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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

経営陣が取り組むべき「ステークホルダーとのサステナビリティ・コミュニケーション」第2回SB-Japanフォーラム

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オンラインで登壇したネスレ日本の的場太氏

サステナブル・ブランド ジャパンは、法人会員コミュニティの2021年度プログラム「第2回SB-Japanフォーラム」を9月15日、オフライン(博展本社、東京・中央区)とオンラインを併用し、開催した。7月に行われた初回に続き、一般生活者全国9000人回答に基づく、企業のSDGs貢献に対するブランドイメージの調査である「JSBI」を特集。ケーススタディではゲストとしてネスレ日本を招き、JSBIによる実際の評価を紹介しながら、企業のサステナブル・アクション発信の在り方を議論した。(横田伸治)

冒頭では、サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサーを務める青木茂樹・駒澤大学経営学部市場戦略学科教授が、初回の振り返りとして「我々のユニークな点は、あくまで消費者からの評価に絞っていること」と、一般生活者からのアンケートに基づくJSBI算出方法の特徴を説明。「B to C企業の事業活動がアウトプットにとどまらず、どうアウトカムに繋げ、さらにソーシャルインパクトを生むかが大切」と、サステナビリティが購買行動に与える影響を具体的な指標で評価する意義を語った。

続いて、サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサーで、サンメッセ総合研究所代表の田中信康氏が登壇。同氏はSB Japanのコンサルティングファームであり、サステナビリティによる価値創造ストーリーの企画・立案に取り組む「SBJ-Lab」を紹介。価値創造ストーリーにおける「情報開示」については、企業がただ商品を売るのではなく、事業活動全体をデザインする必要に迫られている現状がある点で特に重視される。▽IR部門では投資家に企業の取り組みを伝える情報開示▽マーケティングでは事業・サービスの提供といったカスタマーへの情報開示▽HR部門では、「ここで働きたい」という従業員意識を生むための雇用者への情報開示――など、各ステークホルダーへのコミュニケーションをブラッシュアップしていくことは、本フォーラム全体を通しても重要なテーマとなった。

企業経営層のサステナビリティへの取り組みは国内でも本格化

前段の解説を踏まえ、「ステークホルダーコミュニケーション」と題されたセッションでは、田中氏が「産業構造自体が激変し、消費者の意識も変化している。企業経営は一言で言えばトランスフォーメーションしていかないといけない」と、既存チャネルの衰退およびECシフトの加速・在宅勤務の浸透・中高級市場の低迷などのトレンドを挙げながら、企業のサステナビリティをめぐる昨今の動きを紹介した。まず取り上げられたのは、日本の上場企業のうち、丸井グループや日本郵船をはじめ、約13%にあたる55社がESG/サステナビリティ―委員会を独自に設置する(2020年6月時点)など、企業経営陣が本格的にサステナビリティに取り組むようになったことだ。

東京証券取引所がまとめる「コーポレートガバナンス・コード」(CGコード)においても、2021年6月の改訂でサステナビリティが主要テーマとして組み込まれた。具体的には、ジェンダー、国際性、職歴、年齢などにおいて多様性のある人材を中核に配置すること、またサステナビリティに関する基本方針を策定して環境・社会問題に対処し、さらにステークホルダーと対話・開示すること、の2点が特に重視されたと田中氏は指摘する。

一方で、地球温暖化対策推進法、環境配慮促進法、女性活躍推進法など主法令を挙げながら「ESGに関する国内法令としては、ドラスティックに変わったわけではない。CGコードで大きな指針が示されたとはいえ、企業が本気で動き出すのはまさにこれからだ」と奮起に期待を寄せた。さらにより複雑化・長期化していく企業の情報開示とコミュニケーションにおけるポイントは、大きく次の5つであるという。

・長期ビジョンの開示
・ダブルマテリアリティによる重要要素の開示
・競争優位性に影響を与えるリスクと機会
・価値創造プロセス
・ビジネストランスフォーメーション――

これは中長期を見据えた際に企業が社会に与えられる影響を定め、適切に開示し、競争におけるリスクも検討した上で、ビジネスモデル自体が適合しているかどうかを判断していくプロセスだと解説した。

ESGをめぐるグローバルガイドラインについては、「非常にカオスな状況になっている」と評する。GRI、IRC、SASB、TCFDなど各種ガイドラインが乱立する中、ガイドライン同士がより多様なユーザーに向け、包括的な企業報告を目指し共同声明を発表するなど収れんしていく方向にあるという。

各種ガイドラインの動きが活発になり、サステナビリティによるビジネスインパクトが増す中で、サステナブル・アクションが企業経営にとっての機会であると同時にリスクともなったとも言い換えられる現状。田中氏は「当初はIR的評価とマーケティング的コミュニケーションは切り離されていたが、見て見ぬふりはできなくなってきた」と指摘する。経営者の積極的な関与が求められる中、存在感を増すのが、企業価値評価に活用する金融ESG評価、また生活者からのイメージを指標としたJSBIスコアの2つだ。

