サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

神戸市で16社参画、詰め替えパックをリサイクルする実証実験スタート

  • Twitter
  • Facebook
gyro

洗剤やシャンプーなどの日用品の詰め替えパックを分別回収し、詰め替えパックから詰め替えパックへと水平リサイクルすることを目指すプロジェクトが10月から、神戸市でスタートする。循環型社会の構築に向け、神戸市と小売・日用品メーカー・リサイクラー(再資源化事業者)など16社が協働し、市民の協力を得て行う全国に先駆けた取り組み。生活協同組合コープこうべやダイエー、花王、P&G、ユニリーバなどが参画する。日用品の詰め替えパックは、メーカーごとにさまざまな特性を持つ多層構造のフィルムによってつくられているためリサイクルが難しいのが現状だが、全国最大規模となる年間5トンを目標にすべてのメーカーの詰め替えパックを集め、参加企業間でノウハウを共有しながら、高度な技術開発による実証実験を行う。2023年には実際に詰め替えパックとしての再製品化を実現させ、市内の小売店での販売につなげる計画だ。(廣末智子)

「神戸プラスチックネクスト〜みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル〜」。プロジェクトチームの現時点での参画メンバーは、神戸市と、ウエルシア薬局、コープこうべ、光洋、ダイエーの小売り4社、アース製薬、花王、牛乳石鹸、コーセー、小林製薬、サラヤ、P&Gジャパン、ミルポン、ユニリーバ・ジャパン、ライオンのメーカー10社、アミタ、大栄環境のリサイクラー2社となっている。

回収の対象は、すべてのメーカーのシャンブーや洗剤(衣類・台所・住まい)の空になった詰め替えパック。水を入れて洗浄し、よく乾かしてから、神戸市内75カ所に設置した専用の回収ボックスまで持ってきてもらう。回収に協力した市民には神戸市が運営する「KOBEエコアクション応援アプリ」を通じて1枚につき50ポイント(5円相当)が還元される。

回収された詰め替えパックは、収集の効率化と環境負荷低減の観点から、店舗への商品の配送戻り便などを活用して大栄環境グループの六甲リサイクルセンターに集約。メーカーごとに選別した後、花王和歌山工場のパイロットプラントで再製品化に向けた研究開発を行う。ここで得られた課題や技術を各メーカーと共有し、水平リサイクルの実用化のめどが確立した後には、各メーカーは市内店舗での実証販売へとつなげる流れを想定している。

神戸市とNPOが旗振り役 神戸に “協同の絆”があることも実施理由に

同市などによると、シャンプーなどの詰め替えパックは、本体ボトルに比べ、プラスチック使用量が70〜80%少なく、日用品全体に占める詰め替えパックの販売シェアは約80%に達している。その一方、内容物を温度や湿度、紫外線などから薄いフィルムで守るため、多層構造となっていることから、廃プラスチックを原料としてプラスチック製品に再生するマテリアルリサイクル自体が困難であるのが現状だ。

このため水平リサイクルを実現することは業界の課題であるものの、ボリュームのある使用済み製品の回収と、膨大な研究開発費を必要とすることから、1社単独では難しい。そこで神戸大学発の環境NPO法人「ごみじゃぱん」と神戸市が旗振り役となって、業種やライバル関係を超えて水平リサイクルに挑戦する今回の枠組みが生まれた。神戸がこれを先導する理由は、海洋プラスチック問題に積極的に取り組む市民が多いことと、店頭でトレーなどを回収する実績があること、また数々の災害を経験し“協同の絆”があることの3つがあるという。

29日に神戸市で開かれた記者会見には久元喜造神戸市長をはじめ、全参画企業から代表が参加。冒頭、久元市長が「国際港湾都市である神戸は、海を怖れながらも海の恵みを受けとり発展してきた海洋都市でもあり、国際的にも非常に大きな問題になっている海洋プラスチック問題に真正面から向き合わなければいけない。この一つの大きな実験を成功させ、神戸から水平リサイクルのモデルを構築していくことができれば」と挨拶した。

神戸大名誉教授「循環型社会移行の強力なドライバーになる」

続いてごみじゃぱん代表理事の石川雅紀・神戸大名誉教授が、プロジェクトの意義について、「消費者自らに、持続可能な社会の一員であると自覚してもらうことにつながる」と強調。水平リサイクルを実現することは、環境面でも経済面でもプラスになり、研究開発を進める上では「あるいは最初の製品そのものの設計を変えた方が楽だということになるかもしれないが、それはメーカーが考えること。そこに強い動機が生まれる」などと語った上で、「生産者責任の自主的拡大であり、循環型社会への移行の強力なドライバーになる。企業にとっては、循環型社会に移行していく上での大きなビジネスチャンスに対する投資だ」と総括した。

花王「世界の目から見て、ゲームチェンジャーになる可能性ある」

この後、各企業の代表者がそれぞれに事業への参画を決めた背景や目標について説明。花王のデイブ・マンツ執行役員は「社会のサステナビリティを考えたとき、資源循環は欠かせず、私たちはプラスチックともっとうまく付き合い、活用していく方法を生み出していかなければいけない。フィルム容器の欠点はリサイクルが難しいことだが、花王はなんとか新技術を開発し、今回の取り組みを通じて同業のみなさんと一緒に獲得していく技術をなるべく多くの企業と共有していきたいと考えている。協働によって成し遂げられることは膨大で、経済社会を変革することもできる。神戸に始まったモデルが世界の目から見たとき一つのゲームチェンジャーになる可能性があるのではないか」などと話した。

同社の技術開発者によると、詰め替え容器から詰め替え容器へと水平リサイクルしたフィルム容器は、今回、回収容器が運ばれる花王和歌山工場のパイロットプラントで開発中。ライオンとの協働などを通じてすでにプロトタイプとなるものはできているが、内容物への影響などを検証するのにあと2年ほどかかる見込みで、今回のプロジェクトを通じ「2023年には製品化したい」とする見通しを示した。また同社は2015年から、使い終えた詰め替えパックに新たな価値を創出する“リサイクリエーション”の活動として、地域で回収した詰め替えパックを“おかえりブロック”と名付けたブロックに再生しており、今回のプロジェクトの中でも同ブロックを活用した街づくりを推進する。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。