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サントリーが100%植物性ペットボトル開発に成功 木のチップ使用は世界初 

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植物由来原料を30%使用した現在の「サントリー天然水」(左)と、このほど完成した植物由来原料100%使用ペットボトル(右)

サントリーホールディングスはこのほど、植物由来原料を100%使用したペットボトルの開発に成功した。同社は既に2013年から「サントリー天然水」のペットボトル原料の30%に対しサトウキビから廃棄される糖蜜を使用しているが、残り70%を植物由来の原料からつくることが課題となっていた。今回、米国のバイオ化学ベンチャー企業との共同開発に成功し、木のチップからつくることが可能になったという。同社によると、植物由来原料100%のペットボトルは世界中で開発が進んでいるが、そのいずれもが食品系の植物を使用しており、非可食の木のチップを使用したものでは世界初となる。(サステナブル・ブランド ジャパン=廣末智子)

同社は2019年5月にプラスチック基本方針を策定し、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルにリサイクル素材、あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロにすることを表明している。

同社によると、ペットボトル原料の70%を構成するテレフタル酸の前駆体である化合物、「パラキシレン」を植物由来素材で生成するのは容易ではなく、米バイオ化学ベンチャーのアネロテックと2012年から共同で技術開発を進めてきた。

そうした中、既往技術では素材を複数段階にわたって化学変換する必要があったのが、今回初めて、熱分解と触媒反応により、ワンステップで生成できる技術の開発に成功。この技術を用いて、食料用原料のサプライチェーンに影響が出ないよう、非可食の木のチップのみから「パラキシレン」を生成し、従来のサトウキビの糖蜜と合わせることで、100%植物由来原料のペットボトルの試作品が完成した。

製品のライフサイクルにおけるCO2排出量大幅削減へ まずは「天然水」の100%バイオ化目指す

新技術は何より100%植物由来のペットボトルをつくるための工程がシンプルで、使用エネルギーを低く抑えられることから、従来の化石由来原料のペットボトルはもとより、既存の植物由来原料30%使用ボトルと比較しても、製品のライフサイクルにおけるCO2排出量を大幅に削減(50%以上となる見込み)することができる。品質も現行のものと変わらず、同社はまず「サントリー天然水」のボトルの100%バイオ化の早期実現を目指し、2030年までにペットボトルにおける化石由来原料の新規使用をゼロにするグループ全体の目標に弾みをつけたい考えだ。

同社は2012年に国内の飲料メーカーでは初めて使用済みのペットボトルを再びペットボトルへと再生するボトルtoボトル(BtoB)リサイクルシステムを、2019年には世界で初めて、ペットボトルリサイクルの一部工程を省くことで環境負荷低減と再生効率化を同時に実現する「FtoP(フレークtoプリフォーム)製造ライン」を実用化している。2020年度にグローバルで使用した年間のペットボトルは約29万トンで、このうちBtoBによるものは約15%(国内では26%)だった。

3日に開かれた記者会見で同社執行役員の福本ともみサステナビリティ経営本部長は、2022年度にはペットボトル使用率に占めるBtoBの割合を50%に引き上げる計画を示すとともに、2030年度までの目標を達成するために今後、植物性100%ペットボトルの商品化やFtoPラインの増設、より効率的なペットボトル回収の仕組みの構築などに「約500億円の投資が必要となる」見通しを明らかにした。

同席したサントリーMONODUKURIエキスパートの執行役員で、SCM本部の横井恒彦包材部長は、植物素材100%の新ペットボトルについて、試作品は研究開発の位置付けであることから米国産の松のウッドチップを使用したが、製品化に当たっては今、日本で、森林の再生や林業の復興を目指す機運があることから、日本の杉なども候補に、「最適な場所でのプラント建設や原材料の調達を検討していく」と説明。「まずは『サントリー天然水』のボトルでの植物由来原料100%化をターゲットに早期実現を目指し、2030年目標の達成を通じて多様な命が輝き、響き合う世界の実現に向け、循環型且つ脱炭素社会への変革を進める」と力を込めた。

ペットボトル以外の容器の循環型リサイクル構築も可能に 昨年設立の新会社に32社参画

また横井氏によると、今回のアネロテック社との共同開発による「ワンステップでの熱分解と触媒反応」を核とする新技術は、100%植物性ペットボトルの製造だけでなく、ポテトチップスの袋や洗剤の容器など、ペットボトル以外のプラスチック製品の循環型リサイクルシステムの構築をも可能にする「画期的な技術」であり、これを生かして使用済みプラスチックの再資源化に取り組むため、昨年6月、同社が中心になって新会社「アールプラスジャパン」を設立。現時点で32社が参画しているという。横井氏はそのアールプラスジャパンの社長でもあり、改めて「使用済みプラスチックに関わる世界的な課題解決に向け、日本のプラスチックのリサイクルに関わるバリューチェーン各社が結集し、サーキュラーエコノミーの実現を強力に押し進めていく所存だ」とする抱負が述べられた。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。