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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

日本を、世界を取り巻く社会課題に挑む 高校生が提案する身近なアクション

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日本を、世界を取り巻くさまざまな社会課題に独自の視点で挑む高校生たちが今年2月、「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」に集結した。過去最多となる全国59校の中から論文によって選考され、東京、大阪、富山(オンライン)、岡山で開催されたブロック大会を経て、国際会議の本番に臨んだ“SB Student Ambassador”たちだ。2日間のイベント中、関心のある多くのセッションを聴講し、それぞれに学びを深めた彼ら彼女らが最後に行ったプレゼンテーションは、身近なアクションを通じてSDGs達成への貢献を呼びかける、大人たちにも大きな示唆を与えるものだった。(廣末智子)

国際会議を締めくくるSB Student Ambassadorの成果発表会。50人以上の高校生たちが緊張した面持ちで一堂に会した。いよいよ各校がチームで臨むプレゼンが始まる。持ち時間はそれぞれ7分だ。

高齢化問題や商店街活性化、地域のイベントを題材に

「高齢化と商店街の空き店舗などの課題を同時に解決する」と訴えたのは、相模女子大学高等部(相模原市)。地元の商店街を舞台に、高齢者向けには健康寿命を伸ばすための運動やスマホの使い方講座などを、若者向けには勉強スペースのあるカフェなどを開くことを提案。国民的アニメ、サザエさんに出てくる、会話が絶えない温かみのある商店街を現代に再現し、高齢者のQOLの向上を目指す。

身近な商店街や観光地の課題解決には名古屋市立名古屋商業高校(名古屋市)も目を向けた。中でもごみのポイ捨てに的を絞り、観光客らがごみを指定のごみ箱に入れるとポイントが貯まり、店側は販売促進につなげることもできる“サステナポイント制”による地域活性化を提案した。

また花火大会という地域のビッグイベントを題材に、気候変動問題に対する課題認識も絡めて企画を練ったのは洗足学園中学高等学校(川崎市)だ。地域の間伐材を火薬に加工するなど環境に配慮した花火で川に溶ける花火の化学成分を削減するとともに、訪れた人にマイ容器の継続使用を呼びかけ、翌日のごみ拾いやごみの分別を義務化する。広告には定番のうちわではなく、電車内ビジョンやラジオを使用し、ごみの量はSNSなどで可視化するという。

地方から全国、都市から地方へ連携呼びかけ

地域活性化はほぼ全発表に共通するテーマで、地方から全国、都市から地方へと連携を呼び掛ける学校もあった。

岡山県立倉敷鷲羽高校(倉敷市)は、地元のいちじく農家から、いちじくは雨に打たれると商品価値がなくなると聞いたのがきっかけで、食品ロスの問題に取り組むことを決めた。同じ岡山の吉備中央町では後継者難による人手不足で多くのブルーベリーが摘み残されていることも分かり、提携校の生徒に収穫を依頼。2校が力を合わせてブルーベリージェラートとして商品化した。この経験を生かし、今年11月には「日本全国、いや世界各地のもったいない(作物)を募集」し、付加価値を付けて販売する「もったいないマルシェ」を開催する計画を進めている。

一方、地域の将来を担う高校生同士が連携し、商業の町・大阪から日本を元気にする活動を発信したのは大阪学芸中等教育学校(大阪市)だ。題して「新・令和天下の台所」。具体的には修学旅行の体験学習などで地方の高校生を大阪に呼び、「オモロい商売人」から地域の特産品や魅力をPRするスキルを学んだ上で物産展を開催してもらう。さらには同校の生徒が探究学習などの一環でその地方の課題と特性を学び、地域活性化のための解決策について話し合った上で同地を訪れ、観光スポット周辺で物産展を行う。“交換物産展”のアイデアに基づく、双方向の取り組みだ。

「過疎化や関係人口の減少、経済の縮小やコミュニティの衰退の進む地方の問題は、大阪にとっても他人事ではない。さまざまな地域の特色を学ぶことで他の地域の良いところを共有し、地域同士の横のつながりを広げていきたい」(大阪学芸中等教育学校)

修学旅行イノベーションやプラスチック消費量の見える化アプリも

修学旅行に着目したソリューションとしては、奈良女子大学附属中等教育学校(奈良市)が、「修学旅行イノベーション-修学旅行を『クエスト』にする」と題して発表した。奈良の観光は寺院の密集する北部での見学で終わることが多く、地元への経済効果が少ないことから、修学旅行生にゲーム感覚で奈良の新たな魅力を発見してもらおうというもので、地域の価値をアプリ上の地図に表示し、追加していく。目的は地域活性化だけでなく、修学旅行を生徒たちの主体的な学びの場とすることも大きい。

このように今回のプレゼンテーションではさまざまな課題の解決に際し、ツールとして専用アプリの開発を組み込む学校が多かった。その中で芝浦工業大学附属高等学校(東京・江東)は、「アプリを用いたプラスチック消費量の見える化」を提案。各飲料メーカーなどが個々にプラスチック削減に努めていても、消費者にとってはどの商品がより環境に配慮されているのかが分からないことから、各商品のプラスチックの割合をマークで示し、購入者にその度合いに応じたポイントを付与する仕組みで、「プラ削減を巡って社会に好循環を起こしたい」と意気込んだ。

