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「森林×化学」で石油に頼らない暮らしを次の世代へ――日本が資源国になるチャンス

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SB国際会議2023東京・丸の内

吉井氏(左)と、後列左から時計回りに添田氏、加賀山氏、小野氏、辻氏

オンデマンドセッション

カーボンニュートラルな社会の実現のためには、産業構造の大胆な変革が必要だ。その鍵を握るのが、日本の国土の7割を占める森林。そのうち未利用の森林バイオマスを、化石燃料の代替原料として活用する「グリーンリファイナリー」推進の機運が高まっている。「森林×化学」の実現はどんな未来につながるのか。(有村絵理)

ファシリテーター:
吉井拓史・日揮ホールディングス サステナビリティ協創部 アシスタントマネージャー
パネリスト:
辻佳子・東京大学 環境安全研究センター センター長/教授
添田美彦・太陽石油 経営企画部 サステナビリティ推進グループ グループ長
小野哲也・久万高原町役場 林業戦略課 課長
加賀山浩司・日揮ホールディングス サステナビリティ協創部 プログラムマネージャー

初めに、森林と化学産業の連携の意義について、辻氏が、「新しい技術開発が日本の競争力の源泉になる。温室効果ガスの排出者である化学産業が地球温暖化の解決者になっていかなくてはならない」と強調。プラスチックや合成ゴム、洗剤などの基礎化学品の石油に代わる原料としては、同じ炭素と水素を持つ「木」が有望であり、「木質バイオマスを化学燃料に活用できれば、製品に炭素を固定するリジェネレーティブな(再生可能な)活動となる」と述べた。

その具体的な方法を、グリーンリファイナリー事業を推進する日揮の加賀山氏が解説。キーワードは「急速熱分解」だ。細かくした木に500度の熱媒体を接触させて急速に加熱すると、太古のシダや動植物の死骸が何億年もかけて石油になる現象が再現され、そこから「バイオ原油」を作り出すことができるという。

このようにして作られたバイオ原油は、不純物として酸素が含まれる。しかし「石油精製所の技術を使えば取り除けるはず」と、日揮と協力してグリーンリファイナリー事業を進める太陽石油の添田氏は胸を張る。
林業が根幹産業である久万高原町の小野氏は、グリーンリファイナリー事業について「伐採の際に捨てられている根や枝、葉なども取引されるようになれば、森林の価値が上がる」と地域経済への効果に期待を寄せた。

こうした技術開発はなぜ今までなされてこなかったのか。添田氏は課題の一つにコストがあったと指摘した。しかし「高くても石油製品以外を使いたいという顧客が出てきた。精油所も変わっていかなくてはいけない」と状況の変化を前向きに捉える。もう一つの課題である原料調達について加賀山氏は、「建材やバイオマス発電に使わない“林地残材”を活用すれば十分確保可能だ」と述べた。

久万高原町の林業の現場が動画で紹介された

セッションは続いて久万高原町の林業の現場を動画で見ながら、木を伐り、循環させることの重要性を確認。辻氏は「森林に多くCO2を吸収してもらうためには木をよみがえらせる必要がある」、小野氏は「このまま推移していくと日本の森林資源がだんだん枯渇していく。そうさせないためにも皆伐して再造林していくことが必要だ」と強調した。

森林×化学の多様な価値が実現した未来はどんな社会になるのか――。加賀山氏は「まずは原油の代替としてプラスチックに変えることで、資源循環が可能になる。最終的には服や携帯など身の回りの物がすべて木から作られるようになるのでは」、小野氏は「森が資源として利用できれば、町にも活気が戻ってくる」、添田氏は「原油の輸入で海外に流れていたお金が国内で循環すれば、経済が潤う」とそれぞれにポジティブな考えを披露。辻氏は「日本が資源国になるチャンス。そこに向かって産業間連携を強め、皆で同じ方向を向き、それぞれの役割の果たすことが重要だ」と力を込めた。

ファシリテーターの吉井氏は最後に、「石油に頼らない暮らしを次世代へつなぐためには産官学に限らず、すべての人たちが一緒に取り組んでいくことが大事。より多くの人に、木の新しい価値について興味を持ってほしい」と述べ、セッションを終えた。

本オンデマンドセッションは、3月31日までSB Online(アーカイブ視聴サイト)でご視聴いただけます。
※ご参加登録者様限定
https://sustainablebrandsonline.jp/login