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世界の「プラスチック管理指数」初調査、ドイツが1位、日本は2位に

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プラスチック汚染に対する世界的な懸念の高まりを背景に、資源の最適な生産と活用の推進につなげることを目的とする世界25カ国を対象とした初めての調査で、ドイツが1位、日本は2位という結果が出た。調査は「科学的根拠を軸にした海洋課題の解決」を目指す国際的な海洋環境イニシアティブ「Back to Blue(バック・トゥ・ブルー)」が実施。各国のプラスチックのライフサイクル全体を視野に入れた取り組みを、政策や規制、企業や消費者の行動や価値観といった観点から国ごとに評価し、プラスチック管理指数として測定・比較検証したものだ。全体として欧州がプラスチック管理の取り組みでリードする一方、世界のプラスチック生産量の半分を占めるアジアは遅れをとっていることが明らかになった。またプラスチック汚染対策に取り組む上で、国民の健康度や幸福度、教育水準や平等度が取り組みに大きな影響を与える、という見方も示されている。(廣末智子)

「Back to Blue」は、英国で経済誌『エコノミスト』を発行するエコノミスト・グループが企業や財団、NGOなどとの協働で社会変革を目指す枠組として設立した「エコノミスト・インパクト」と日本財団とが今年3月、共同で創設。“各国がプラスチックにどのように対処しているかを測るための新しいベンチマーク”としてプラスチック管理指数(Plastics Management Index、PMI)を作成し、5大陸の25カ国を対象に、対象国の法律や規制などを評価する「ガバナンス」と、廃プラスチックの分別・リサイクル体制などを評価する「管理・運営能力」、民間セクターや消費者の取り組みを評価する「ステークホルダーの関与」の3側面からなる12の指標と44のサブ指標に基づいて総合スコアをランク付けした。

調査はエコノミスト・インパクトによる企業(57%が年間収益1000万〜2.5億ドル=約11億〜275億円=で、3分の2がアジア太平洋地域・欧州を拠点とする)の役員768人を対象とするアンケート調査と、消費者向けアンケート調査(1800人の回答者のうち33%はアジア太平洋地域、38%はアフリカ・中東・南米、25%は欧州、4%が米国)の二つを基に行われ、その分析結果をエコノミスト・インパクトが『プラスチックの効果的管理と持続可能な利用に向けたビジョン』と題する報告書にまとめた。

エコノミスト・インパクトは、シンクタンクの厳格さとメディアの創造性とを兼ね備え、エビデンスに基づく洞察による議論を深めて視野を広げ、世界の進歩を加速させようとする枠組みであり、報告書は「科学的根拠に基づく海洋環境管理を目指す『国連海洋科学の10年』が始まる2021年に発表するのにふさわしい内容」になったという。

調査の対象国はアルゼンチン、エジプト、インド、マレーシア、スウェーデン、オーストラリア、フィンランド、インドネシア、メキシコ、タイ、ブラジル、フランス、日本、ナイジェリア、英国、チリ、ドイツ、ヨルダン、ロシア、米国、中国、ガーナ、ケニア、南アフリカ、ベトナムの25カ国(対GDP比、人口、所得水準といった項目で、地域ごとのバランスも考慮して選別)。

1位のドイツ、政府と産業界の協定による効果的なリサイクルプログラムが存在

報告書によると、総合ランキングの上位3位は、ドイツ、日本、フランスとなり、英・米・スウェーデンがこれに続いた。1位のドイツは、100ポイント中87.4ポイントの高スコアを獲得。「ガバナンス」と「ステークホルダーの関与」で1位、「管理・運営能力」でも3位となった。

その第一の要因としては、政府と産業界との協定による効果的なリサイクルプログラムの存在を挙げ、「トップダウンで法を整備し、取り組みを義務化するのでなく、規制的枠組みの範囲で現実的な方策を打ち出すことで、産業界の自主的な取り組みを促す有効なアプローチとなった」と解説。また同国が海洋ごみ削減に向けたG20・G7の計画策定に主導的な役割を果たすなど国際的にも強いリーダーシップを発揮していること、さらに企業と政府、NGOに哲学者やアーティストらが参画する「海洋ごみ円卓会議」を立ち上げ、政策に反映させるなど、ステークホルダーの多様性を重視するアプローチが評価につながった。

もっとも同国の取り組みにも改善の余地があり、例えば「管理・運営能力」の重要な指標である“廃プラスチックの収集・分別体制”ではランクが12位と低迷している。

欧州は「プラスチック汚染問題に関する知識・ノウハウの一大拠点」

総合ランキングの上位には欧州の国が多く見られるが、その背景として考えられるのは、ほとんどが高所得国であること、欧州連合(EU)が積極的に取り組みを進めていること、また「プラスチック汚染問題に関する知識・ノウハウの一大拠点」として、イノベーションや哲学・社会問題・ジェンダーなどさまざまな側面からの研究開発が加速していることを挙げている。

さらに、プラスチック製品に含まれる化学物質や健康被害の潜在的対象者といった情報を積極的に開示するEUの姿勢が強みとなっており、例えば2008年に発効した「海洋戦略枠組み指令」と「水枠組み指令」は域内諸国に海洋・淡水環境中のプラスチック・化学物質汚染などが人体に及ぼす影響の監視を義務付けているなど、「法規制の対象とすべきプラスチックについて、これだけ包括的に監視を行い、対策へとつなげている国・地域はほかにない」という。