田中氏はセッションの締めとして、双方を比較分析。例えば、味の素は金融ESG評価・JSBI共に高スコアとなった一方で、日本コカ・コーラは金融ESG評価が高くJSBIスコアが低い結果となっている。つまり、本来JSBI上でも高スコアとなるような取り組みを打ち出している企業でも、消費者目線のイメージではギャップが生じていることが分かる。田中氏は両評価においてバランスが取れている状態が理想であるとして、セッション冒頭でも触れられた「ステークホルダーとのコミュニケーションをデザインすること」の重要性を改めて投げかけた。

JSBIをもとに課題を分析――ネスレ日本

オンラインで登壇したネスレ日本の嘉納未來氏

フォーラム後半では、ネスレ日本から嘉納未來・コーポレートアフェアーズ統括部長、的場太・コーポレートコミュニケーション室長を招き、実際に同社が受けたJSBI評価を参照しながらケーススタディを行った。

現在187か国で展開、社員数は計27万人を超えるネスレグループは1867年、栄養失調が社会問題となっていたスイスで乳幼児用乳製品の製造販売業として生まれて以来、CSVを事業活動の根幹と位置づける。現在は製品包装の脱プラスチック化や、コーヒーのカプセルごみ回収スキームを確立するなどの取り組みを打ち出し、金融ESG評価も高い。では、▽企業が行う個別のサステナブル・アクションへの評価(SDGs評価得点)▽消費者による企業全体へのイメージ(SDGs貢献イメージ得点)▽「この企業で働きたいと思う」「この企業に共感できる」など消費者とブランドの感情的つながりの評価(カスタマー・エンゲージメント)――から成るJSBIスコアではどうか?

まず、総合得点では180社中49位、また業種別ランキングでは21社中9位と全体に高い評価だ。しかしSDGs評価得点は同88位、業種別でも12位と「取り組みの内容を知っている立場からすれば、もっと高く評価されて良いはずの結果」(田中氏)。青木氏は「具体的な取り組みがまだ一般に認知されていないのでは」と指摘したが、嘉納氏は「これまではキットカットなどのブランド単位でのコミュニケーションが多かった。企業としての情報開示はまさに今取り組んでいるところなので、現状の評価としては思ったより高い」と前向きにとらえる。

評価得点のうち17項目別の評価を見ると、「飢餓」や「パートナーシップ」で高く、「教育」が低いといった傾向が見える。これについて嘉納氏は「日本国内では『コーヒーとチョコレートの会社』という認識が浸透しているので、教育のイメージは低いのでは。飢餓については、やはりグローバル企業であることを知っていただけているのかも」と分析した。

特徴的だったのは、回答者の内訳と評価の照合だ。他企業と比べても、ネスレ日本は男女別では男性、年齢別では50代以上の回答者による評価が高くなった。的場氏は「製品と接点が多い層から高く評価していただけたのかと考えると、50代以上の方はやはりコーヒーか。ただ、購入時にどのように企業の取り組みの情報を得てもらえているのかどうかが気になる」と、やや驚いた様子を見せた。

他方、SDGs貢献イメージ得点を見ると、全180社の中で13位、業種別でも21社中5位と非常に高い結果だ。回答者の内訳では、評価得点と同様に男性および50代からの得点が高くなった。田中氏は「外資系企業という点で、一般消費者からのイメージ評価では強い可能性がある」と分析。嘉納氏は「広報としてはSDGsコミュニケーションがまだまだ課題だが、この結果は非常にありがたい」と受け止める。

最後にカスタマー・エンゲージメント評価を業種平均と比較すると、「この企業を応援したい」との評価が突出して高い一方、「働き方改革に取り組んでいる」の項目では低くなっている。この点について的場氏は「コロナ以前からテレワークを推奨するなど先進的な働き方を導入しているが、まだまだ知られていないのかもしれない」。さらに「この企業は社会になくてはならない企業だ」との項目が低くなった結果についても、同社の主力製品が嗜好品としての印象が強い点を考慮しつつ、企業全体の事業内容の発信が課題であると受け止めた。

こうしたネスレ日本の事例を踏まえ、フォーラム終盤のグループワークでは「自分がネスレ日本のサステナビリティ・広報担当だったら、まずどのようなアクションを起こすか?」をテーマに、参加者らがSWOT分析を用いて同社の強み・弱みを抽出。同社での既存の取り組みを参考に、より消費者に価値創造ストーリーを届けるためのコミュニケーションを、具体的な施策として提案した。

主力製品の一つである栄養機能食品「ミロ」をマーケティング展開していくアイデアが多く出た中、的場氏は「ミロがこれほどサステナブルなアイテムとして注目を頂けることに驚いた」と評価。嘉納氏も、産婦人科医院や子ども食堂などでミロを配布し、ネスレ創業ストーリーを生かしながら食生活支援を行っていくという案について、「シングルマザーの家庭にもミロを届けていくことで、貧困などの社会問題に貢献しながらブランドのイメージを上げていける。とても良いアイデアを頂いた」とワークを締めくくった。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。