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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

持続可能な循環型社会を実現するためのイベント・MICE運営とは

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社会のサステナビリティやSDGsの取り組み、そしてサーキュラーエコノミーに対するニーズはより高まっている。それはMICEの誘致、イベントの開催についても同じだ。2月に開かれたサステナブル・ブランド(SB)国際会議2022横浜では、今回が3回目となる特別プログラム「Sustainable Event Professional Forum 2022」が行われ、MICEやイベント運営に携わる関係者らが企業や団体の垣根を越えた共創の場をつくることで、新たな一歩を踏み出すきっかけづくりを目指した。(いからしひろき)

欧州では建築もイベントもサステナブルが当たり前に

はじめに、Circular Initiatives & Partners 代表の安居昭博氏が「海外事例に見る、イベントで循環型経済の実装実験を行う意義」と題して基調講演。欧州のサーキュラーエコノミーの事例をイベントに特化して紹介した。

安居氏は、大量生産、大量消費で進んできたこれまでのリニアエコノミー(線形経済)と違い、サーキュラーエコノミー(循環型経済)には「捨てる」段階が一切なく、新しいビジネスモデルを考える上では廃棄のない仕組みづくりが求められることを強調。

その実例として、まずはこの日、自身が着用していたジーンズを挙げた。オランダ企業の商品で、購入するのではなく、月額リース制。不要になった時には企業に返却し、企業はそれを繊維に戻して新しいジーンズを作り、再度供給する仕組みだという。

欧州ではこうした流れが、建築の分野でも顕著で、コンクリートに代わり、木造建築がサーキュラー建築として注目されている。

例えば、オランダのメガバンクが建てたサーキュラーエコノミー型の複合施設は、理論的には、200年、300年後に建物が不要になった時には建材をつなぎとめているすべての金具を取り外して回収し、別の場所に移動して同じ建物を建てられる設計になっている。

土台にあるのはBuildings As Material Banks(ビルディングス・アズ・マテリアル・バンクス)という考え方で、具体的には、建築資材にQRコードを刻むことにより、その資材が100%アルミニウムなのか、3%でも鉛が混じっているのかといった素材の情報やメンテナンス履歴などを確認できる。次世代が別の用途でも建物を再利用しやすいよう、ブロックチェーン技術を生かしてデータを残す、まさに「資材の銀行」だ。

資材はすべて分解可能、きのこの菌床を壁にしたブースも

講演はここから欧州のサステナブルなイベントの実例紹介に移った。

オランダで9日間にわたって開催されるイベントのメイン会場は、屋根に農業資材であるガラスハウスのガラスを活用している。すべての建材は分解でき、ガラスの屋根はイベント終了後に返却する。ほかには、このイベントのために木枠の中で育てたきのこの菌床を壁にしたブースもあり、イベント終了後にはコンポストとして活用するという。

※オランダではビニールハウスではなくガラス素材で作られたガラスハウスが主流。

また約4万人が集まる音楽フェスでは、100%再生可能エネルギーを使用。移動によるCO2排出を最小限に抑えるため、出演者は国内アーティストを揃え、フードコートの食材も国産の菜食を中心にしている。さらにフェス限定のデジタル通貨を発行し、容器の回収を促進する仕組みも。このほかオランダでは、終了後にどの場所からどんな廃棄物が出たかを徹底的に分析し、次の年に反映させているイベントもある。

一方、イギリスのとあるフェスティバルは100%再エネ利用はもちろん、イギリスの資本ではないグローバル企業の商品の販売を禁止することで、ローカルの商品の販売を推進する方式がとられている。販売されているビールの9割以上は110キロ圏内で生産され、コーヒーやお茶はすべてがフェアトレード商品だ。

さらにこのイベントのポイントは、運営チームが来場者に、日常生活で実践できるサステナブルな取り組みを丁寧な形で共有しているところにある。例えば、移動にかかるCO2を算定できるアプリや、軍事産業や原発産業には投融資しない方針のエシカルな銀行についての情報を「サステナブルなアクションにつながる」として紹介しているのだという。

また夏に90万人、冬に60万人が集まるドイツの大規模なイベントでは、そこでの試みの結果を地域のオーガニック教育の推進につなげるなど、「イベントだけの取り組みで終わらせず、地域や社会へと反映させていくことが大切」であることを示している。

