サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

生物38億年の進化にのっとった「リジェネラティブ」な世界へ移行を

  • Twitter
  • Facebook
surakit sawangchit

既存のパラダイムから脱却し、38億年もの間、生命を存続させてきた再生可能な世界へと踏み出す時――。今年も「リジェネレーション(再生)」をテーマに開かれたサステナブル・ブランド国際会議2022横浜。初日の基調講演では、企業のサステナビリティからリジェネレーションへの移行を戦略的にサポートする英国の専門家でクリエイティブ・ストラテジストのジェニー・アンダーソン氏が「リジェネラティブ(再生可能)であるということ:思考・心・感覚を変える」と題してビデオ登壇し、「自分の思考を一度壊して新しい何かを受け入れるための実践を始めよう」と呼びかけた。講演の骨子を紹介する。(廣末智子)

ジェニー・アンダーソン氏

いつの時代も勇敢なパイオニアはまだ見ぬ未来を実感することができる

「三つの地平」now(現在)、transition(移行期)、future(未来)
https://explore.scimednet.org/wp-content/uploads/2017/09/6Sharpe.pdf

アンダーソン氏はまず、ヒューレット・パッカード研究所でかつてリサーチ・ディレクターを務め、現在は独立研究者のビル・シャープ氏が開発した未来について考えるためのフレームワーク「3つの地平(視界)」を紹介した。今の行動が未来にどのようにつながるのかを示したものだ。一つ目は時代ごとの支配的な地平であり、その欠点を認識し、そこに破壊的変革をもたらそうとする地平が二つ目に、三つ目は、「必要な変化を察知するだけでなく、想像もつかないような根本的に異質なものの誕生を感じることのできる人たちの地平」だ。

これを現代に当てはめると、一つ目は過去250年にわたって構築された世界経済モデルであり、このモデルは一部の国や人々にとてつもない富と長期の経済成長をもたらすと同時に、不平等を悪化させた。その結果、気候変動や生物多様性の損失、森林減少といった代償が明らかになったことで、化石燃料エネルギーを破壊的に変革する太陽光や風力発電、工場化した農業システムを変えようとする企業などが今、二つ目の地平として挙げられる。

もっとも二つ目の地平の変革者は巨額の利益を目論む従来の経済の枠組みの中にあり、全面的な変革にはならない。そこで第三の地平として、今の時代に生まれつつある新しい洞察や情報に対してオープンであり、自ら変化をつくり出すことのできるパイオニアたちの世界観がある。勇敢なパイオニアはいつの時代にもまだ見ぬ未来を実感することができる。人が飛ぶことを知らなかった時代にヘリコプターを夢見たダビンチやガリレオのような人々のことだ。

生命の輝きと原理を見抜き、感じ取ること

一方で、多くの人は社会やこの惑星が今のままではいけないと分かっていても、機械論的思考に閉じ込められている。脱却するには想像力が必要であり、人類はこれまでの支配的なパラダイムから命を高める新しいパラダイム、38億年もの間、生命を存続させてきた原理にのっとった再生可能な世界へと移行し、自然との新しい関係性の構築に踏み出していかなければならない。

38億年の進化の中で、生命は常に命をつなぐための条件をつくりだしてきた。何十億年も前に存在した単細胞生物から、珊瑚礁や熱帯雨林の複雑な生態系に至るまで、最初の受精卵から誕生、成長、飛翔、そして再生へと命は粘り強く続いてきた。雪の結晶は自然界の主要パターンの一つであり、星型でありながら、雪のひとひらひとひらはどれをとっても一つとして同じものはない。

今、世界が存続するかどうかの脅威を前に、死んでいるかのように無反応な私たちの心を美しい世界に目覚めさせる最良の方法は、生命の輝きと原理を見抜き、感じ取ることだ。私たち自身が命の軌跡であることに気づき、動かなくなった心を再び動かし、反応できるようになったら新たな挑戦が待っている。対応力を取り戻すことは入り口に過ぎず、常に実践が必要だ。

自分の思考を一度破壊し、新しい何かを受け入れる実践を

考え方を変えるためには何が必要か。それには自分の思考を一度破壊して、新しい何かを受け入れる実践を始めることだ。その過程を通じて、自分の意見は本当に自分自身のものなのか、実は古いパラダイムで考えているのではないかということに気づく能力を養うことができる。

過去から続く生態系や文化、経済のパターンから、次に行くべき場所を読み取り、システムを発展させる。それぞれの場所で唯一無二のパターンを見出し、次に何が起こるかを想像し、感じ取る。その際、役に立つのが上記の「フレームワーク」に基づいた思考だ。

絶え間ない闘争の中で新しいものを生み出すのは出産と同じで痛みを伴う。だからこそ、その土壌を育てるために資金を共有し、お互いがお互いのメンターとなり、リソースを提供し合うことが発展の道を歩み続けるために必要だ。人間は地球上で、システム進化の触媒として強力な役割を担っている。自身が再生するために、知恵と新しい思考を身につけるための実践を続けてほしい。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。