」ことにより、貧困や飢餓の根絶、安全な水など衛生環境の整備、そしてジェンダー平等といった「SDGsの目標をすべて達成することができる」という。

最後にフリシュマン氏は、「みなさんのような会社のリーダーや投資家、政治家に再生型の将来を率いていってほしい。Z世代やX世代などの呼び方がされるが、われわれ全員が『リジェネレーション(リ世代)』を担っていく存在であり、みなが一丸となって、リジェネレイティブフューチャー(再生型の将来)を実現していかなくてはならない」と会場に力強く呼びかけ、セッションを終えた。(廣末智子)

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。