サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ネスレ、沖縄でのコーヒー栽培に注力 今冬に初収穫へ

  • Twitter
  • Facebook
名護市の農場

本土復帰50周年を迎えた沖縄で、耕作放棄地を活用して新産業を生み出すための小さな種が育っている。コーヒーを沖縄の特産品につなげることを目標に、ネスレ日本とサッカークラブ「沖縄SV」が2019年度から取り組む「沖縄コーヒープロジェクト」で栽培するコーヒーだ。世界のコーヒーベルトは北緯25度〜南緯25度とされ、北緯26度の沖縄本島はぎりぎり適地に入る。栽培を軌道に乗せるには沖縄の気候に合った方法を確立する必要があるものの、栽培地が11カ所に増え、農家や自治体との連携も広がるなど取り組みは加速。今年の冬から来春にかけて初めてまとまった量の収穫を迎える予定で、ネスレは将来的にネスカフェブランドでの製品化も視野に入れるなど、関係者の期待は大きい。(廣末智子)

沖縄SVと協働で実施 名護市に続き、うるま市とも新たに連携

プロジェクトは、農業就業者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地への対応など、同県における一次産業の課題解決につなげようと、ネスレ日本と、沖縄を拠点にサッカーを中心としたスポーツ×農業の取り組みを進める沖縄SV(エスファウ)が協働で実施。基本的に豆の栽培に関わる農作業にはSVの選手や関係者が従事し、ネスレは沖縄での栽培に適したアラビア種の苗木の種の提供や、世界各地で気候変動などによって影響を受けるコーヒー農家を取り巻くサプライチェーンの改善に取り組む「ネスカフェプラン」で得た知見を生かした技術支援などを行う。さらには琉球大学が農学的見地から栽培に必要なノウハウを提供する形がとられている。ネスレ日本は沖縄SVのトップパートナーでもある。

2019年4月に名護市の農地から始まった栽培は、住民や農家の協力で現在、沖縄本島と石垣島、宮古島の農地、沖縄県立北部農林高校を合わせて11カ所に広がり、2022年4月時点で累計約6500本の苗木が植樹された。このうち最初の2年間に植えた木が今冬から来春にかけて収穫が見込めるほどに成長しているという。

事業の進捗を受けて、ネスレと沖縄SVは24日、名護市に続いて、うるま市とも連携し、同市内の耕作放棄地に新農場を開設して「コーヒーを活用した地域活性化」に取り組むことを発表した。新農場は7月に整備を開始する予定で、コーヒーをはじめとした農作物の栽培に福祉事業所で働く障がい者らも従事するほか、市民の憩いの場となるユニバーサルカフェを来年3月に併設予定としている。

ネスレ日本CEO「コーヒーが沖縄で作られるようになったら、全国で消費される産品になる」

中村正人・うるま市長、高原直泰・沖縄SV CEO、深谷龍彦・ネスレ日本CEO、高岡二郎・ネスレ日本飲料事業本部部長

同日開かれたオンライン会見で、ネスレ日本の深谷龍彦CEOは、サトウキビやゴーヤー、パイナップルやマンゴーなどを中心とする沖縄の一次産業について、「沖縄特有の気候で作られるものと本州で多く食べられるものとのミスマッチがある。農家の方々と話す中でも、輸送料が高いことなどから価格面でも対抗できず、沖縄で農業は厳しいという声をよく聞く」と指摘。

そうした現状を踏まえた上で、沖縄がコーヒーベルトの中にあることから、「もしコーヒーが沖縄で作られるようになったら、日本のほかの土地ではなかなか作ることができず、且つ、全国で消費される産品になる」という考えのもとに事業を進め、「賛同者が増えて少しずつ輪が広がってきた」と手応えを語った。

もっともコーヒーは苗木を植えてから実を収穫できるまでに最低でも3年はかかることなどから、深谷氏は「簡単ではなく、いろんな危機に直面して一つひとつ解決しているような状態であり、まだまだ道半ばだ」と強調。

この危機について、元サッカー日本代表で、沖縄SVの高原直泰CEOは、「台風などの強風で苗木が倒されたり、強い日差しで葉焼けするなどの被害が大きかった」と話し、名護市の農園では防風林や防風ネット、シェードツリーなどの対策を取りながら栽培を進めた結果、今冬の初収穫に向けて順調に生育していることが報告された。

アグリツーリズムや沖縄土産、中長期的にはネスカフェブランドでの製品化視野に

今後のコーヒー栽培についてネスレは、沖縄の土壌や気候に適した栽培方法を確立した上で、観光客らが収穫を体験し、その場でコーヒーを試飲できるアグリツーリズムのような形態に育て、コーヒーを沖縄土産として販売する方針を示すとともに、中長期的にはネスカフェブランドでの製品化も視野に入れていることを説明。「10年単位のプロジェクト」と位置付けながらも、今年4月には専任の社員を沖縄に駐在させるなど、栽培支援を強化していることを明らかにした。

また会見にはうるま市の中村正人市長も同席し、沖縄では特にサトウキビの生産力が軽減し、耕作放棄地が増えていることから、「ネスレ日本と沖縄SVの技術力と支援をいただき、農福連携も進めながら、コーヒー栽培を一緒になって推進する」と表明。さらに「行政として予算を投じ、場所も提供し、人材も派遣することで、2社に対する全面的なサポーターとなりたい」と述べ、プロジェクトへの期待の高さをうかがわせた。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。