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ポストコロナに求められるイベントのサステナビリティーーSB国際会議特別プログラム

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サステナブル・ブランド国際会議2021横浜基調講演の様子

トンネルの先に希望の光は見えている。この2年近く、そう強く信じて、コロナ禍でのビジネスを模索し続けている業界は少なくない。企業等のMeeting(会議)とIncentive Travel(研修旅行)、Convention(国際会議・学会)、Exhibition/Event(展示会・イベント)の4つの頭文字から「MICE(マイス)」と呼ばれる各種のビジネスイベント等を請け負う業界もその最たるものの一つだ。ウィズコロナの時代、MICEの誘致やイベントの請負に際してはサステナビリティやSDGsを組み込むことへのニーズがより一層高まっている。さらにポストコロナを見据え、オンラインイベントにはない、リアルなイベントだからこそ生み出せる価値をつくっていくにはどうすれば良いのか――。今年2月に開催されたサステナブル・ブランド国際会議2021横浜で、昨年に引き続いて行われたMICEの関係者ら限定の特別プログラムである「Sustainable Event Professional Forum 2021(サステナブル・イベント・プロフェッショナル・フォーラム2021)」の内容を振り返る。(廣末智子)

イベントの未来が前向きであることの4つの理由

2020年のサステナブル・ブランド国際会議に登壇したペラムCEO

はじめに英Positive Impact Events(ポジティブ・インパクト・イベント、以下P.I.E.)のフィオナ・ペラムCEOが「ポストコロナ時代における世界のイベント潮流」と題して基調講演。昨年に引き続いて登壇したペラム氏は2005年、サステナブルなイベント運営を世界的に促進するP.I.E.を設立し、国際機関や企業と連携するほか、イベントの持続可能性に関するマネジメントシステムの国際規格や、イベントのサステナビリティ報告書などの立ち上げに関わってきた人物だ。

ペラム氏はまず、「今、世界が直面しているのはコロナ危機だけではなく、コロナが収束したとしても、平等、経済、気候などの課題がある」と強調。そして「すぐに2019年以前の状態に戻ることはできないし、それを本当に望むのか再考してほしい」とした。その証拠として、2019年にP.I.E.のチームが企業のサステナビリティ報告書を見直し、自社のイベントに言及しているところがあるかを調査したところ、どの大企業も言及していなかったのに対し、2020年1月に同じ調査を行うと、イベントで発生したカーボンフットプリントを削減するため、より多くの企業がオンラインでイベントを行うことが分かったと報告。注目すべきはこの調査がコロナ禍以前に行われたものであり、「オンラインでのやりとりに慣れてきた今なら、世界のイベントへの考えはさらに変わっていると想像できる」と語った。

もっとも「イベントの未来は前向きである」と言い、その理由として、イベント業界に、「イベントの役割について新たな物語(ナラティブ)を創造する」「能力を構築する(キャパシティ・ビルディング)」「イノベーションを大きく促進する」「リーダーシップを発揮する」の4つの機会があることを挙げた。

このうち1つ目の「新たな物語」とは、イベントが行われるたび、人々が性別や年齢、障がい、人種などに関係なく参加し、インクルージョンを可能にすることで、業界の注目度が高まり、政府や企業が平等・公正という大きな課題に取り組むため、イベントを手段として利用するようになることである。2つ目の「キャパシティ・ビルディング」とは、イベントの専門家が気候変動などについてもトレーニングを受けることでカーボンフットプリントを理解し、イベントによって排出された二酸化炭素を減らすための措置を取ることもできるようになることで、SDGsに取り組んでいる世界のリーダーやビジネスリーダーと同じレベルになることができることを指す。

またイノベーションについてペラム氏は、2020年にP.I.E.のチームが企業のイベント担当者を招いて行った、バーチャルに人と人とのつながりを構築する方法を探る実験の結果をもとに、「コロナ禍以前に、専門家に『対面ではないイベントで人間関係を構築することが可能か』と尋ねたとしたら、大多数の人が『不可能』と答えただろうが、今はそうではない」とし、業界全体でイノベーションが速いペースで続いており、「これまで不可能だと思われていた方法で人々が絆を築き、協力し合うことが実証されている」と指摘した。

また英国のイベント業界ではCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)に向け、業界の二酸化炭素削減の目標や枠組みを設定することで、リーダーシップを発揮している。それ以外にも、イベント業界は「SDGsを共通言語として使用できるようになればなるほど、グローバルなビジネスレベルや各国の政府レベルでの会話に参加でき、リーダーシップを発揮できる」というのがペラム氏の見解だ。

