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スマートシティとグリーンインフラを融合させた災害に強いまちづくり

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災害大国である上に気候変動による激甚化の影響を大きく受けているニッポン。災害に強いまちづくりは、持続的な社会をつくる上で喫緊の課題であり、注目されているのが「スマートシティ」と「グリーンインフラ」だ。ITと自然という一見相反する仕組みは、どのような相乗効果を生み出し、安心安全なまちづくりに貢献するのか。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、産学官の第一人者をパネラーに、持続可能な防災都市実現のヒントを探った。(いからしひろき)

ファシリテーター:
江戸克栄・県立広島大学大学院 経営管理研究科 ビジネス・リーダーシップ専攻長 教授
パネリスト:
佐々木康弘・日本電気 スーパーシティ事業推進本部 シニアエキスパート
辻野恒一・国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 緑地環境室 国際緑地環境対策官
溝口龍太・清水建設 スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 部長

鍵は「デュアルモード」 平時のにぎわいと災害時の防災機能が併存

まずは清水建設の溝口龍太氏から、同社が東京・江東区で進めている「豊洲スマートシティ」の取組みについて説明があった。キーワードは「デュアルモード」。要は平時のにぎわいと災害時の防災機能を併存させた街づくりだ。

ハード面での最大の特徴は、人や公共交通機関の要衝として、都心の「道の駅」を整備したこと。平時はにぎわい創出のためのイベントなどを実施し、災害時は帰宅困難者の受け入れなど災害支援拠点として機能する。その際、街を巡回する燃料電池のBRT(Bus Rapid Transit/バス高速輸送システム)は非常電源となり、帰宅困難車のスマートフォンの充電スポットになるという。平時はランチを提供するキッチンカーも災害時には豊洲市場と連携して移動可能な炊き出し施設として活用される予定だ。

溝口氏によると、江東区など東京の7区は荒川が決壊すると約7割が浸水エリアになるとされ、浸水時にもビルが孤立しないよう、ビルとビルをデッキなどでつなぐ「高台のまちづくり」が進められている。それと同時に、いざという時には域外に避難するための「必要十分な公共交通」を取り入れた防災まちづくりの社会実験も行われている。

一方、ソフト面ではSNSアプリのLINEと連携した防災訓練を4年前から実施しているといい、溝口氏は「普段使わない機器では災害時に使いこなせない。使い慣れているツールを用いるのが重要」と強調した。

国が取り組む、緑に着目した防災とは

続いて国土交通省の辻野恒一氏が、国の進める「グリーンインフラ」について説明。

それによると、グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用など、ハード・ソフトの両面において、自然の多様な機能を活用し、持続可能な国土や都市、地域づくりを進める取り組みのことをいう。1990年代に欧米を中心に始まり、日本では2015年の国土形成計画に初めて記載された。その後経済団体や学術団体、地方自治体なども取り組み始めた経緯がある。

昨年には「国土交通省グリーンチャレンジ」として、2050年の長期を見据えつつ、2030年度までの10年間に重点的に取り組む分野横断的なプロジェクトが発表された。この中には「グリーンインフラを活用した自然共生地域づくり」として、流域治水と連携した雨水貯留の推進や健全な水循環の確保といった「緑に着目した防災」の項目もある。

近年、都市化や地球温暖化の影響で河川の氾濫が頻発しているが、辻野氏によると、流域に公園などと一体化した遊水地を整備することで、平常時は都市の憩いの空間や多様な生物の生息地として、豪雨時には緑地の持つ雨水の貯留浸透機能を利用した防災・減災地として機能させることができる。こうした流域治水におけるグリーンインフラの取り組みは、横浜市をはじめ全国各地で広がりつつあるという。

大事なのは「よし逃げよう」と思うこと

一方、NECの佐々木康弘氏からは、ITデータ連携によるスマートシティ構想についての発表があった。各産業領域で個別に取得・活用してきたデータを相互連携し、社会課題解決の糸口にしようというもので、同社では、目的によってさまざまなAIを使い分けながらデータを収集し、住民サービスへとつなげる内閣府の事業をベースに、都市の情報基盤を構築している。

佐々木氏によると、都市OSと言われるこの基盤を活用することによって、防災や環境、観光など複数分野のデータを連携し、利活用させることができる。さらに、この都市OSは、「グリーンインフラとしても活用できるのではないかと考えている」という。

防災において同社は「逃げ遅れゼロ」を掲げ、高度広域防災に貢献することを目指す。具体的には国、自治体、民間などに分散した災害情報を都市OSを用いて一元化し、地図上で今何が起きているのかを見える化する。さらにはAIで危険度を分析し、次に何をすべきかという対処方法をスマートフォンに通知するというものだ。

この一貫した情報プロセスを通じて早期の避難行動を促す仕組みは香川県で高松市と近隣市町村がプラットフォームを共有する形で2020年から運用が始まっている。佐々木氏は、「大事なのは、住民自らが『よし逃げよう』と思うこと。事実や科学的な根拠に基づいて意思決定ができることだ」と話した。

その後はディスカッションが行われ、スマートシティとグリーンインフラそれぞれの課題や克服方法、両者の融合の可能性、今後の展望について議論がなされた。

要約すると、スマートシティにはマネタイズと住民の防災意識向上、誰一人取り残されない運用の仕組みといった課題、グリーンインフラには認知度の低さや価値評価基準の不明確さという課題があることが浮かび上がった。

またスマートシティの中に緑地を取り入れたり、ITやAIを駆使してグリーンインフラの周知・価値向上を図ったりすることが融合の手がかりになり得る。重要なのは防災減災を生活の中に溶け込ませることであり、平時と災害は隣り合わせであるという形で街を設計していくことだ。

ファシリテーターを務めた江戸克栄氏は「都市と防災の問題には、住民個人と地域、企業と行政、経済的価値と社会的価値といった対立軸が多層的に横たわる。それらのバランスをとりつつ、最適化していく仕組みづくりこそが、スマートシティなのかなと思う」と述べ、セッションを締めくくった。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。