サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

全世界の拠点で2023年に100%再エネ化を――「ESG説明会」でエプソンが強調

  • Twitter
  • Facebook
セイコーエプソン富士見事業所屋根上の太陽光発電設備(セイコーエプソン提供)

「省・小・精」から生み出す価値で人と地球を豊かに彩る――。創業80周年を迎えたセイコーエプソンが、社会課題を起点にした活動を一層強化することで事業成長を果たし、それによってさらに多くの社会課題を解決する「価値向上のループ」を回し続けていくための事業変革を次々に打ち出している。昨年11月には国内の全拠点で再生エネルギーへの転換を実現、来年の2023年にはグループ全体で100%再エネ化を達成する見込み。このほど機関投資家や証券アナリスト、メディアを対象に初めて開かれた「ESG説明会」の内容をもとに、主に環境負荷低減に貢献する分野における同社の意気込みを改めて紹介する。(廣末智子)

「『省・小・精』から生み出す価値で人と地球を豊かに彩る」をパーパスに制定

機関投資家や証券アナリスト、メディアを対象に開かれた「ESG説明会」で発言する小川恭範社長

ESG説明会の冒頭、小川恭範社長は、長野県の諏訪湖畔に時計工場として創業した同社が、1980年代に世界に先駆けて「フロンの全廃」を掲げて全世界で達成するなど、環境との調和を大切にしてきた経緯に言及。

さらに「私たちは、『省・小・精』の技術で人々の暮らしを豊かにし、自然の豊かさを守り、未来へつないでいきたいという強い思いがある」と続け、今年9月、「グループ全社員がブレることなく、迷うことなく、自信を持って前に進んでいくために」、改めて「『省・小・精』から生み出す価値で人と地球を豊かに彩る」という文言をパーパスに制定したことを説明した。

「省・小・精」とは同社が独自に培ってきた「省エネルギー(省)」と「小型・軽量(小)」、「精密(精)」の技術を指す。小川社長はその言葉の意味を「大きいこと、量が多いことだけが豊かさではない。省くこと、小さくすること、精緻さを突き詰めること、これこそが自然環境にやさしく、人々のこころを豊かにできるものだと信じている」と述べ、今後はこのパーパスを旗印に、「顧客価値、社会価値を創出し続ける」と強調した。

社会とともにエプソンも成長する、それが企業価値だ

続いてサステナビリティ推進室室長の瀬木達明専務が登壇し、9月30日に発表された「統合レポート2022」の内容を基に、同社のサステナビリティ経営戦略について紹介。最初に「社会とともにエプソンも成長する、それがエプソンの企業価値だ」とした上で、同社のサステナビリティ経営戦略が大きく「事業イノベーションによる社会課題解決=成長戦略=」と、「社会的責任の遂行=持続化戦略=」の2つで構成されることから説明がなされた。

図1=エプソンESG説明会配布資料「エプソンのサステナビリティ経営」より

それによると、この2つを「環境への投資と費用投下」の観点に当てはめた場合、「事業イノベーション」では環境配慮型の商品や装置を提供し、顧客の環境負荷を低減する研究開発と設備投資に毎年1000億円(10年で1兆円相当)を投資する▷さらに、環境技術の開発や導入、省エネやリサイクの仕組みを構築する「社会的責任の遂行」のための費用として2030年までに約1000億円を投入することになるという=図式1=。

この「社会的責任の遂行」のための費用である約1000億円は、TCFD(気候関連財務情報タスクフォース)のシナリオ分析における「移行リスク」として想定される財務影響の額に相当する。一方で、同分析の「機会」は、顧客の環境負荷低減への貢献による事業成長として、年平均成長率15%と、大きなプラスの影響を見込んでいることが説明された。そこから見えてくるのは、事業イノベーションによる社会課題解決と、社会的責任の遂行を両立させながら企業価値の向上を目指す同社のあるべき姿だ。

2021年度のGHG排出量、スコープ1・2は41%、スコープ3は38%削減 目標大きく上回る

「省・小・精」の技術を筆頭とする、エプソンならではの価値の中から、ここでは「社会的責任の遂行」の観点における同社の脱炭素の取り組みについて改めてみてみよう。

図2=エプソンESG説明会配布資料「エプソンのサステナビリティ経営」より

同社は「2050年カーボンマイナス」を掲げ、そのマイルストーンとなる2025年度の温室効果ガス排出量をいずれも2017年度比でスコープ1・2 (自社排出)は34%、スコープ3(サプライチェーン全体)は44%の削減を目指す。その過程で2021年度は前者が17%、後者が22%の削減を目標にしていたが、実績は41%と38%となり、目標を大きく上回ったという=図2=。

その牽引力となったのが、再生可能エネルギーへの転換だ。同社は昨年11月、当初の計画(2022年3月まで)を前倒しし、国内のRE100加盟企業で初めて、国内拠点における使用電力の全て(年間530ギガワット時)を再エネ化し、年間25万トンのCO2削減効果を生み出した。さらに海外における同社最大の生産拠点の一つであるエプソン・インドネシアにおいても今年7月までに100%再エネ化を完了。2023年にはグループ全体で100%を達成する計画で、実現すれば、グローバルで電力起因のCO2排出量をゼロにすることができる。

再エネ化を巡っては、質疑応答でも証券アナリストから質問が相次いだ。このうち21年度実績の温室効果ガス排出量が大幅に削減していることの要因を聞く質問に対しては、瀬木専務が「やはり再エネ化だ」とした上で、「今後はスコープ1・2に加え、スコープ3の削減に向け、いちばんハードルの高い環境技術開発にも費用をかけていく必要がある」とする考えを示した。産業界ではスコープ3における削減計画が大きな焦点となっているが、同社でも実現のための環境技術開発の成否が大きなカギを握っていると言える。

また国内100%化が早いタイミングで実現した背景について、「長野県に拠点があることから水力発電の活用がしやすかったのか」という質問には、小川社長が「まさにそうだ。長野県と中部電力と協力し、水力発電に取り組んだのが一番にある。とにかく国内でできることからやろうということで計画を前倒しして実現した」と回答。「次の課題は2023年の全世界での再エネ化。まだ少し時間はかかるがしっかりとやっていきたい」と力を込めた。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。