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第4回未来まちづくりフォーラム④ 働き方改革や高齢者の見守りにつながる企業と自治体の連携を探る

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「日本SDGsモデルの最前線―より良き回復(Build Back Better)に向けてー」のテーマのもとに、社会課題の解決に向け、地方自治体と企業がタッグを組んで取り組む事例が発表された「第4回未来まちづくりフォーラム」。このうち企業と自治体、関係者のコラボレーションによる「協創力」に焦点を当てたリレーセッションの後半=NECネッツエスアイと埼玉県、NTTドコモと豊田市、エプソン販売と北九州市立大などによる発表=を紹介する。自治体の働き方改革や高齢者の新しい見守りにもつながるDXを通じた連携は注目に値する。(岩﨑唱)

真の働き方改革へ NECネッツエスアイと埼玉県、DXで連携

上田真臣・埼玉県 企画財政部 行政・デジタル改革課 主管(インタビュー動画)
埴生北斗・NECネッツエスアイ マネージドセキュリティサービス部 担当課長

リレーセッション後半は、DX推進をめぐる企業と自治体の連携事例から始まり、NECネッツエスアイと埼玉県庁によるプロジェクトが報告された。

埼玉県庁では2021年度から本格的にDXによる業務の見直しを行い、文書のペーパーレス化やテレワークの活用などを通して行政改革や働き方改革を進めている。その要となるデジタライゼーションツールの導入を手掛けたのがNECネッツエスアイだ。セッションでは、同社の埴生北斗氏が事業内容をプレゼンテーションするとともに、今回登壇できなかった行政側の担当者である埼玉県行政・デジタル改革課の上田真臣氏へのインタビュー動画を紹介した。

埴生氏によると、NECネッツエスアイは自社の働き方改革を2007年から進め、2019年には分散型ワーク、2020年には業務プロセス改革、2021年にはリアルなオフィスとリモート現場とを一体化するハイブリッドワークに取り組んできた。そうした実践をもとに、いま、力を入れているのが「まちづくりDX」だという。

今回の事業もその一環で、同社の経験とノウハウをフルに生かし、「イノベーション創出のためのクラウドシフトによる働き方改革」を埼玉県に提案した。プロジェクトを通じてまずは県庁内のコラボレーションを充実させ、最終的には県全体のパブリックDX化へとつなげて、「快適で豊かな、真に暮らしやすい埼玉県への変革を目指す」計画だ。

具体的にはクラウド認証サービスを導入してIDパスワード管理を一元化するとともに、ファイル共有サービスや、電子文書と電子化した紙文書を一元管理できるシステム、Web会議システムなどのソリューションを提供。その結果、職員のシステム管理負荷を大幅に軽減するなどの成果が上がっているといい、埴生氏は、「国内のクラウドサービスの代理店とタッグを組むことで、埼玉県のDXによる働き方改革を支えることができた。この事例が全国の自治体の参考になると嬉しい」と話した。

埼玉県 デジタルツール導入でコピー使用量90%減る

また埼玉県の上田氏はインタビュー動画で「コロナ禍を経て自治体においてもDXの取り組みが重要になってきている。そのために環境の整備は欠かせず、最初のステップがペーパーレスとテレワークだった」とプロジェクトの実施背景を説明。今回のツール導入により令和3年度上半期のコピー使用量が、2年前の同時期と比べて90.8%もの削減につながったという。

約7カ月と長期にわたり、全職員を対象とする大規模なプロジェクトであったことから、庁内に問い合わせ窓口を設置し、Zoomのウェビナー機能をフル活用して説明会を行うなど周知に努めた。システムの導入後も職員の意識改革とシステムの理解推進のためのサイトを開設するなど、情報発信にも力を入れている。

最後に上田氏は、「行政事務のデジタル化は、デジタルによる社会改革の第一歩だ。われわれ職員が発想力を持ってこのツールを使いこなし、新しい価値を創造していくことこそが重要であり、それによって県民や事業者へのサービスの変革につなげていきたい」と抱負を述べた。

スマートフォンを持ち歩くだけで見守れる社会の実現を 豊田市で実証

清水氏、柴田氏、古屋氏

柴田宏紀・豊田市 福祉部 福祉総合相談課 消防士長
清水健司・豊田市 福祉部 高齢福祉課 担当長
古屋大和・NTTドコモ ヘルスケアビジネス推進室 ソリューション事業推進 公共担当 担当課長

