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メタバース時代のファッションはどう変わる?  

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吉田氏、小谷氏、丸山氏、杉田氏

CO2排出量や水の消費量の多さから世界第2位の汚染産業ともされるアパレル業界で、布地にデータを印刷するプリンターや3Dシミュレーターなどの技術を活用し、大量生産・大量廃棄の課題を解決しようという動きが広がり始めている。また世界的に「メタバース」と呼ばれる仮想空間におけるビジネスに参入する企業も増えるなかで、ファッションの未来はどのように変わっていくのだろうか。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では業界で最先端の取り組みを進める関係者らが展望を語り合った。(廣末智子)

ファシリテーター:
吉田けえな・ファッションコーディネーター
パネリスト:
小谷雄祐・アベイル クラウドソリューション事業部 事業部長
杉田篤・アドアーリンク 代表取締役社長
丸山紗恵子・セイコーエプソン 営業本部 IIJ営業部 エキスパート

ものづくりのプロセスの簡略・効率化が必要不可欠

はじめに、ファシリテーターを務めたファッションコーディネーターの吉田けえな氏が、今年1月にフランスで「衣服廃棄禁止令」が発令されたことに触れ、「リサイクルするか寄付をしないと新品の服を処理することができない形だ」と説明。「日本でも今後、環境省などで法令の整備が進むかもしれないが、どう思うか」と意見を求めた。

これに対し、サステナビリティに特化したEC専業のブランド「O0U(オーゼロユー)」を運営するアドアーリンクの杉田篤社長は、親会社のアダストリアグループが展開する約30のブランドでシーズンごとに出る売れ残り商品を販売するなど、グループ全体でビジネスの循環に力を入れていることを紹介。「商品を廃棄する前に、再度買い求めやすい形で消費者の目に触れる場所を提供していくことはなくてはならない事業活動になってくる」と述べた。

O0Uは商品ごとにCO2排出量や水の使用量などの環境負荷値を表示するとともに、3DCGモデリングを活用したサンプル削減や完全受注生産を実現している。その理由を杉田氏は、「30〜40年前の日本のアパレルは、モノを作るための工程が多過ぎた。そこから量産の時期に入ってコストを優先するあまりアジアの安い労働力市場へと業界が移行していった経緯がある」と振り返りつつ、デジタル化を進めることで「ものづくりのプロセスを簡略・効率化して無駄を省くことが必要不可欠だ」と強調した。

その完全受注生産に向けた業界のデジタル化をけん引するのは、布上に多彩な色や表現をプリントする、セイコーエプソンのデジタル捺染技術だ。

同社の丸山紗恵子氏は、昨年、百貨店、呉服店と同社が協業し、浴衣のデザインコンテストを行なった上で入賞作品を1着から生産・販売する試みを行ったことを報告。期間中、百貨店の売り場では、応募のあった95作品のプロジェクションマッピングによる展示もなされたそうで、「自分のデザインを形にしたい方が多くいることに驚いた。これからも一人ひとりの消費者が大好きな一点に出合える機会をつくっていくことに貢献したい」とデジタル捺染にかける思いを語った。

洋服とデジタルは非常に相性がいい

ファストファッションを買い求める人が多い一方、「一点もの」への需要は高まっている。20年以上前から3Dシミュレーションソフトを活用した生産管理システムを業界に提供しているアベイルの小谷雄祐氏は、最先端の技術では素材の物性データを入れることでアバターがその服を着た時の着圧まで再現することができ、服をセミオーダー的にカスタマイズしていくという観点で、「洋服とデジタルは非常に相性がいい」という。

ここで話題に上ったのは、最近、世界で急速に広まっている仮想空間におけるアパレルの可能性だ。吉田氏は、「メタバースで友達になったり、チームになったりした人たちが同じものを着たい、といったニーズが世界中で出てくるのではないかと思うが、それをリアルなサービスに落とし込むことは可能か?」などと3氏に質問。

これに小谷氏は、「実物とデジタル上のものをリンクさせるのは、今の技術でもおそらく可能で、共通のシステムをプラットフォーム化すればすぐにできそうな気がする。日本でメタバースが活性化するのも遠くはなく、今後はそういうサービスが出てくるのではないか」とする見通しを示した。

メタバースの世界は新時代のアパレルを予感させるようで、「仮想空間での疑似体験が、リアルになったとき、どんな洋服ができるのかワクワクする」という杉田氏からは、「例えば子どもの描いた絵をプリントするなど、多様性を生かしたデジタル捺染の生地が、当日中にできあがったりするとなお楽しい」と商品化のアイデアも飛び出した。

丸山氏も「世界中の人たちに自分の好きなアートを身にまとって心豊かになってほしい。リアル店舗とウェブ上の店舗、それに仮想空間をデジタル捺染で融合させることができるかもしれない」と話した。

服が廃棄されることは相当なくなる

メタバースが引き寄せるアパレルの可能性は、当然ながら楽しさが広がるという側面だけではない。自分がデザインした服や、カスタマイズした服が即座に製品化されて手元に届く。「そんな時代になれば、服が廃棄されるということは相当なくなる」(杉田氏)という業界全体の課題解決に向けた期待は大きい。

吉田氏は、「体験を通して洋服を買うことで、より愛着が生まれる。商品寿命が伸びることで、よりサステナブルな未来につながる。クリエイションとサステナビリティの両面から業界全体で知恵を共有し合い、実践していってほしい」と述べてセッションを締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。