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創業144年の老舗酒蔵と、北海道の自然豊かな町が挑む、公設民営型の地酒づくり

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2020年11月、旭川空港からほど近い北海道上川郡東川町に、「公設民営型」という珍しい形態の酒蔵が誕生しました。それは、自分たちの酒造りにこだわる老舗酒蔵と、地域の特徴を生かした活性化を進めたい自治体、双方の想いが合わさって生まれた、環境変化と未来の産業を見据える新しい時代の酒蔵でした。

おいしい水と米を生かした地酒を、新たな特産品に

北海道の中央部に位置する上川郡東川町は、大雪山からの雪解け水が流れる自然豊かな町だ。天然のおいしい水と肥沃な大地を生かした農業が主要産業で、特に米は「東川米」としてブランドを確立するほど評価が高い。

おいしい水とおいしい米。この2つが揃った時、次につくるべき特産品として「地酒」を思いつくのは、ごく自然な流れだろう。しかし東川町には酒造りのノウハウがなかった。そこで選択したのが、公設民営型という形態。土地や設備などハードの部分は町が用意し、酒造りや蔵の運営などソフトの部分は民間企業である酒造会社を公募し、一任するというものだった。

その公募に手を挙げたのが、岐阜県中津川市で明治10年から酒造りを行ってきた老舗の酒蔵、三千櫻酒造だ。

地球温暖化を乗り越え、これからも「100年続く蔵」であるために

岐阜県の老舗酒蔵が、1550km以上離れた北海道へと移転して酒造りを行う。その大きな決断の背景にあったのは、地球温暖化というもはや避けようのない環境問題だった。

地球温暖化が伝統的な食品・飲料の製造を脅かす事態は、近年、世界各地で起きている。たとえば欧州のワイン。フランスのボルドー地方ではブドウが熟しやすくなったせいで、味や香りが変化し始めた。また、シャンパーニュ地方でもブドウの収穫日が約2週間早まっている。

「日本酒の場合、問題なのは仕込みや発酵を行う際の気温です。暖冬では十分に気温が下がらず、冷却装置を使わなければ安定した品質を保てない。創業以来使い続けてきた土蔵の老朽化が激しかったこともあり、より寒冷な北海道への移転を考えました」と、三千櫻の6代目当主・山田耕司氏は語る。

日本酒の仕込みや発酵は冬に行われる。厳しい寒さが雑菌の繁殖を抑え、低温でゆっくりと発酵できるからだ。大手の酒造会社には機械設備による冷却で年間を通して酒造りを行うところもあるが、そのような資本力を持つ会社はごく一部で、多くの中小規模の酒蔵にとって大規模な設備投資は難しい。地球温暖化は今や、日本酒市場全体に及ぶ大きな課題となっているのだ。

だが、環境の変化は伝統産業への脅威であると同時に、新たなチャンスにもなり得る。先に挙げた欧州のワインでも、ボルドー地方やシャンパーニュ地方が危機感を募らせる一方で、ノルウェーやフィンランドなどこれまで寒すぎてワイン造りに向かないとされていた地域が、新たな生産地として注目されるようになった。

JAひがしかわは、三千櫻の移転にあわせて酒米「彗星」と「きたしずく」の栽培を始めた。「彗星」は三千櫻にとっても初めて使用する酒米だ。また水についても、中津川は硬度8の超軟水、東川町は硬度60〜80の硬水と大きな違いがある。山田氏をはじめとする蔵人たちは、仕込みの配合や設計を変えながら「三千櫻酒造の酒造り」に取り組んでいる。

東川町の酒造りは、東川町にとっても三千櫻にとっても大きな挑戦だ。そして同時に、「新たな特産品をつくりたい」という東川町の想いと、「100年続く蔵であれ」という三千櫻の先代から受け継ぐ教えを実現する、大きなチャンスでもあるのだ。

水と米と人。本当の意味での東川町の地酒を目指して

移転後、三千櫻では東川町の水と米をつかった酒造りが順調に進んでいる。道の駅や町内の販売店で売り出した地酒は、あっと言う間に売り切れた。「東川町の地酒」づくりは上々の滑り出しと言えるだろう。だが山田氏は、まだ「本当の意味での東川町の地酒」には足りないものがあると言う。

「最終的には、東川の人たちが酒を造り、蔵を運営していくようになってほしいと思っています。こちらに来てもうすでに何人か地元の方を雇い入れましたが、ほかにも酒造りを体験してみたいという人は積極的に受け入れています。東川町には留学生も多いので、日本人に限らず海外の方へ向けた教育プログラムも用意しています。酒造りには向き不向きがあって、才能がないと難しい部分がある。たくさんの人に挑戦していただき、その中から熱意と才能のある方が出てくればいいなと、期待しています」と山田氏。

東川町の水と米と人、そして三千櫻がともに取り組む「東川町の地酒」づくりという挑戦は、まだ始まったばかりだ。

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