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リジェレーションとは何か 大学生らが学んだ「第4回SB University」

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サステナビリティの先にあるRegeneration(リジェネレーション、再生)を実現する主役は次世代だ。今年2月に開かれたサステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、毎年恒例の次世代育成プログラムの一つである大和ハウス工業主催の「SB University」が2日間にわたって開かれ、全国から応募した大学生30人(オンライン参加含む)が、同世代の仲間や大和ハウス工業の社員らとディスカッションを通じて交流をはかった。自分の意見を大切に、他者の意見を尊重する対話を通じ、若者たちの間には“リジェネレーションの種”が確かに植え付けられたようだ。(いからしひろき)

関係づくりの一歩はユニークな自己紹介から

参加者は事前研修を通してリジェネレーションの考え方についてみっちりと学んだ上で国際会議に臨んだ。会議ではリジェネレーションの価値観をどう自らのアクションにつなげていくかを考えるきっかけにしてもらうことを目的に、80を超えるセッションに自由に参加してもらい、その上で参加者同士が意見交換するスタイルが取られた。

会議中、メンバーが最初に顔を合わせたのは、初日の基調講演に熱心に耳を傾けた後のランチセッションの場。4〜7人のグループに分かれ、そこに大和ハウス工業の社員が1人ずつメンターとして加わる形で、ファシリテーターは前回に引き続き、組織変革コーチとして活動する東嗣了氏が務めた。

参加者はみなリラックスした雰囲気で、まずは自己紹介からスタート。自己紹介といっても、名前や学校、学部などに加えて、「今の心と体の状態」も伝えるユニークなものだ。

具体的には「元気いっぱい」なら親指を上(いわゆるサムズアップ)に、「普通」なら水平、「ちょっとテンションが低い」なら下と、指を使ったサインを見せる。記者が見たところ、元気いっぱいな人が多かった。これなら口下手でも伝えやすく、会社のミーティングなどでも使えそうだ。

そのような場を盛り上げる工夫がなされたのも、このランチセッションの目的が、「チームビルディング」にあったから。国際会議は2日間だが、「SB University」の参加者は3月に奈良県にある大和ハウス工業の研修施設「みらい価値共創センター」で行なわれる報告会まで活動をともにする。そのための関係づくりの一歩が、このランチセッションだったというわけだ。

自己紹介の後は「メンバー同士でどんな関係をつくるか?」「学びを深めるためにチームのサポートはどうあるべきか?」の2点をお題に各グループが意見をまとめた。そこから挙がったのは、「壁を壊す」「ほっこり笑顔で」「フランクに」「対等に話す」「縁を大事に」「情報共有、フィードバックする」「前向きに」「楽しく、厚く(熱くではない)、広く」といったキーワードで、これを胸に参加者は自らの関心のあるテーマを求めて、初日午後からのセッション会場へと散らばっていった。

意見を重ねるディスカッションで体験を共有

次にメンバーが顔を合わせたのは、時計の針は進んで、国際会議2日目の夕刻に設けられた「SB University 2022 Wrap Up Meeting」と題された場だ。初日よりワイワイガヤガヤとにぎやかな雰囲気に、一人ひとりにとっての2日間の実りの多さが感じられる。

ミーティングの狙いは、文字通り今回の国際会議を通じて体験したり考えたりしたことをディスカッションし、参加者同士で共有すること。初日同様、「心とカラダの状態を親指の角度で示す」サインを交換し、意識を共有した後にグループディスカッションが行われた。

テーマは「マイベストセレクション」。2日間で参加したセッションの中で最も印象に残ったものを発表しあう。ポイントは内容報告ではなく感想を述べること。

ディスカッションの後、グループを代表して1人ずつ感想を述べる機会が与えられた。その声を記者の印象を交えて紹介する。

最初に立ったKさんが切り出したのは、「自分の意見を持つことの大切さ」。ディスカッションでさまざまな意見が出たことに対して、自分の意見をどう返せば良いのか悩んでいると吐露した。てっきり2日間のセッションの感想が述べられるのだと思っていたので記者はやや拍子抜けしたが、東氏はさも当然という顔で言葉を返した。

「相手の話を聞いて起こった自分の感情は否定しないでほしい。まずは自分の気持ちを大事にして、前に踏み出すのはそれからゆっくり考えればいい……」

このディスカッションが、単なる感想発表会ではないことをそこで悟った。

次に発表したSさんは、「パーパスは必要なのか?金もうけだけが目的なら不要では?」と投げかけた。これに対し、続く発表者から、次々と意見が上がる。

「確かに、パーパスの内容を問われて口ごもっていた登壇者もいた。“手段が目的”になっている場合も多いようだ」(別のKさん)

「環境ビジネスが伸びているからどんな企業も参入したいのは分かるが、まずは問題意識と理念が大事。それがパーパスという形になるべき」(Yさん)

「とあるセッションで、女性向けの商品が結果的に車椅子を利用する方の役にも立った話を聞いた。パーパスを持って行動を起こすことには社会的な意義があると思う」(Hさん)

時に辛辣な、どれも鋭い意見である。その後も次々と参加者は意見を発表し、それを東氏がまとめ、コメントを返すことで、全体に意識の共有がなされていった。

一連のやりとりは淡々とはしていたが、参加者それぞれの「思考」の岩盤に、「他者の意見」が雨水のようにじわじわと染み込んでいくのが目に見えるようであった。

リジェネレーションに対する立ち位置を自ら表現

ミーティングのクライマックスは、「インフォーマルコンステレーション」というワークの場面だ。

コンステレーションとは直訳すると「星座」という意味。部屋の中央に置かれた椅子を「リジェネラティブな世界」と想定し、それに対する距離感や関係性を立ち位置やジェスチャーで表現するというものだ。それを俯瞰して見ると星座のように見えることから、そう名付けられたのであろう。参加者たちはおのおの試行錯誤しながら自らの“立ち位置”を決めていった。

最も椅子と近かった人は、椅子を「自分の将来の子ども。それに寄り添うイメージ」と答えた。

2番目に近い人は「私は地球に絶望感を抱いているので、椅子が溶けているように見えた。それをすくって確かめているところ」と詩的に説明。

中間距離の人は、体を椅子と同じ方向に向けているのを「共感はするが、客観的に眺めている」と自己分析。

少し離れたところにいた人は、椅子に向かって走り出そうとしていた。「実現には遠いが、それに向かっていきたい」という気持ちの表れだという。

最も離れた場所にいて、しかも横向きになっていた人は「リジェネラティブな世界には両面あって、善も悪もある。だから今は中立的な立場にいたい」とする胸の内を明かした。

「リジェネラティブな世界」についても、それぞれに多様な考え方があるのだ。東氏は「いろいろな人の声があることを知ってほしい。そしてそれぞれの理由もあることを」とこのワークの狙いについて語った。

その後はさらに2〜3人組になってディスカッションを行い、今後のスケジュールについて説明があった後、散会となった。

当然ながら、このセッションでリジェネレーションについて、そしてリジェネラティブな社会のあり方について、明確な答えが生まれたわけではない。しかし、プログラムはまだまだ続く。次世代を担う若者たちの心のなかに植え付けられた“リジェネレーションの種”が芽を出し、花開くのが今から楽しみだ。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。