対面でもバーチャルでも、人と人とのつながりや交流は、SDGs達成に不可欠

このように、人と人とのつながりや交流は、SDGsの17の目標を達成するのに不可欠であり、「対面で集まっても、バーチャルで集まっても、イベントを通じ、SDGsを推進することができる」とペラム氏は強調。また英国の国連児童基金(UNICEF UK)により、イベントを企画する際に人権、中でも子どもの権利に配慮するためのガイドラインが策定されたことについても触れ、人権について意識を深める上でもイベントはリーダーシップを発揮することができる、と指摘。最後に今年、P.I.E.のチームが、サステナブルなイベントを創出するために世界中の誰もが参加できる「パーティシペイト(Participate)」というキャンペーンを展開していることを紹介し、「ポストコロナ時代はイベント業界にとって、大きな可能性を秘めた世界であり、P.I.E.のチームと一緒に、イベントが世界にもたらす機会を最大限に活用してくれることを期待している」と締めくくった。

日本製紙・金子氏 「BtoB企業にとってはMICEで訴求することが重要」

この後、日本製紙の新素材営業本部パッケージング・コミュニケーションセンター長の金子知生氏が、「サステナビリティに向き合う会社がMICEに求めること」と題して基調講演に立ち、「悪い行いをする者が世界を滅ぼすのではない。それを見ていながら何もしない者たちが滅ぼすのだ」とするアインシュタインの言葉を最初に紹介。SDGs、ESGと企業との関係がきってもきれないものとなっていった経緯を説明する中で、それらを経営の中核に据えている企業やブランドほど消費者から支持され、危機の中でも体力があることをさまざまなデータを用いて示した。

またWEB時代の消費行動が「AISAS(アイサス、Attention=認知、Interest=興味、Search=検索、Action=行動、Share=共有)」の言葉で表されるのに対し、エシカル消費を重視する消費行動は、消費者が自らのBelief=信念に照らし合わせて購買行動を決める傾向が強いことから、「私たちメーカーやサービスを提供する会社はこの信念に応えるための情報発信が必要になる」と説明。このように、ESG投資の観点からだけでなく、製品やサービスを購入・選択する際にもSDGsが示す社会的課題への取り組み評価が基準となる時代にあって、日本製紙のような紙パルプ産業は典型的なBtoB企業。企業から企業への企業間取引を行うBtoB企業にとっては、「基本的には(情報開示・広告宣伝手法は)MICEしかない。そのため、MICEなどで消費者に訴求していくことがとても重要だと考えている」と強調した。

MICEの中で開催頻度、認知向上期待度ともに高いのは展示会

ここから話は日本製紙を例とした「BtoB企業のコミュニケーション戦術」についてテーマが移り、はじめにMICEのポジションを開催頻度と認知向上期待度でマッピングした図表を提示。それによるといずれも低いのが「Meeting」で、理由は「誰を呼ぶか、集めきれるかという課題があるから」。次に開催頻度は少ないが、期待度は少し高いのが、「Convention/Conference」で、「参加の選択肢が非常に少ない一方で、今回のSB国際会議のように会議併設の展示スペースには非常に高い関心を持っている」とした。また4つの中では頻度も期待度も中程に「Incentive Travel」が位置し、これにはやはり、企業の収益環境に左右される面が大きいものの、「時代に合った手法があるんじゃないか、という意味で期待をしている」という。

そして開催頻度と認知向上期待度の2つとも高いのが、Exhibition で、合同展はやはり選択肢が多く、オンライン普及も追い風になっていること、また自社が主催して展示会をやるというプライベート展も選択肢の一つになることから、このポジションになったという説明がなされた。

講演では続けて金子氏が国内外の展示場で発見したデザイン事例を数多く紹介。そこでのサステナビリティの表現方法について、「グリーンばかりではグリーンウォッシュと思われるので避けた方が良い」など、どんな言葉や色を使うのが適しているのか、鍵になるビジュアルの新たな手法を常に探し続けることの大切さが強調された。

サステナビリティという同じ志と異なる経営資源を持つ企業が出会える場の創出を

そして、日本製紙が2年に一度出展しているという国際包装展「TOKYO PACK」で、2016年から紙を使ってSDGsへの取り組みを表現するような作品をアーティストとのコラボで製作し、キービジュアルとして集客に力を入れてきた経緯を紹介。2021年はコロナ禍で来場者数減は避けられないことから、TOKYO PACKのリアルな展示と、特設ウェブサイトの開設によるオンライン展示、さらに自社主催のプライベート展とを組み合わせることで、情報提供の手段を確保する方法に変えた。

表現方法としては、紙によるイノベーションを“紙ノベーション!紙でできる未来(あした)がはじまる”とするコピーと、サステナビリティを海とクジラで表現するタグラインとロゴで、海洋プラスチックごみ問題や生物多様性の保全など、紙がSDGs達成に貢献することを想起させるイメージを訴求。リアル展の造作や什器は99%以上リユース・リサイクルされるエコデザインとし、ここでもサステナビリティにこだわった。什器に使用した紙には土壌生分解性があり、再生可能な原料を使っているという。