環境問題へのアクション続々

環境問題に関しては札幌日本大学高等学校(北海道・北広島市)が「CO2削減に向けた二つのアプローチ」と題して、「近郊農業」と「肉の代わりに大豆ミートを使うこと」の意義を強調。きっかけはSB Student Ambassador東日本ブロック大会の講演でエシカルコーディネーターのエバンズ亜莉沙さんから、「世界で起きていることは身近なアクションから解決できる」と聞いたことだといい、学校の屋上で育てた野菜を学食のメニューに取り入れ、大豆ミートを寮食として活用する計画について語った。

また片山学園高等学校(富山市)国際科学探求コースの生徒は洗顔料や日焼け止めなど多くの化粧品に海洋汚染の原因となるマイクロプラスチックが含まれていることに着眼。廃棄される野菜の皮などから植物性のセルロースを主成分とする化粧品を開発し、普及させることを提言した。

さらに海洋プラスチックを巡っては三田国際学園高等学校(東京・世田谷)が、1人の女性が生涯に使う生理用ナプキンの枚数はビニール袋3万8400枚分に相当する9600枚であり、「海洋プラスチックの第5位に君臨している」ことを報告。生理用品の中には吸水型サニタリーショーツや月経カップ、布ナプキンなど繰り返し使える環境に配慮したものがあることを世の中にもっと広めるため、企業とタイアップして小中学校で出張授業を行う構想があるという。

2050年には世界の人口の68%が都市に集中することになるという予測をもとに、「街に住むすべての人に持続可能な輸送システムの構築を」と訴えたのは、名古屋大学教育学部附属高等学校(名古屋市)。自家用車のCO2排出量は鉄道の約8倍にも及ぶことから、自家用車の使用をゼロにするまちづくりプロジェクトを説明し、車に代わる新たな交通手段としてスカイトレインと名付けた、観覧車をモデルに空中を走る電車のイメージ図を提示した。

また関西大学高等部(高槻市)は、減災の観点から地域に貢献するアイデアを披露。中でも備蓄している家庭が少ないことが指摘されている非常食をもっと身近にすることを第一の目的に、自治体や企業と連携し、「ひと・みらい・つながりキャンプ」と銘打った企画を行い、住民に非常食を自分で作る体験などを楽しんでもらうことを提案した。

若者の自己肯定感を少しでも高めたい

一方、「日本の若者の自己肯定感を少しでも高めるために」として、かえつ有明高等学校(東京・江東)は、若者の80%が自分自身に満足し、76%が「社会問題に関与したい」とする調査結果のあるドイツの教育に学ぶことを提言した。ドイツでは幼稚園から自由なカリキュラムのもとに主体性を育む教育がなされており、それに倣って3〜6歳児とその保護者を対象とするワークショップを継続的に行うことで、子どもの自己肯定感を高めるための土台となる親子の自立した関係を構築するという。

「日本でもSDGsが広まっているが、それが世界の潮流だからという受け身の姿勢では今後の取り組みに限界がある。自己肯定感が上がれば社会問題が解決されるとは限らないが、心にゆとりを持つことで周囲のものが視野に入り、その延長線上で国や地球、SDGsに関心を持つことができれば」。同校の代表からはそんな未来への願いも語られた。

発表は講評を挟みながら行われ、田中嘉一・公益財団法人大阪観光局MICE政策統括官は、「ハッとさせられるテーマが多く、各校とも着眼点が非常に良かった。環境面だけでなく、経済的発展も視野に入れ、大阪だけでなく全国が一緒に発展しようというようにSDGsに通じる観点がしっかりとある。またどんな問題でも楽しく取り組むことが原動力になると感じた」などと述べた。

最後に主催者側を代表して、玉生勝則・日本旅行ソリューション事業本部教育事業部部長が、「どの学校の取り組みにも、企業として支援できるところがある。これからも高校生と大人が一緒になって伴走し、共に暮らしやすい日本をつくっていきたい」と挨拶。同社がクラウドファンディングを活用して提案の実行をサポートする上位3校には、奈良女子大学附属中等教育学校と岡山県立倉敷鷲羽高等学校、関西大学高等部が決まった。

サステナブル・ブランド国際会議2022横浜
SB Student Ambassador 参加校一覧

相模女子大学高等部 
芝浦工業大学附属高等学校(オンライン参加)
奈良女子大学附属中等教育学校(オンライン参加)
洗足学園中学高等学校
岡山県立倉敷鷲羽高等学校
三田国際学園高等学校
名古屋市立名古屋商業高等学校
札幌日本大学高等学校
かえつ有明高等学校(オンライン参加)
片山学園高等学校(オンライン参加)
大阪学芸中等教育学校
名古屋大学教育学部附属高等学校(オンライン参加)
関西大学高等部 

2022年度は全国9都市で開催決定!
2022年度 サステナブル・ブランド国際会議 学生招待プログラム
第3回 SB Student Ambassador ブロック大会
詳細: https://www.sbsa23.com/

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。