豊田市はNTTドコモと連携して「未来のヘルスケアの在り方」を模索する実証実験を昨年から行い、今年7月より本サービスを開始しようとしている。このセッションには、NTTドコモの古谷大和氏と豊田市の柴田宏紀氏、清水健司氏が登壇し、スマートフォンを活用した高齢者の見守り事例として報告した。

サービスはドコモのスマートフォン用アプリを使って、利用者の位置情報や歩数、睡眠などの生活習慣に関する情報を収集し、AIがフレイルのリスクを判定することによってその人の健康状態に合った遠隔食事指導などにつなげるとともに、災害時の避難所への誘導や避難状況の把握に活用するもの。

※フレイル(Frailty):心身の虚弱。健康な状態と要介護状態の中間に位置する身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指す。

豊田市、見守るべき人をどう効率的に把握するかが課題だった

清水氏によると、豊田市は高齢者の見守りに関するさまざまな施策を進めてきたが、年々見守りの必要な人が増え、行政として「フレイルに陥りそうな、見守るべき人をどう効率的に把握するか」といった課題が持ち上がる中でドコモ側から提案を受け、実証実験に至ったという。

合言葉は「スマートフォンを持ち歩くだけで、より多くの人が見守れる社会の実現へ」。見守られる側の高齢者が、スマホのアプリを使用することによって、本人が意識せずとも心身の虚弱状態などの情報が分かり、家族や民生委員ら見守る側に自動で伝えられることの意味は大きい。またこれを災害時に生かすことができるのも重要で、柴田氏は「これだけ地震や風水害が頻発している中で災害時の支援体制の構築は大きな課題となっている。ただ災害時だけに特化した方法では難しい面もあり、日常の見守りと併せて行うことで、実効性をより担保できるのではないか」とサービスに期待される効果を話した。

AI が分析 起床時間や睡眠の長さにばらつきがある人ほどフレイルになりやすい

実証実験には65歳以上の57人の市民が参加。比較的元気な人が多かったのにもかかわらず、4割強がフレイルあるいはプレフレイルと推定され、健康にリスクを抱えていることがうかがわれた。また、起床時間や睡眠の長さにばらつきがある人ほどフレイルになりやすいとする、AIならではの分析結果も示されたという。

さらに参加者のアプリに対する満足度は高く、アプリを使った歩行の継続率は8割に達したことで、ドコモの古屋氏は「大きな成果だった。スマートフォンを使って自然な形で住民の見守りにつなげていくための接点が見えた」と手応えを語った。

セッション後半はディスカッション形式で進み、古屋氏の「持続可能な豊田市のイメージは?」というという問いかけに柴田氏は「地域特性に応じて構築された自助と共助の体制の中に効率よく公助がかみ合っている状態」と、また「健康と福祉を実現するためのミライのフツーとは?」という問いかけには、清水氏が「住み慣れた地域の中で、誰もが幸福感を得て安心して暮らせることをICTなどの技術を活用して実現していくことだと思う」と答えた。

高齢者の中にはデジタルに不慣れな人も多いが、実証実験の参加者の中には「不慣れだけれども期待している」という声も多く聞かれたという。セッションは最後、清水氏が「新しいヘルスケアは豊田市だけでなく全国的な課題。今後も他の自治体やいろいろな企業と連携し、高齢者の安心な生活づくりにつなげていきたい」、古屋氏が「われわれのサービスを活用し、その先におられる住民の方に価値のある体験をしていただけるよう、取り組みを広げていきたい」と官民それぞれの立場から抱負を述べて終了した。

ESGの活動効果、SDGsへの貢献度を可視化する手法とは

子田氏、松本氏

東修・エックス都市研究所 九州事務所 主任研究員(オンライン登壇)
松本亨・北九州市立大学 環境技術研究所 教授
子田吉之・エプソン販売 販売推進本部 スマートチャージMD部 部長

経営理念に「地球を友に」という言葉が入っているエプソンは、創業当初から環境に対する取り組みを大切にしてきた。現在は2050年の「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」の達成を掲げ、環境配慮型オフィスへの取り組みとして、熱を使わない独自のインク吐出技術を採用したインクジェットプリンターと、水を使わずに使用済みの紙から新しい紙をつくる乾式オフィス製紙機の組み合わせでオフィス内での紙循環を実現させようとしている。

同社のその環境配慮型システムを活用し、2020年から、紙の循環から始める地域共創プロジェクト「KAMIKURU」に取り組んでいるのが北九州市だ。最後のリレーセッションではその活動と、それによって生み出された効果を貨幣価値に換算することで可視化して評価し、さらにSDGsへの貢献度についても明らかにすることのできる、「SROI(社会的投資収益率)」という手法が紹介された。

