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サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

エシカル消費を促進するビジネス 社会性と事業性の両立探る

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ノイハウス氏、深井氏、柾木氏

自分が手にし、口にする商品は、どこでどのように作られたものなのか。その過程で誰かの負荷や犠牲を伴っている可能性はないのか――。持続可能な世界の実現に向け、そのような視点から買う物を選択する「エシカル消費(倫理的消費)」が改めて注目されている。「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」ではアパレルや食の領域で人や環境、社会に配慮した商品やサービスを展開する起業家らをパネリストに迎え、エシカルなビジネスを追求する上で社会性と事業性は両立するのか、消費者にどう商品の魅力を伝えていけばいいのかといったテーマで意見を交わした。(三谷真依子)

ファシリテーター:
山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議 D&I プロデューサー 
パネリスト:
ノイハウス萌菜・斗々屋 広報担当/サステナビリティ・コンサルタント
深井喜翔・カポックジャパン カポックノット 代表
柾木要介・オウン 代表社員

登壇したのは、捨てられたペットボトルをリサイクルして作る眼鏡のブランド「PLAGLA(プラグラ)」を展開する柾木要介氏と、東南アジアで収穫される木の実を原料とするアパレルブランド「KAPOK KNOT(カポックノット)」を展開する深井喜翔氏、そして、ゼロウェイスト・オーガニック・フェアトレードの3つを軸に選んだ食品を量り売りで販売する斗々屋で広報を担当するノイハウス萌菜氏の3人。

いい素材だけでいい商品は作れない

セッションはそれぞれが事業への思いを語るところから始まった。柾木氏は大好きなサーフィンを通してビーチクリーン活動に出合ったのがきっかけで、「プラスチックごみ問題は、ごみ自体を減らす努力をしなければ解決しない。リサイクル技術を駆使して人々と環境に役立つ商品を作ろう」と、また深井氏は、家業の繊維産業を引き継ぐ上で「世界で2番目の汚染産業と言われるアパレル業界を変えないといけない。それには生産者にも消費者にも地球にも無理がないサステナブルな素材を使ったブランドを立ち上げるしかない」と起業を決意したという。

2社の共通点は、「いい素材だけでいい商品は作れない」(深井氏)と言うように、日本のモノづくりの現場と強固な関係を築いているところにある。プラグラはごみ処理業者が回収した国内のペットボトルを洗浄、粉砕して作ったフレームと生分解性のレンズを眼鏡の産地として有名な福井県鯖江市の工場で製品化。カポックノットは、インドネシアの生産地と日本の縫製工場をつなぐ独自のサプライチェーンを構築し、BtoCにとどまらず、BtoBのビジネスにも力を入れる。

「地球1個分の暮らし」をどう取り戻すか

一方、昨年、京都市に日本初のゼロウェイストスーパーを開店した斗々屋は、買い物の基本は容器持参で個包装は有料も無料も一切なし、仕入れもごみゼロを目指す量り売りの食料品店を全国に広げていくための仕組みの構築を目指す。

ノイハウス氏は「今の日本人の平均的な生活を世界中がする場合、地球2.8個分の資源が必要といわれている」と指摘した上で、「地球からのさまざまな恵みがなければ人間の暮らしは成り立たない。『地球1個分の暮らし』をどう取り戻すのかを提案するのが斗々屋のミッションだ」と説明した。

ここで浮かび上がったのは斗々屋とカポックノットの共通項だ。ノイハウス氏が「限りある地球の環境資源と限りない経済発展の両立のバランスをどうとるかがすごく大事」と強調したのに対し、同じように「社会性と事業性の両立」をキーワードに掲げる深井氏が、「正直量り売りのイメージと経済発展という言葉が結びつかない。なぜ敢えてその言葉を使っているのか?」と質問する場面もあった。

ノイハウス氏の答えは、特に京都店での取り組みが見方によっては世界初とも言えることから、「成功しないと、『持続可能な食』という分野での好事例になることもできず、次につながらない。私たちだけでなく小売全体がゼロウェイストに向かって変わるとしたら、経済発展も加速するのではないかと考えるからだ」というもの。これに深井氏も「ソーシャルビジネスの領域だからこそ自分たちが成功しないといけないという使命感は出てくる」と応じ、エシカル消費を生み出す側の覚悟を垣間見せた。

商品そのものの魅力を伝えるデザインや価格設定に

この事業性について、柾木氏は「いつの時代も流行り廃りはあり、『サステナブルサングラス』がこれから市場に溢れてレッドオーシャン化することもあり得る」とした上で、プラグラでは「直感や感性で可愛い、カッコいいと思ってもらえるようなブランドづくり」に力を入れていることが語られた。

「リサイクルで作られたものもそうじゃないものも同じ土俵で見た時に(こっちの方が)魅力的だと思ってもらえるようなデザイン、プレゼンテーションを常にしていかないといけない」(柾木氏)

そうした戦略の一環は、税込6490円とリーズナブルな価格設定にも表れている。その理由は、「まずは手にとってもらいやすい価格にしたいという思いが僕にも工場にもあった」からだという。このため工場では原料のペットボトルを眼鏡だけでなくプラスチック容器や回転寿司店で使われる皿や箸などにも加工する製造ラインを導入し、それによってこの価格帯が可能になった。ここでのキーワードは工場との協業だ。

大切な、共感のネットワーク

協業という観点で言えば、斗々屋も、電子はかり国内大手の寺岡精工(東京・大田)の全面技術協力によって、京都店に国内最先端の量り売り販売システムを導入している。このオーガニックや量り売りとDXの掛け合わせによるソリューションを、ノイハウス氏は「自分で言うのもなんだが、100年ほどの歴史ある寺岡精工さんと、スタートアップの斗々屋の絶妙なコンビネーションかと思う」と評価。「寺岡精工さんはじめとするサポートがなければここまでこられなかった。重要なのはいかに多くの人を巻き込むかだ」と述べ、共感を生み出すネットワークの大切さを強調した。

仕入れに際して斗々屋では、うどんであれば木箱に入れて納品してもらい、そのまま販売して空になればまた木箱を戻すという方式で行っている。これがもっと遠い場合、例えばベルギーの板チョコは個包装をせず、箱詰めで送ってもらうようにしているが、ある時、先方のアイデアで50枚の板チョコが割れずにぴったりと収まる箱に入れられてくるようになった。この業者は今ではこの箱を使ってヨーロッパの他の卸先にも同じ形で板チョコを納品しているといい、斗々屋からノウハウが広がった好事例になっている。

セッションではエシカル消費の視点を表す「買い物は投票である」という言葉を巡る議論もなされ、深井氏は「どういう企業で働くか、インスタグラムでどういう発信をするか、そういう一つをとっても実は投票行為になりうる。世の中に貢献できる領域は多いんだな、ということを認識したうえで意図ある選択をするのが重要」と訴えた。

ファシリテーターを務めた山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議D&Iプロデューサーは、「買い物をする時には本当に自分が好きなものかどうかはもちろん、その商品ができるまでの背景を考え、一度手にしたものを大切に使うことで、社会が変わる。大事なのは自分で意識して、もっと明るい未来になっていくように心がけ行動していくことだ」と述べ、セッションを締めくくった。

三谷真依子 (みたに・まいこ)

高知県出身。文芸創作を経てフリーライター。都内の大学に在学中、友人の誘いで、関東で高知をPRすることを目的とした学生団体の立ち上げに参加。同団体で、高知の食文化をはじめ地域で働く人々の想いや地方の持続性に触れ、記事執筆を始める。