安居氏は、最後に、日本でも京都で容器持参・包装なしのマーケットや、神戸では余った食材をアプリでレスキューする食の祭典が行われるなどサステナブルな観点に立ったイベントが徐々に増えていることを報告し、講演を終えた。

物を自由に捨てられない時代を見据えて今できること

続いてモノファクトリー代表の中台澄之氏が、「捨て方をデザインする循環ビジネス」と題して基調講演。循環型社会における廃棄物処理業者の役割について語った。

創業80年を超える産業廃棄物処理会社を親会社とするグループでのリサイクル率は99%。リユースの市場や廃棄物だけのショールームも運営する中台氏は、「時代はリサイクルから循環に動いている」と明言する。

もっとも、廃棄物処理業者は廃棄物が減ると売上高が減る。つまり、「世の中の人みんなが廃棄物を減らしたいのに、我々の業界だけは廃棄物を欲する」という矛盾がある。これを打破するために同社は2007年ごろから廃棄手数料依存からの脱却へかじを切り、「量に頼らず質に頼るしかない」という論理で、丁寧な選別や解体を経てソーシャルマテリアルを生み出す努力を続けてきた。

モノはちゃんと分別しさえすれば資源になり、素材に変わる。ただリサイクルは原型を壊すので、そこから再利用不能になるまでの寿命が短い。したがって100年、200年の単位で考えれば、“いかに形状を維持したまま長く使うか”が大事であり、それが資源を守ることになる。

さらに中台氏は、これまで先進国のごみを輸入してリサイクルを行なってきた中国がごみの受け入れを中止したことによる影響に言及。今後、東南アジア諸国も受け入れを拒否すると、「世界中がモノを自由に捨てられない時代に突入する」と警鐘を鳴らした。日本だけを例にとっても、自国だけで今の量のごみを処理するのは無理だからだ。

「そうなると、ごみを抜本的に減らす以外に手はなく、国は廃棄する量を規制するようになるだろう。その時、企業はどれだけ売るかより“どれだけ回収・循環できる仕組みを持っているか”が問われるようになる」

そこで救いになるのは、日本が欧州諸国よりゴミの分別回収が習慣づいていることだと中台氏は指摘する。それにより、質の高い優良な廃棄物が手に入りやすく、優良な再生資源は優良な廃棄物からしか作れないからだ。

日本の技術力は高く、国内で捨てられたものから優良な再生資源を作り、それを国内で使っていくビジネスのスキームを構築することが求められる。そのためには業界の垣根を越えた知見の共有が必要であり、「特に廃棄物のプロである廃棄物業者を巻き込まない手はない」と連携を呼びかけた。

「EV車に切り替わると今のガソリン車はどうなるのか。テクノロジーが変化すると廃棄物が発生してしまう。2030年の時点で循環の仕組みを機能させるとすれば、2025年には回収の方法が決まった商品を販売し、トライする期間がないといけない。時間軸で考えてそんなに先の話ではない」

SB横浜、ガイドラインのクリア項目が3年で42から48に増加

休憩を挟んで、プログラムは「SB横浜 サステナビリティ報告 (CO2排出量の実態と課題)」と題したセッションに移った。

はじめにサステナブル・ブランド国際会議の主催者である博展から、白川陽一・博展プロダクトマネジメント部部長が登壇。SB国際会議を横浜で開催してきた2020年から3年間、「空間装飾へのリユース素材の活用」や「分かりやすいごみの分別表記」など50項目にわたる東京MICEサステナビリティガイドライン(東京観光財団発行)に沿って実施したことで、イベントのサステナビリティが向上したことを説明した。初年度は42項目をクリアするところから始まったのが、3年目の今年は48項目にまで増えたという。

またガイドラインの調達領域におけるパートナーシップ拡張による具体策としては、今回のSB国際会議から、緑川化成工業(東京・台東)と共同で、業界初のアクリル板のクローズドリサイクルに取り組んでいる。