日本は総合2位も、政府の取り組みを前向きに捉える消費者少なく 「企業行動の領域に課題」も

総合ランキングで2位になった日本は、100ポイント中84.5ポイントを獲得。「ガバナンス」と「管理・運営能力」でも2位、「ステークホルダーの関与」は3位だった。「ガバナンス」の中の“効果的運営の推進要因”の指標が7位と振るわなかったほか、ドイツと同様、「管理・運営能力」の“廃プラスチックの収集・分別体制”でも7位となったことが、総合スコアに影響した。

また「ステークホルダーの関与」では、“責任ある消費者行動と意識”に関する指標が24位と低迷。報告書は、2022年4月に施行される「プラスチック資源循環促進法」については触れていないものの、政府の取り組みを前向きに捉える消費者は15%と、対象国の中で最も低かったほか、“廃プラスチックの削減と責任あるプラスチック使用に対する民間セクターの取り組み”の指標も16位と下位で、「企業行動の領域に課題がみられる」としている。

一方、アジア太平洋地域の8カ国は、2位の日本と20位のインドを除いて、ランキング中位を占め、ラテンアメリカの4カ国(チリ・ブラジル・アルゼンチン・メキシコ)は中位から下位を、また最も総合スコアが低かったのは中東・アフリカ諸国で、6カ国のうち4カ国(エジプト・ケニア・ヨルダン・ナイジェリア)が最下位グループを占めた。なお今回の調査で、北米唯一の対象国となった米国は「ガバナンス」と「管理・運営能力」で高スコアを獲得する一方、「ステークホルダーの関与」が振るわず、総合では5位となっている。

生産の約半分はアジアの一方、使用・廃棄国の多くは米・欧の先進国

また報告書は、世界各国のプラスチック生産量と廃プラスチックの排出量にも触れ、コロナ禍で2020年の世界のプラスチック生産量は0.3%減少(3億6700万トン)したものの、これは一時的な現象で、世界の生産量は毎年増加の一途をたどっていると指摘。このうち約半分が生産されるアジアが最大の汚染源となっており、中でも2019年時点で全体の31%を生産する中国が世界最大の生産国となっている。

一方、生産面ではアジアの存在感が際立つものの、使用・廃棄国として大きな割合を占めるのは先進国であり、米国とEU諸国で発生する廃プラスチックは、インド、中国、ブラジルの量を上回っていることも併記した。

最大の生産国、中国は10位に 西側諸国の廃プラスチック受け入れ停止が奏功か

総合ランキングでトップ10入りを果たした中国は、高所得国以外で最も高いスコア(63ポイント)を獲得した国であり、特に「管理・運営能力」では8位につけた。この背景には、同国が近年打ち出した幾つかの政策があるとし、その最も重要なこととして、「西側諸国からの廃プラスチック受け入れを停止したこと」を指摘。「この決定は世界にとって良い意味でのショック療法となった。その影響は色濃く、この禁輸措置により、米国・オーストラリア・日本など多くの国が廃プラスチック処理の責任を転嫁し、付加価値を生む管理体制の構築を怠ってきたことが浮き彫りになった」としている。

国民の健康度・幸福度・教育水準・平等度がプラスチック汚染対策に大きく影響

また総合スコアで最下位となったヨルダンとナイジェリアは、対象国の中で唯一、“責任ある消費者の行動・意識”の指標が0だった。この要因には、プラスチック管理の認知度向上(特に再生プラスチックが環境にもたらすメリット)に向けた政府の取り組みと、学校での教育プログラムが行われていないことが考えられるほか、ナイジェリアではプラスチック汚染問題へのメディアの関心が低いことも深刻な問題だという。

こうしたことからも報告書は、各国の総合スコアと、国連開発計画が各国の社会の豊かさや進捗の度合いを図る包括的な経済社会指標として設定した「人間開発指数」や識字率には高い正の相関が、またジェンダー不平等指数との間には高い負の相関が見られ、「国民の健康度・幸福度・教育水準・平等度が、プラスチック汚染対策に大きな影響を与えることは明らかだ」と指摘。一方で、対象国の中で最も経済力の高い米国は5位で、低中位所得国のベトナムが中国以外の高中位所得国を上回って11位に、ガーナも15位になるなど、「国民1人当たりのGDPが取り組みの制約になるとは限らない」とも言及している。

今回のPMI調査の結果について、エコノミスト・インパクトのシニア・エディターを務める近藤奈香氏は「レジ袋禁止のような断片的なアプローチではなく、プラスチックをライフサイクル全体で管理する必要性と関心が世界的に高まっている。まだまだ苦戦を強いられている国も少なくないが、その指標には希望の光が差し込んでいると感じられる面もある一方、良い結果が得られた国々においても問題への対処が十分とは言えない」とコメント。

また日本財団の笹川陽平会長は、「世界がこれまで歩んできたプラスチックの方針は明らかに持続不可能なものであり、プラスチックの漏出はすでに計り知れないダメージを海に与えている。この驚くべき規模の課題にはプラスチックの複雑なライフサイクルのあらゆる要素に対応できるような、効果的で総合的な解決策が早急に必要だ。このPMI報告書が、世界的な状況を明確にし、プラスチックをより効果的且つ責任を持って管理するためにはどういった道筋を取るべきかを明らかにしてくれるものと期待している」と話している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。