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自分は何のために生き、働くのか SOMPOが推進する“MYパーパス”づくりとは

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何のためにその企業が存在しているのかというパーパス(存在意義)を軸とする「パーパス経営」を推進する企業が増えるなか、社員一人ひとりの思いに焦点を当て、個人のパーパスと会社のパーパスを重ね合わせて変革につなげようとする動きがある。その一つ、「MYパーパス」を起点とした新たな企業風土の形成に力を入れるのがSOMPOホールディングスだ。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜で行われた同社の“体感ワークショップ”の様子を通して、自分は何のために生き、なぜ働くのかを言葉にすることの重要性とそのための手法を紹介する。(廣末智子)

仕事場は人生のほんの一部に過ぎないことを再確認する必要がある

「僕たちは仕事にきているが、仕事場は人生のほんの一部に過ぎないことを再確認する必要がある。人生の目的を達成するための一つの装置であったり、場であるのが会社だ」

高校生たちの姿も多く見られたワークショップ。約40人の参加者を前に、SOMPOグループの櫻田謙悟CEOが社員に向かってそう語り掛ける動画が共有された。同社がグループ全体で推進するMYパーパスを起点としたフレームワーク構築の一環で、CEO自らが社員と対話するタウンホールミーティング(対話集会)の一場面だという。

同社グループは「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」をパーパスに掲げる。その会社のパーパスを一人ひとりの社員が日々の仕事のなかで体現していくためにも、MYパーパスを明確化することが第一歩とされる。

その流れでCEOが発した冒頭の言葉は、グループの考えるこれからの働き方を象徴している。つまり、仕事に追われる日々を指す「会社人生」とは真逆で、当然のことだが、自分の人生の中に会社があり、仕事がある。その価値観のパラダイムシフトこそが、今、大前提として求められているということだ。

生きがいを感じた瞬間はどんな瞬間だったのか

ではどうすれば、そのMYパーパスに向き合えるのか。

SOMPOでは役員が部長と、部長が課長と、課長が担当者と、というように、上司と部下が1対1で対話を進める「MYパーパス1on1」と呼ばれる研修を推進し、その中で自らのパーパスを書き出す実践を重ねている。具体的には対話によって、相手の“Want(したいこと)”と“Must(すべきこと)”と“Can(できること)”の3つを引き出し、各自がそれを重ね合わせて、言葉を紡いでいく手法がとられているという。

ワークショップでは、社外パートナーとしてこの研修にかかわるTHINK AND DIALOGUE(横浜市)のCEO、富岡洋平氏が講師を務め、最初の一歩となる“Want”を問いかけるところに絞って、参加者一人ひとりにその場でMYパーパスづくりを体感してもらう時間がとられた。

富岡氏によると、“Want”とは具体的には「普段仕事をしていてやりがいを感じ、ワクワクすること」を指し、その手がかりは「過去の出来事が全部教えてくれる」という。例えば、「5年前でも10年前でも、20年、30年前でも、あるいは1週間、1時間前でもいい。生きがいを感じた瞬間はどんな瞬間だったのか」をまずは振り返るのがポイントだ。

この時、対話が重要になる。その理由を富岡氏は、「自分で自分のことを知る近道は誰かに聞いてもらうこと。目の前の人に興味を持って質問されると、その人のために自分の考えを伝えたいという気持ちが自然と働くからだ」と強調した。

質問のコツは「ただ引き出すだけでなく、ツッコミも入れること」。どの瞬間に生きがいを感じたのかを聞いた後、「それはなぜ?」「いつから?」「ほかにもある?」と質問を重ねることが、MYパーパスに近づく鍵になるという。

上記の説明の後、会場では早速、2人一組の対話が実際に行われた。8分ごとにインタビュアーが交代し、お互いの“Want”を聞き出す形式。ほとんどの参加者にとっては生まれて初めての体験だ。

人は誰でもインタビュアーになれる⁉︎

これが初対面の2人はどこまでお互いを分かり合えるのか。筆者は、あるペアのやり取りを聞かせてもらった。高校生に社会課題への研究プログラムを提供するNPO活動に力を入れる19歳の大学生と、一般企業の管理職を務める50代男性の組み合わせだ。

最初の聞き手は企業の男性で、「ワクワクする瞬間は?それはなぜ?いつから、どんな時にそう思うように?」とテンポ良く大学生に質問。これに大学生は、「人の役に立てたなと思う時。友達の相談に乗ったことがきっかけで。(NPOでは)メール連絡など細かな業務を担当していて、他のメンバーができないことを請け負っているのに喜びを感じる」と少しずつディテールを話し、NPO活動を通じた自身の目的を「自分は高校時代、課外活動に参加できなかったので、後輩にはたくさん経験してもらいたい」と続けた。

次に答える側に回った男性は、大学生に、会社でずっと営業畑を歩んできたことで「やはりお客さまの事業の価値向上につながるような事業を通じ、お客さまに声をかけていただいた時の喜びが大きい。管理職になり、会社を支える立場になってからは、それが株価に反映されると嬉しいと、特に思うようになった」と率直に語った。

すると、大学生は「若手の時に感じていた喜びは何か?」と問いを重ね、男性は、「全社員のことを考えて、これがあれば楽になるというシステムを導入し、それが会社から表彰された時かな」と回答。さらに一瞬考えた後、「実は中学生の頃まで人に迷惑ばかりかけていて。高校生になった時、自分を変えようと思ってクラブ活動の部長になったり、リーダーとして動くようになったんだった」と自分の原点を口にした。よみがえった記憶の糸。男性は「久々に昔を思いだした。本当にありがとう」と笑顔で話し、大学生も良い表情で対話は終わった。

このやり取りを筆者が間近で見て感じたのは、人は誰でもインタビュアーであり、インタビュイー(話し手)になれるということだ。

大事なのはその人のストーリー 成功も失敗もパーパスにつながる

富岡氏によると、ワークショップのテーマとなった“Want”とともにMYパーパスの軸となる“Must” は「この社会に生きる1人の人間として何をすべきか」を、“Can” は、「これまでの人生で培った力」をそれぞれ指す。そして“Must”を引き出す時のポイントは、“Want”の時とは反対に、「悔しかったり、悲しかったり、怒りを覚えた瞬間」を紐解くことが、鍵になるという。

対話タイムを終え、富岡氏は、「大事なのはその人のストーリー。われわれはロボットではなく、自分の人生の主人公として生きている主役であり、一人ひとりに物語がある。嬉しかったことも辛かったことも、成功体験も失敗体験も、ぜんぶが必要な経験であり、それらが重ね合わさったところに人生において頑張り続けられるパーパスがある」と力説。「ぜひ皆さん、“Want” “Must” “Can”を振り返り、『私はこのためにだったら頑張れるんだ』というMYパーパスを文章にして仲間と語り合ってほしい」と改めて呼びかけた。

ワークショップの中でSOMPOは、MYパーパスの一例として、《私は生命保険という素晴らしい仕組みを正しく社会、世の中の人に伝えていきたい。それによって身体的、金銭的に皆さんに、健康になっていただきたいということをマイパーパスとして掲げています》というグループ社員のパーパスを紹介。

昨年10月、THINK AND DIALOGUEとセルム(東京・渋谷)との共同で、MYパーパスを起点とした経営改革に取り組むための研究会を立ち上げ、「日本全体でパーパスドリブンな人を増やしていく」ためのムーブメントが進んでいることも報告された。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。