具体的には、博展が緑川化成からアクリル板を買い、イベントで使用した後に自社の制作スタジオで回収・分別し、緑川化成に引き取ってもらう。これを緑川化成は中間処理工場で原材料であるペレットに戻し、再びアクリル板を製造する。技術的な課題から100%のリサイクルは難しいが、現状でも再生材の比率は80%と高いのが特徴で、今後は、緑川化成から購入する年間10トン弱のアクリル板の4割を再生アクリルとすることで、バージン素材のアクリルを利用した場合と比べ、約6トンのCO2が削減できる見込みという。

ここで白川氏は、「2030年までにすべての人が笑顔になれるゼロ・エミッション型イベントを実現する」という博展の目標を話し、そのための必要なアクションとして、今回初めてSB国際会議のイベント全体を通したCO2排出量の見える化に取り組んだことを報告した。

全体のCO2排出量は約100トン 杉7000本が年間で吸収する量に匹敵

その内容について説明に立ったのが、今回、このCO2排出量算出のパートナーとしてイベントに参画した国際航業(東京・新宿)の気候変動戦略研究室、長谷川浩司氏だ。

1947年創業の国際航業は、宇宙から海底までをフィールドに地理空間情報を測量するコンサルティングサービスを手掛け、「情報をつなげる力で、人・社会・地球の未来をデザインする」を2030年ビジョンに掲げる。長谷川氏によるとイベントにおけるCO2排出量の算定は今回が初めてで、「イベントの良さであるネットワーキング(異業種交流)を大切に、パートナー企業と共にサステナブルなイベントとしての一つのブランドを創り上げていく」という目的のもとに行ったという。

具体的には会場の装飾や備品の運搬、映像・音響機材やケータリング、来場者の移動・宿泊など100に及ぶ項目をそれぞれ金額や原材料、活動量を基準に算定した結果、SB国際会議の全体のCO2排出量は約100トンだった(2021年開催のデータを使用)。約100トンとは、分かりやすくいうと7000本の杉が1年に吸収するCO2の量であり、来場者1人あたりに換算すると、1人が約25キログラム、つまり杉2本分を排出していることになるという。

このように1人あたりのCO2排出量を算出することの意義を、長谷川氏は、個人のカーボンオフセットができるサイトの活用などを通じて、例えば、来場者一人ひとりが杉2本分の排出量を1本分に抑えるための植林に貢献するなど、具体的な努力ができる点にあると強調。「CO2排出量を削減可能なものに分解し、次の行動につなげることこそが(見える化の)テーマだ。2030年に温室効果ガス46%削減という政府目標に向け、われわれ企業、市民が、どう行動するか。イベント・MICE業界にかかわる一人ひとりがCO2排出量を半減するといった努力を通して、政府目標と同じ時間軸で活動することがサステナブルなイベントにつながるのではないか」と呼びかけた。

イベント・MICEを社会課題解決のための実証実験の場に

セッションはここで、SB国際会議のサステナビリティ向上アドバイザーを務めるセレスポの犬塚圭介・サステナブルイベント研究所所長が登壇。今回のCO2排出量測定について、「一つひとつの取り組みを点で見ると、費用対効果が小さいんじゃないかと考え、諦めてしまいがちだ。そうではなく、全体を面で見ることで効果や課題を捉え直し、それを来年、再来年へと継続し、取り組みの精度を上げていくこともできる」と総括。カーボンニュートラルに関しては特に、「2025年の大阪・関西万博の方向性と歩調を合わせ、日頃のイベントからパートナーシップを生かし、幅広い専門性に対応していくことが重要になる」と述べた。

また席上、白川氏からは、今回、SB国際会議のCO2排出量が約100トンと算出されたのをきっかけに、その一部を横浜ブルーカーボン事業のクレジットを活用してカーボンオフセットする方針とともに、今後のパートナーシップの拡張と進化に向けて、イベントをサーキュラーエコノミー型に変えていくために業界のステークホルダーをつなぐ、コンソーシアム化を進める構想が発表された。

「欧州の事例でもあったように、社会課題をしっかりと解決していくための実証実験の場としてのニーズに応えていくことで、イベント・MICEが社会の中心に残り続け、存在感を示し続けることができるのではないか」(白川氏)

このほか、特別プログラムでは「サステナブルイベントの実現に向け、取り組むべきこと」がテーマのグループディスカッションなどが行われ、参加者全員がスマホアプリを通じて意見やアイデアを出し合い、業界の未来を語り合った。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。