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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

JSBIを活用したサステナブル・ブランド戦略とは――2021年度 第1回SB-Jフォーラム

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サステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)は、法人会員コミュニティの2021年度プログラム初回となる「第1回SB-Japanフォーラム」を20日、博展(東京・中央)本社で開催した。一般生活者の企業に対するSDGs貢献のエンゲージメントを指標化したSB-Jの独自調査「JSBI」を活用し、企業はサステナブル・ブランド戦略をどのように組み立てることができるのか。フォーラムではYKK AP(東京・千代田)の実際のJSBI結果と分析を基に、参加者らによる戦略構築のグループワークを行った。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサーの青木茂樹氏

事例紹介、グループワークに先立ち、青木茂樹 サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサー/駒澤大学経営学部市場戦略学科教授がサステナブル・ブランディングの構図について解説を行った。青木氏は「(外部との)コミュニケーションに対して、社内の対応が構造的にバラバラになってはいないか」と参加者に投げかけた。

例えばマーケティング部門では、製品やブランドを顧客、株主、取引先に知ってもらうことに主眼を置いている。広報部門であれば、行政やNPO/NGO、地域住民などとのコミュニケーションを通しブランドを広報し、時にはクレームに対応する。それらの活動の中でサステナビリティがトレンドとなる一方で、生産管理のミスなどがあればブランドは一気に毀損する。

各部門に通貫するコンセプトや考え方、理念がないままにコミュニケーションを図ることは「何かちぐはぐだ」と青木氏は述べる。「中期経営計画でSDGsが取り上げられたが広告コミュニケーションはどうしたらいいのか」「製品の担当者は、ブランディングとかサステナビリティじゃ売れないと話す」「統合報告書を制作したが、広告宣伝になると対象が広いし伝わりにくい」「経営層から良いイメージを広めろと言われるが、言うは易し、やるのは大変だ」――。企業のさまざまな部門で悩みが尽きない原因には、構造的な問題がある。

この構造上の問題を解決するためにはパーパスが重要な役割が果たす、と青木氏は解説した。企業から一貫した発信を行い、顧客や従業員、投資家のエンゲージメントを獲得し、サプライヤーの力を引き出すためには、パーパスを中心としてコミュニケーションや事業を再設計することが必要だ。

欧州では、ISOやタクソノミーなど、さまざまなルールの策定を先導することによってパーパスを中心とした企業活動を半ば強制的に広げようとする動きがある。一方国内では、ルール策定について比較的消極的な面がある。むしろ市場を分析し読み解くことで、企業が自発的にサステナビリティを掲げパーパスを中心に据えて活動することが試みられている。そうすると、顧客や従業員が「なぜ企業がサステナビリティに取り組むのか」ということに対して納得感を得ることが一層求められる。企業側からは、外部環境にどういった動きがあるのかを十分に把握・分析し、その中でマネジメントとしてどういう事業をデザインするかが重要になるというわけだ。そこでJSBIが有効な指標として機能する。

企業活動と社会課題の解決を融合する上で大切なことは、外の声を聞くことだ。SDGsという切り口から、生活者が企業活動をどう評価・イメージしているかを指標化したJSBIは、企業が今後、どのようにライフスタイルや価値観を訴求するのか、社会の求める声に応えるのか、ストーリーを提示して持続可能な生活という体験を提供するのかを検討する上で大きな意味を持つ。

JSBIの要点は2つ。企業がSDGsに貢献しているかという獏とした生活者の持つイメージの得点と、SDGsの各項目に対する企業の行動への生活者への評価の得点だ。それぞれを偏差値として算出し、足したものが総合得点となる。

JSBI指標を基に自社の立ち位置、施策を分析する

YKK APのサステナビリティ推進部部長・三浦俊介氏

青木氏の解説に続き、窓やドアなどを扱うYKK APの実際のJSBI調査結果を基に、その分析・活用の事例が紹介された。ファスニング事業と並びYKKグループの中核を担う同社は、建築物の窓やドアといった開口部パーツを中心に、庭周りのエクステリア商品の他、素材として産業用アルミパーツの提供なども手掛けている。

同社のサステナビリティ推進部部長・三浦俊介氏 は「YKKグループの根底にあるのは『善の巡環』というYKK創業者の言葉。他人の利益を図らずして自らの繁栄はないという精神が従業員の行動指針として浸透している」と話す。事業活動の中で発明や創意工夫をこらし、常に新しい価値を創造することによって、事業の発展を図り、それがお得意様、お取引先の繁栄につながり社会貢献できるという考え方を「競争力の源泉」としていると説明した。

さらに同社は2021年、従業員と役員で新たなパーパス「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」を定めた。YKK精神「善の巡環」を引き継ぎながらも「新しいパーパスは、改めて『社会の幸せ』とは何か?といったことを社員一人ひとりが考える新たなスタート地点となっている」という。

社会課題解決につながる思いを持つYKK APだが、その企業活動は一般生活者の目にどのように映っているのか。JSBIの業種別(不動産・建設・住宅設備業界)ランキングでは、同社の総合得点は100.89点で8位。JSBIは100点を平均とする偏差値での算出のため、高得点と言える。また調査対象が一般生活者のため、エンドユーザーに近い企業、知名度の高い企業ほど上位になる傾向がある。三浦氏は「単に得点に注目するというより、ユーザーの皆様が何を評価してくださっていて、どこに自社の思いとのギャップがあるのか、自社の立ち位置を考慮して分析・検討することが重要だ」と見方を話した。

得点の内訳は、同社の場合SDGs評価得点が49.27点(業種別10位)、SDGs貢献イメージ得点が51.62点(業種別4位)だった。この結果について三浦氏は、研究・開発を最上流とする同社のBtoBのバリューチェーンではエンドユーザーとの接点が限られるため、前述のように得点が出にくいことを考慮しつつ、「SDGs評価得点が比較的低いということは、一般生活者に自社の事業領域が十分に伝わっていないということ。これから改善が見込める点だ」と課題を抽出する。

一方で、同社の主力事業の「窓」について、社会の中での注目度が大きく上がっているという。まず、脱炭素という側面で、建築物の省エネルギー化には「窓」の断熱が非常に大きな効果がある。また、気候変動という大きな課題に伴い、台風被害などのリスクが高い地域では特にシャッターの需要が高まっているなど、「窓」の機能が見直されている。

三浦氏はSDGs貢献イメージ得点が比較的高かった結果に触れつつ、2010年から一貫して猫を起用するYKK APのプロモーションを紹介。猫は家の中でも「快適な場所」を選んで過ごすことから、快適な「窓」と猫の親和性は高い。「窓の機能(断熱効果)」を専門的なエビデンスベースの数値で説明する従来のプロモーションに加え、外部との接点となる「窓」が果たす、快適性を高める機能を情緒的な側面から訴求することも重要な施策とした。今後は、前述のパーパスを軸としたコミュニケーションが、情緒面の訴求においても果たす役割が大きくなるという。さらにYKK APと他社事例との具体的比較などを加え、JSBIの指標を詳細に紹介。また回答者の性別や世代などさまざまな角度から、社会の課題感を分析した。

フォーラムではYKK APの事例を基に、グループワークを行い、参加者が「YKK APのJSBI(SDGs得点)を高めるための事業戦略、コミュニケーション戦略とは?」をテーマとして話しあった。参加者たちはまず同社のSWOTを分析。強みと弱みを明確にした上で、資料や既存施策をもとにサステナビリティへの事業ポートフォリオを想定。さらにサステナビリティへの3つの価値づくりとして、具体的な施策を提案した。