これらを通して、金子氏は、「企業はMICEでのPRに際し、製品やサービスだけでなく、自社のSDGs対応なども併せて訴求することで差別化を図ろうとしている」「企業は、サステナブルな取り組みを適切且つ効果的に表現する手法を持つ企画・ベンダー企業を探している」と明言。さらにMICEの活用について、「サステナビリティという同じ志と異なる経営資源を持つ、官学を含む企業が出会える場を創出してほしい」とする期待を述べ、講演を終えた。

SB2021横浜から見えてきたこと セレスポ・博展担当者が報告

犬塚氏
白川氏

ここから会議は、「SB横浜 サステナビリティ報告」へと続き、主催者のセレスポと博展が、2020年の経験を踏まえた2021年の取り組みについて総括。博展の白川陽一・制作本部プロダクトマネジメント部長は、「イベントが環境負荷の高い産業で、ものを作って壊して、電気もたくさん使っているというものであるとしたときに、ポストコロナにおいて要らないものになってしまわないかという危機感があった」と明かした。その上で、「この先、体験を通じたリアルなコミュニケーションを未来の社会に必要なものとして残していくため」にも、この「Sustainable Event Professional Forum」を業界のSDGs推進のモデルケースとして位置付け、取り組んでいることをあらためて説明した。

2020年の国際会議は東京観光財団の策定による「TOKYO MICE サステナビリティガイドライン」に沿ってイベントの会場計画や運営計画を設計し、「空間装飾へのリユース素材の活用」や「分かりやすいごみの分別表記」「エコカーによる輸送」など50項目以上に取り組んだ。

その結果、社内外でサステナビリティやSDGsへの関心が高まり、推進体制が強化されるなどの効果があったほか、リサイクル可能な素材に変えたところ、素材が軽くなったり組み立てが容易にできたりと、労働環境の改善につながる気づきがあったという。その一方で、実際どのような工程でリサイクルされているのかを知るトレーサビリティの確立の観点から、産廃処理パートナーとの連携不足があり、正確なことを伝える必要性を感じたため、2021年の開催にあたっては、社内のプロジェクトチームで木廃材をマンションの床材に使われるパーティクルボードへとリサイクルしている中間処理業者の施設を視察に行くなど、リサイクルの透明性や確実性を向上させた。

これらを踏まえ、2021年のSB国際会議でのプラスチック削減などに努めた実践事例が多数紹介された。今後は2030年までにどういう状態を目指すのかといった具体的な計画やロードマップの作成を通じて確実なサステナビリティの推進やパートナーシップの拡大につなげる考えという。

会議のサステナビリティ実践に向けた助言や改善提案などを行ってきた、セレスポの犬塚圭介・サステナブルイベント研究所所長は、「SB国際会議2021横浜」から見えてきたこととしてパートナーシップの重要性などを挙げた。今後はより多くのステークホルダーを巻き込んでいくためにも、日ごろから自社をサステナビリティの観点で見直し、互いに共有する機会を設けるなど、「大きなテーマであるSDGs、サステナビリティだからこそ『強み・得意技』や『個性』を合わせて取り組むことが必要になる。まずは対話から始めることが重要ではないか」と提言した。

「新しいストーリーの生まれるリアルイベントを」 役割探るパネル議論

右上から時計まわりに、金子氏、越川氏、白川氏、佐藤氏

会議は最後に、「イベント・MICEにおけるSDGs推進 各ステークホルダーの果たす役割」と題したパネルセッションが行われ、セレスポの越川延明・人事総務副部長兼コーポレートデザイン室長をファシリテーターに、日本製紙の金子氏と、会場であるパシフィコ横浜の佐藤利幸・営業運営部営業課長、博展の白川氏が意見交換した。

SDGsを達成するためにイベントを活用していくべき理由について、金子氏は「SDGsの一つひとつの物語を丁寧に語る。それを上手に表現するためにイベント業界の皆さまの知恵や力を得ながら一緒にやっていければと思っている」、佐藤氏は「コロナ禍で実はオンラインでいろんなイベントができてしまうことが分かってしまった中で、やはり、われわれとしては、人と人がリアルにフェイスtoフェイスで出会うことによって知識や情報の交換が起こり、イノベーションにつながるような場を提供していきたい」、白川氏も「プロモーションやマーケティングなどの場面でリアルイベントが果たす役割は大きく、そういった期待に応えるためにもイベントをしっかりとサステナブルなものにしていくことが非常に大事」など、それぞれの立場から発言。

これを受け、越川氏も「やはりストーリーやメッセージをつくって形で見せるのはイベントが得意とするところなので、そういう面で頑張らないといけない。情報を交換するだけならオンラインで十分だということをまざまざと感じさせられた1年だったが、ストーリーというのは一方通行で伝えるものじゃなく、一緒につくっていくことも大事であり、そういう新しいストーリー、サブストーリーが生まれる会場づくりをしていきたい。そして2030年に向け、脱炭素社会の時代にフィットした企業、業界にしていかないといけない」と総括した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。