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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

地球、人、文化が再生するまちのデザイン 自然と人との関係性から変革を生み出すリーダーたち

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渡邉氏、大山氏、高浜氏、東氏(左上から時計まわり)

リジェネラティブな社会に向けて、私たちは地域とどう関わっていけばいいのか。少なくとも、人が自らの幸福を追求しつつ、地球環境も修復・再生されるアプローチであるべきだ。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、長野県奈良井宿の再生プロジェクトを担当した竹中工務店の高浜洋平氏、東京都台東区で地域共生拠点「élab」を運営しサーキュラーエコノミーの実現を目的とするコンサルティング会社「fog」代表の大山貴子氏、地域社会の再生に取り組む群馬県前橋市の電気工事会社「ソウワ・ディライト」代表の渡邉辰吾氏の3人のリジェネラティブリーダーを招き、地球視点での地域の変革と再生の方法について語り合った。(いからしひろき)

ファシリテーター:
東嗣了・SYSTEMIC CHANGE代表、サステナビリティ・リーダーシップコンサルタント、バイオミミクリー・ジャパン 代表理事
パネリスト:
高浜洋平・竹中工務店 まちづくり戦略室 副部長
大山貴子・fog 代表取締役社長
渡邉辰吾・ソウワ・ディライト 代表取締役CEO

セッションは、ファシリテーターを務めるSYSTEMIC CHANGE代表でサステナビリティ・リーダーシップコンサルタントの東嗣了氏の、「再生(リジェネレーション)というキーワードをバズワードで終わらせるのでなく、全部が地球につながっていると考え、本質的なことを学ぶ時間にしたい」という言葉でスタート。パネリストによるそれぞれの活動のプレゼンテーションに移った。

竹中工務店まちづくり戦略室副部長の高浜氏は、長野県塩尻市奈良井宿の再生プロジェクトを担当する。奈良井宿は江戸時代から続く風光明媚な宿場町で年間62万人もの観光客が訪れるが、自立した経済がうまく回っていないという現状があった。そこで取り組んだのが空き家の活用であり、そのシンボル的存在が築200年の酒蔵を改装した「BYAKU Narai」というホテルで、1泊5万円の高級宿ながら予約が相次いでいるという。

fog代表の大山氏は、米国で学んだ経験を生かし、日本独自の循環型社会の実現に向けて活動。その拠点が東京・蔵前に2021年にオープンしたキッチン・リビングラボ「élab」だ。キッチンラボでは、栽培や輸送による水の消費量、CO2の排出量といった環境負荷に配慮し、食材はなるべく東京のものを使い、廃棄食材を使ったお菓子や、環境負荷の高いアボカドに代わるオルタナティブフード(代替食品)を開発するなど、食のローカル・サーキュラーエコノミーをテーマにシェフらが研究開発した、主にプラントベース(植物由来)の料理を提供する。リビングラボでは、地域住民や大学、企業と循環する未来を社会実装するための取り組みをし、その一環として、地域のゴミ拾いに参加したり、店先で子供服の交換会を行ったりもしている。

ソウワ・ディライト代表の渡邉氏は、群馬県前橋市の電気工事会社の2代目で、地方の建設業界のなかでの独自の価値創造に取り組んでいる。プロジェクションマッピングなどのデジタル技術を用いた街の再生プロジェクトにも関わってきたが、やがてDXやビックデータなどを通じて「自らが管理されるような」感覚を覚えるように。それ以降は地球らしさと人間らしさの共生モデルを軸に電気を通じて何ができるかを意識して事業を展開しているという。

どんな課題感を持って再生に取り組んでいるのか

プレゼンテーションの後はクロストークが行われ、東氏がそれぞれに「どんな課題感を持って再生に取り組んでいるのか」を質問。高浜氏は、「木に向き合う専門性や、伝統文化が分断されており、それをつないでいかないといけないと思った」と語り、その原因が「すぐ近くに木があっても、木を伐る人も製材する人もいない。近くて遠い山になっている」と林業の衰退にあることを指摘した。

それを聞いて大山氏は、「今の生態系では、エコシステムの担い手である人間が動かないと森は再生していかない。活用しつつ再生・循環させるやり方が必要では」と提言。渡邉氏は、地域の分断を例に挙げ、「役に立つ情報も、昔からの悪しき風習で遮断されがち。解決するためには自然や地球を絶対的なリーダーに据え、人間は生かされているという視点を持つこと」と述べた。

活動を広げる秘訣としては、高浜氏は、「コミュニティにどう寄り添うか」が大事だといい、古民家活用の高級ホテルも地域住民との対話で生まれたことを説明。

渡邉氏は、まちづくりの場面では「面白いことをやれば人が集まってくる」と経験談を披露する一方で、みなが一つにまとまる必要はなく、「相反するものがある方がお互いのためにいい」と強調。その考えに基づき、常日頃、社員に対し、「うちは独自の文化を持っているから、会社じゃなくて一つの部族だよ」と話していることも紹介された。

大山氏は、「部外者が地域の人たちの営みを勝手に社会課題だと指摘し、強引に関わろうとするのは問題」とし、地域の人の生活や考えを尊重しつつ、伴走していくことが大事であると提言した。

リジェネレーションとは自律的に再生していくこと

最後に、東氏は「リジェネレーションとは何かを他力的に再生させるのではなく、自ら自律的に再生していくことなのではないか」ともう一度各氏に投げかけた。

これに対し、渡邉氏は「答えは自分の体の中の感覚にある」、高浜氏は「自分や街、コミュニティの中で完結するマイクロ循環を作っていく作業がリジェネラティブでは」、大山氏は「情報をDXで管理される社会で受け身になってしまうと思考停止状態になる。五感を通して、自分が本当に必要なものは何なのかといったことを見据えて行動していきたい」とそれぞれの言葉で賛意を表し、セッションは幕を閉じた。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。