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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サステナビリティ・トランスフォーメーションで組織や社会はどう変わるか

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大川氏、濱中氏、森川氏、足立氏 (左上から時計まわり)

世の中の変化を成長の機会と捉え、企業として、人として、どうありたいのかを問い直すきっかけにできるかどうか――。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、持続可能な社会の実現に向けて事業変革を掲げる企業によるセッションが行われ、従来型のビジネスの枠を超え、現場からイノベーションを生み出せるような組織をつくっていくためにいま企業にとって必要な視座とは何かが話し合われた。そこから見えてきたのは、サステナビリティは自らが社会をどう変えていきたいのかという主体性を持って挑むことが重要で、ただ流れに乗って進めればよいというものでは決してない、ということだ。(廣末智子)

ファシリテーター:
小山嚴也・関東学院大学 学長・経営学部教授
パネリスト:
足立桂輔・KPMGコンサルティング パートナー Sustainable Transformation担当、KPMGジャパン Sustainable Value Japan ESGリスク担当
大川哲郎・大川印刷 代表取締役社長
濱中祥子・フィリップ モリス ジャパン コーポレート サステナビリティ リード
森川学・富士通 CHRO室 室長

SXに伴い、たばこ農家の転身と自立を支援――フィリップモリス

セッションには規模にかかわらず、変革に挑戦する企業が登壇した。

たばこ会社でありながら「煙のない社会」の実現を掲げ、紙巻きたばこから加熱式たばこへの転換を進めるフィリップモリス。たばこの健康への悪影響が問題となり、世界的に非喫煙率が高まる中、自らの主力商品を見直し社会課題と向き合うことは、「まさに自分たちの社会における存在意義を問い直すことであり、サステナビリティ戦略と表裏一体をなすもの」と濱中祥子氏。その課題解決の難しさは、同社1社が紙巻きたばこの製造販売をやめれば済む問題ではないところにある。

一つには、これまで同社の紙巻きたばこ製品を支えてきた、たばこ農家のサプライチェーンをどう守るか。濱中氏によると、同社は既に2021年、コロンビアの農家からたばこ葉を輸入することを止める判断をした。しかしその数年前から当該農家が同社から収入を得ずとも自立していけるよう、たばこ葉生産に代わる収入源として、野菜の栽培や養鶏、魚の養殖など農業の多角化を支援してきたという。そこには当然麻薬大国の側面もあるコロンビアから同社が撤退することで、社会の荒廃を加速させることがないようにという配慮もある。

「サステナビリティとは、会社が持続的に発展していくために、社会とどういう関わり方をするのかを見つめ直すレンズのようなもの。さまざまなセクターを超えて知恵を出し合っていくことで複雑で構造的な問題に対する解決の糸口が見つかるのではないか」(濱中氏)

個人の思いと企業のパーパスのすり合わせを――富士通

続くグローバル企業、富士通からは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」をパーパスに、「社長から新入社員まで約13万人が価値観を共有する形で」(森川学氏)、価値創造モデルの構築が進んでいることが紹介された。

イノベーションを生み出す仕掛けづくりでは、第一に、国や文化、人種などお互いの違いを理解した上で多様性を生かす組織構成に注力。さらに最近は会社のパーパスだけでなく、個人のパーパスを言語化する対話プログラムをグローバルに展開しているという。

その狙いを森川氏は、「会社のパーパスに共感するのはもちろん大事だが、働くことの意味はそれぞれが持っている。両者をすり合わせていかないと企業文化はなかなか変わらなし、本当に自分ごととして仕事に取り組めないのではないかということにある」と説明。パーパスの近い人同士がグローバルにつながり、「例えば趣味が同じということでもいい。そこから新しいイノベーション、ビジネスが生まれないか、ということに面白おかしく取り組んでいる」と手応えが語られた。

ここでのポイントは、グローバル企業であっても一人ひとりの社員の人生やウェルビーイングを意識した組織変革がなされているところであり、時代の潮流はそこにある。その先駆的な取り組みで知られるのが、会社の規模は小さいながらも、地元横浜で創業141年目を迎える大川印刷だ。

『浸透』ではうまくいかない。共感、共有が大事だ――大川印刷

「サステナビリティというと分かりにくいので、『不老不死企業への組織変革』なのかなと思う」と切り出した大川哲郎社長。2004年に自社の存在意義を「ソーシャルプリンティングカンパニー(社会的印刷会社)」と位置付け、2019年に再エネ100%を達成するなど、本業を通じた社会課題解決に邁進し、CSRやSDGsを経営に実装してきたことの意義を、「会社の幸せだけでなく、従業員や社会の幸せにつながると考えるからだ」と強調した。

グローバル企業の例にも出たように、大切なのは従業員一人ひとりが何のために、誰のために働いているのか、を意識すること。そのため毎年のSDGs経営計画は、全従業員が参加するワークショップで策定するほか、最近では食品ロスになる手前の食材を持ち寄り、その場で調理方法を決めて皆で楽しむパーティーなど、従業員の発案・主催によるさまざまな企画が盛り上がりを見せているという。

「よく、どのように(会社の方針を社内に)浸透させているのか、と聞かれるが、『浸透』には地面に落ちた雫が広がるイメージがある。下にいる人たちが、また上から落ちてきた、と感じるのではうまくいかない。浸透ではなく、共感、共有が大事だ」

日本企業は変化への対応を成長の突破口に――KPMG

3社の発表を聞き、KPMGコンサルティングの足立桂輔氏は、「不確実性の高い時代には特に、上から統制をかけて浸透させるというのではなく、一人ひとりが自律性を持って動く、現場の創意工夫が大事だと改めて感じた」と感想を述べた。さらに本セッションから読み取れる提言として、「日本企業にはサステナビリティも含めた変化への対応を会社の動かし方や在り方を考えるきっかけとし、成長の突破口にしてほしい」という思いを語り、登壇者全員で主体性を持ってサステナビリティに取り組むことの重要性を共有した。

KPMGコンサルティングは、サステナブル・ブランド国際会議2022横浜の1日目に「サステナビリティ社会を勝ち抜く『会社』のリデザイン」と題したオンラインセッションも実施。会社の組織や風土の変革を指すKPMG独自の造語、「ガバナンス・トランスフォーメーション(GX)」の言葉を用いて、サステナビリティ時代の経営の在り方について解説した。

ファシリテーターを務めた小山嚴也氏は「ただやらされるのでなく、なるほどそういうことなのかと分かった時に人は動く。今日は、『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)は組織・社会をどう活性化するのか?』というテーマだったが、最終的には、企業の規模にかかわらず、制度や仕組みのベースとなる人の心が大事だというところに行き着いたように思う」と総括し、セッションを締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。