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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

日本酒や惣菜工場、温浴施設や学校も…「カーボンニュートラル都市ガス」活用続々

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カーボンニュートラル都市ガスを使用して酒米を蒸す光景(神戸酒心館)

2023年もエネルギーを巡る不透明な要素は拭えず、価格の高騰も続く見通しだ。そんななか、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた移行期のエネルギーとして世界的に需要が高まるLNG(液体天然ガス)の日本企業への供給に際し、同ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスをCO2クレジットで相殺し、地球規模ではCO2が発生しないとみなす「カーボンニュートラルLNG」を活用した都市ガスを普及させる動きが進んでいる。日本酒や惣菜工場、スポーツクラブや温浴施設、小中学校や大学など、意外にも私たちの生活に身近なところで取り入れられているというその場面を紹介する。(廣末智子)

『世界初カーボンゼロの日本酒』

日本の新春気分を盛り上げる酒米を蒸す風景。神戸市の六甲に酒蔵を置く「神戸酒心館」は、宝暦元年(1751年)の創業以来、13代にわたって日本酒「福寿」をつくり続けている。昨年10月、『世界初カーボンゼロの日本酒』として「福寿 純米酒 エコゼロ」=写真=を発売した。

同社の『カーボンゼロ』は、非化石電源によって発電された関西電力のCO2フリー電気を使用するとともに、大阪ガスの子会社であるDaigasエナジーによる「カーボンニュートラル都市ガス」を活用し、米を蒸す工程(蒸米)と酒を熱殺菌する工程(殺菌)、酒を詰める時に瓶を洗う工程(洗瓶)で必要なエネルギーのカーボン・オフセットを実現したことによって達成した。

環境負荷の低減と、売上増加やコストダウンによる経済価値を両立させることによって酒蔵の継承と発展を目指す同社は、「高品質な酒米を大量かつ安定的、長期的に調達できるかどうかは、事業継続の生命線となる」として、2050年までにバリューチェーン全体のCO2排出量ネットゼロを掲げる。カーボンニュートラル都市ガスの導入もその取り組みの一環で、「既存設備のまま気候変動問題に取り組むことができ、品質を保つことにもつながる」ことが導入の決め手になったという。

「カーボンニュートラルLNG」とは、天然ガスのうち、その採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスを別の場所の取り組みで吸収・削減したCO2で相殺することにより、 地球規模ではこの天然ガスを使用してもCO2が発生しないとみなすものをいう。日本では東京ガスがこの「カーボンニュートラルLNG」を2019年から輸入・調達し、これを気化・熱量調整して「カーボンニュートラル都市ガス」として商品化。現在の技術では短期的な脱炭素化が困難な熱分野におけるCO2排出量削減の実行可能な手段として、工場やビルなどの法人向けに供給を開始した。

カーボンニュートラル都市ガスを使って作った「ロック・フィールド」の牛肉のグリル

さらに2021年8月には大阪ガスもDaigasエナジーを通じてカーボンニュートラル都市ガスの業務用供給を始め、低・脱炭素化に対するニーズの高まりを背景に、導入先が徐々に拡大。2022年11月末時点で71社にまで増えた。

神戸酒心館の日本酒はその一つで、そのほか、消費者に身近なところでは神戸コロッケなどの惣菜ブランドを手がける「ロック・フィールド」(神戸市)も同年10月にカーボンニュートラル都市ガスを導入。同社の広報担当者によると、理由は「電化調理では補えない品質維持と環境配慮の両立のため」で、商品を通じて「お客様にも環境配慮に参加いただいているということがブランドの信頼につながれば」という期待を込めているという。

露天風呂の温度調整にもカーボンニュートラル都市ガスを使用した「天然温泉 延羽の湯」

また大阪府羽曳野市と大阪市東成区にある温浴施設「天然温泉 延羽の湯」でも同年8月にボイラーなど館内すべてのガスをカーボンニュートラル都市ガスに転換した。運営する延田エンタープライズ(大阪市)の担当者は「露天風呂のように外気に触れる環境での温度調整にはガスによる高温の熱エネルギーが欠かせない。カーボンニュートラル都市ガスによって、環境に配慮しつつ、温かいお風呂を提供していきたい」と話す。

