サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

社員一人ひとりに根付くパーパス  大和ハウス、SOMPO、横河電機の取り組みとは

  • Twitter
  • Facebook
平野氏、玉木氏、近久氏

社会や価値観の急激な変化に応えるために、企業のパーパス(存在意義)を問い直す動きが高まっている。サステナブル・ブランド国際会議では2017年、日本での第1回目の開催のテーマに「存在意義を揺り動かせ(Activating Purpose)」を掲げ、その後も継続的にパーパスについて議論してきた。そして今年2月の同会議でも、パーパスを策定し社内への浸透に取り組んでいる先進企業をパネリストに招き、「社員一人ひとりに根付くパーパス」と題したセッションを実施した。各社の取り組みを通じて、パーパスを社員に根付かせるだけでなく、個人のパーパスと会社のパーパスとを重ね合わせるプロセスとはどんなものかを考える。(岩﨑 唱)

ファシリテーター:
足立直樹 サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト:
玉木伸之・横河電機 未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダー
近久啓太・大和ハウス工業 サステナビリティ企画部長
平野友輔・SOMPOホールディングス サステナブル経営推進室 室長

創業精神を支えにし、パーパス策定に社員全員が参加

大和ハウス工業はこの1年、パーパスを策定中で今大詰めの段階を迎えている。近久啓太氏は「創業100周年を迎える2055年に向けて、創り出したい社会と自分たちが果たすべき役割をセットにして“将来の夢”として位置付けていこうとしている」と説明。

“夢”という、創業時から大切にしてきた言葉をパーパス策定の支えにし、創業の精神を現代に置き換えていくことがミッションの一つだという。具体的には最初に社員からアンケートを集め、未来の姿を描くオンライン上のサミットに世界中の社員1000人が参加。そこから上がった素案を最後に役員が集中討議する形式がとられ、全ての過程をタイムリーに社内イントラネットで開示し、社員全員が参加することを大事にした。

役員による最終ディスカッションから、案がもう一度社員に差し戻される一幕もあったが、「社員と役員の間を往復するディスカッションが1年にわたって続けられたのが特徴的でとても良かった」と述べた。

「会社の中の自分」から「自分の中の会社」へ価値観がシフト

次にSOMPOホールディングスの平野友輔氏が社員一人ひとりの「MYパーパス」を起点にしたパーパス浸透の取り組みを紹介した。同社は「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」というパーパスを掲げる。平野氏は「パーパスを自分ごと化して取り組むことが大事で、そのためには企業のマクロな話を個人のミクロな話にすることが必要。また、ただミクロにするだけでは企業文化として根付くまでに至らないので、個人の話をもう一度マクロにし、企業で駆動する仕組みやフレームワークにする」と述べた。

またMYパーパスを策定する上での基本的な考え方を、「今、仕事や働き方の価値観のパラダイムシフトが起こっている。これまでは会社の中の自分だったが、これからは自分の中の会社、という位置付けだ」と説明。櫻田謙悟CEOも、「いちばん重要なのは人生のパーパス。会社を利用して自分のパーパスを達成することが本質だ、と言い切っている」。こうしたことからも、「会社のパーパスを社員に落とし込むのではなく、一人ひとりのパーパスと会社のパーパスが重なり、かみ合うことで幸せで良い仕事ができ、良い人生になる。対話を通じて自分がなりたい姿に向かってチャレンジしていくことが重要」と強調した。

次世代リーダーを育成しながら未来シナリオを描く

続いて横河電機の玉木伸之氏が、若手社員による未来シナリオづくりの取り組みを報告した。横河電機は昨年5月に中長期経営計画とともに初めて「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす」というパーパスを発表している。その前の段階で、20代から40代前半の若手社員による2035年の未来シナリオを策定するプロジェクトチームを立ち上げた。グローバルな製造業が迎えうる将来の可能性を描くとともに、従来型のリーダーではなく、時代の変化に適応できる高度な思考力を持った人材をつくろうというもので、このプロセスを通じてさまざまな企業との業界を超えた共創を深めているという。

玉木氏は「デジタルやサステナビリティへの流れを見ると、世界は明らかに新しい社会経済システムへとシフトしている。戦略やパーパスについての議論の前に、そもそも未来がどうなるのかという見解を持つことが必要だ」と指摘。「パーパスを実現するためには組織と人に未来志向をもたらすことであり、そのためにも若い人たちによるオープンイノベーション的なアプローチを進めているところだ」と胸を張った。

最後に足立氏は「パーパスを策定し、それを社員一人ひとりに浸透させることでどのような効果が生まれるのか」と3人に質問。近久氏は「これから策定するパーパスが、中長期経営計画や2055年の創業100周年にどうつながっていくか。事業では届かない社会課題に対しても会社としてチャレンジし、目を向けていく風土をつくりたい」。玉木氏は「自由に語り合う雰囲気をつくり、素直にさまざまな議論ができるようにしないといけないと思っている」。平野氏は「期待できることが3つある。一つ目が一体感、二つ目がダイバーシティ&インクルージョン、三つ目が企業価値。非財務の価値が未財務の価値につながっていく」と答えた。

足立氏は「パーパスが重要であるのは間違いないが、パーパスをいかに使い込んでいくかというプロセスがより重要、あるいはそこに別の価値があると学んだ」と総括し、セッションを終えた。

岩﨑 唱 (いわさき・となお)

コピーライター、准木材コーディネーター
東京都豊島区生まれ、日本大学理工学部電気工学科卒。いくつかの広告代理店、広告制作会社で自動車、IT関連機器、通信事業者などの広告企画制作に携わり、1995年に独立しフリーランスに。「緑の雇用」事業の広告PRに携わったことを契機に森林、林業に関心を抱き、2011年から21018年まで森林整備のNPO活動にも参画。森林を健全にし、林業・木材業を持続産業化するには、木材のサプライチェーン(川上から川下まで)のコーディネイトが重要と考えている。