地域で紙の循環を実現――KAMIKIRUとは

初めにエプソンの子田吉之氏がプロジェクトの概要を説明。同社の乾式オフィス製紙機を設置している「ヒューマンメディア創造センター」に、自治体や民間企業の事業所から出た印刷済みの紙を集め、名刺やメモ帳、百貨店の手提げ袋や菓子のパッケージ、県立高校の卒業証書などにアップサイクルして戻すことによって、地域での紙の循環を実現していること、またセンターを運営し、実際に紙をつくる作業は障がい者の雇用を進めるNPO法人が担い、地域の中学校がKAMIKURUをSDGsの授業に展開するなど、多様な雇用や教育機会の提供にもつながっていることを報告した。

もっとも同氏によると、この活動を「SDGsへの貢献価値としてどのように数値化するか、ということが悩みだった」という。その一つの答えとなるのが、SROIによる可視化だ。


エックス都市研究所の東修氏は、SROIについて、事業に投じられる総費用(=インプット)を分母、KAMIKURUが環境と経済、社会面に及ぼすさまざまな効果(=アウトカム)を分子とする計算式を用いて貨幣価値を換算化する仕組みであり、SROI値はすなわちサステナビリティへの貢献度を示すことにもなると説明。KAMIKURUの重要なアウトカムとしては、環境面がCO2や水消費、木材消費の削減、経済面は紙処理・購入費の削減と企業価値の向上、社会面では社会的弱者への支援や雇用創出、SDGs教育を挙げた。

KAMIKURUのような投資に伴う財務的なリターンの少ない活動であっても、サステナビリティへの貢献度が明確になることでESG投資の拡大につながる可能性がある。このため東氏は、「SROIはマネジメントツールとしても有効である」と指摘。評価を機にそれぞれのアウトカムがさらなる改善を目指すことで、「例えばKAMIKURUへの賛同者が増えて古紙回収量が増え、アップサイクル品の需要も増えて雇用拡大につながるなど、好循環が生まれる」と語った。

KAMIKURUのような投資に伴う財務的なリターンの少ない活動であっても、サステナビリティへの貢献度が明確になることでESG投資の拡大につながる可能性がある。このため東氏は、「SROIはマネジメントツールとしても有効である」と指摘。評価を機にそれぞれのアウトカムがさらなる改善を目指すことで、「例えばKAMIKURUへの賛同者が増えて古紙回収量が増え、アップサイクル品の需要も増えて雇用拡大につながるなど、好循環が生まれる」と語った。

SROI の算定結果は3.02 総費用の3倍程度の社会的収益を示唆

その上で、実際にSROI値の算出を行った北九州市立大学の松本亨氏が、KAMIKURUの全体のSROI値は3.02となり、「KAMIKURUを実施したことによって、乾式オフィス製紙機の製品寿命である7年間に、同機の維持管理などに要した費用の3倍程度の社会的収益が得られることが示唆された」と報告。

個別の貨幣価値としては、例えば水の使用料は、KAMIKURUによって年間約10万枚の紙のリサイクルに貢献できたと考えられることから、日本で最も紙の生産量の多い愛媛県の工業用水の単価をベースとして、年間で1万3648円の節約につながった計算になるという。

さらに同大学ではKAMIKURUの各アウトカムがSDGsの目標にどれだけ貢献しているのかを調べるため、KAMIKURUでSDGs教育を受けた中高生55人にアンケートを行った。その結果、SDGsの17目標のうち、4番「質の高い教育をみんなに」と11番「住み続けられるまちづくりを」への評価が大きかったことが松本氏から発表された。

これを受け、東氏は、「SROIにより、企業の社会的活動がSDGsにどう貢献しているのかが分かる手法が確立されたことの意味は大きい」と強調。KAMIKURUの今後について「調査の副次的効果として、地域の人々の意識の変化や行動変容への貢献が期待できる。さらなる環境改善にむけて進んでいきたい」と抱負を述べ、セッションを終えた。

岩﨑 唱 (いわさき・となお)

コピーライター、准木材コーディネーター
東京都豊島区生まれ、日本大学理工学部電気工学科卒。いくつかの広告代理店、広告制作会社で自動車、IT関連機器、通信事業者などの広告企画制作に携わり、1995年に独立しフリーランスに。「緑の雇用」事業の広告PRに携わったことを契機に森林、林業に関心を抱き、2011年から21018年まで森林整備のNPO活動にも参画。森林を健全にし、林業・木材業を持続産業化するには、木材のサプライチェーン(川上から川下まで)のコーディネイトが重要と考えている。