東京ガスと供給先企業の「アライアンス」加盟65社に拡大

一方、この間、東京ガスは2021年3月、カーボンニュートラル都市ガスを導入する企業・法人と一丸となって同ガスの普及と利用価値向上の実現を目指す「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立した。加盟企業にはアサヒグループホールディングスやいすゞ自動車、オリンパスなどが名を連ねている。同年11月には「丸の内熱供給」による東京・丸の内地区への国内最大規模のカーボンニュートラル都市ガス導入が実現したほか、金融機関初(三井住友信託銀行)や飲料業界初(ヤクルト)、ショッピングセンター業界初(ルミネ大宮)のカーボンニュートラル都市ガスが登場するなど、さまざまな業界で同ガスによるCO2排出量の実質ゼロ化が進んでいる。

アライアンスの加盟企業は2023年1月現在、当初の15社から65社へと増え、カーボンニュートラル都市ガスの供給件数は100件を超えるまでに広がった。その中には大阪ガスの事例のように、生活者にとって身近な場面でいつの間にかカーボンニュートラル都市ガスに切り替わっている事例も多いようだ。

プール施設の室内環境や水温維持に必要な熱エネルギーをカーボンニュートラル都市ガスに切り替えた「セントラルフィットネスクラブ青砥」

例えば、フィットネス業界で初めて、プール施設の室内環境や水温維持に必要な多くの熱エネルギーをカーボンニュートラル都市ガスで賄う「セントラルフィットネスクラブ青砥」(東京・葛飾)。広報担当者によると、「脱炭素や気候変動対策、SDGsに社会的関心が高まるなか、設備を大きく変更せずに環境貢献を目指せる」ことから2022年4月に同ガスに切り替え。これを機に、社内では「空調や給湯の温度を適切に設定し、漏水時には迅速に対応するなど、施設を適切に運営することが地域貢献につながることを改めて意識し、行動に移している」という。

小中高や大学など教育現場にも普及

施設内で使われるすべてのガスをカーボンニュートラル都市ガスで賄う学校法人玉川学園

このほか当然の流れではあるが、カーボンニュートラル都市ガスは教育現場にも普及しつつある。幼・小・中・高等部から大学、そして大学院まで運営する学校法人玉川学園(東京・町田)は2021年2月に敷地内で使用するすべてのガスをカーボンニュートラル都市ガスに転換し、全小学5年生を対象に SDGsや環境問題をテーマにした授業を東京ガスとともに開催するなど、子どもたちへの意識づけにも活用している。

主に空調、給湯等で使用する熱エネルギーをカーボンニュートラル都市ガス由来に変更し、カーボン・オフセットを実現した早稲田大学

最後に紹介するのは2021年11月に「WASEDA Carbon NetZero Challenge 2030s」を宣言した早稲田大学だ。宣言の内容は、CO2排出量を削減するための最先端の研究開発を推進するとともに、学生に「カーボンニュートラル・マインド」を育み、創立150周年を迎える2032年をめどに各キャンパスにおけるCO2排出量の実質ゼロを目指すとするというもの。このロードマップに沿い、2022年4月に早稲田・西早稲田・戸山の3キャンパスで、主に空調、給湯等で使用する熱エネルギーをカーボンニュートラル都市ガスへと変更した。
広報担当者によると、HPを見て、他大学や同じく民間によって認証されたCO2クレジットを取り扱う企業から問い合わせがあるなど、早稲田大学が同ガスを導入した反響は大きいようだ。

東京ガスによると、同社が活用する「カーボンニュートラルLNG」のカーボンオフセットの仕組みは、新興国における森林保全や植林などのプロジェクトによるCO2の吸収や削減効果を認証したもので、同社の広報担当者は「気候変動対策と社会貢献性を兼ね合わせた商材と認識している。お客さまに今足元でCO2削減が実行できる有効な手段として提供し、アライアンスの枠組みを通して、供給元の1社だけでは難しいカーボンクレジットの社会的な位置付けを高めていきたい」と話している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。