サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

キリン、スリランカの紅茶葉農園の認証取得を支援 来月から商品発売

  • Twitter
  • Facebook

キリンビバレッジは26日、同社初となる持続可能な農業認証「レインフォレスト・アライアンス認証」の茶葉を使った「午後の紅茶ストレートティー」の250ml紙パック製品を8月3日から発売すると発表した。同社は2013年から、紅茶の一大生産国であるスリランカの紅茶農園のレインフォレスト・アライアンス認証取得を継続的に支援しており、2020年末時点で、スリランカ全土で同認証を取得している紅茶葉大農園の約3割にあたる93の大農園と120の小農園がキリングループの支援によって同認証を取得するまでになったという。今後、スリランカにおける紅茶農園の持続可能な農業を引き続きサポートし、2025年までに1万園の認証取得を目指す。(廣末智子)

同社によると、今年で発売35周年となる「午後の紅茶シリーズ」は発売以来、収穫エリアによって独自の特長を持つスリランカ産の紅茶葉を使い続けてきた。世界の主な紅茶産地にはスリランカのほかインドやケニアなどがあるが、日本に輸入される紅茶葉の約50%はスリランカ産で、実にその約24%が、国内の紅茶飲料の中でもシェア1位を占める「午後の紅茶」シリーズに使用されているという。

スリランカの紅茶農園に対する責任

こうしたスリランカからの茶葉の供給量の大きさを背景に、同日、記者発表に臨んだ同社CSV戦略部の藤原啓一郎氏は、「われわれにはスリランカの紅茶農園に対して責任がある」と強調。「午後の紅茶」の品質を保ち、製造し続けるためにも、スリランカの紅茶農園を支援することは必要不可欠であるという考えから、同社は2013年に「キリングループ長期環境ビジョン」とともに策定した「持続可能な生物資源調達ガイドライン・行動計画」の中にスリランカの紅茶農園におけるレインフォレスト・アライアンス認証取得の支援を盛り込み、以来、継続して活動を行ってきた。

「レインフォレスト・アライアンス」とは、1987年に地球環境保全のため、特に熱帯雨林を維持することを目的に設立されたニューヨークを本部とする国際非営利団体(現在はアムステルダムにも本部がある)。製品や原料がその認証を受けるには、それらが持続可能性の3つの柱である社会・経済・環境のすべてにおいて持続可能な手法を用いて生産されていることを、独立した第三者機関の審査員が独自の基準に照らして公平に審査し、保証する仕組みが取られている。農園に関しては「自然と作り手を守りながら、より持続可能な農法に取り組んでいる」と認められた農園のみ、同認証を取得することができる。

野生動物の保護や廃棄物、排水の処理など支援

藤原氏によると、同認証を取り入れることを決めた2013年当時のスリランカは、30年ほど続いた内戦が終わったばかりで、経済的にも非常に苦しい状況にあった。もっとも既にある程度の経済規模を持ったいくつかの大農園が認証を取得しており、そうした農園の「認証を受けた茶葉だけを選別して使用する」ことも可能だったが、それでは、「資金不足で持続可能な農業を目指せない農園を切り捨てることになってしまう」ことから、「時間はかかっても、スリランカの紅茶農園全体が持続可能になるための支援」をする方針を選択。またレインフォレスト・アライアンス側の提案で、最終的に認証を取得するための監査にかかる費用については各農園の負担とすることで、より認証の取得に対して積極的でやる気のある農園を支援する方向で取り組むこととなったという。

具体的には、農園とその周辺に生息する野生動物が共存するための保護活動や、環境に配慮した廃棄物や排水の処理、また集中豪雨などによる土壌流出防止策のほか、働く人々の健康を維持するため、身体についた農薬を洗い流すためのシャワールームを設置する費用などを支援。さらには農家が無農薬栽培に挑戦するための研修や、地域の保育園や幼稚園で子どもたちに環境の大切さを伝えるなど、認証取得に向けた「トレーニング」の名目で幅広い活動を行ってきた。

この間、レインフォレスト・アライアンスの事務局や現地のトレーナーに支援を任せきりにするのではなく、年に一度は藤原氏をはじめとするキリンの担当者が必ずスリランカを訪れ、各農園の状況を目で見て確認。同社のHPで紹介するとともに、農園の担当者とも対話を重ね、その都度、実情に応じた支援を続けてきた。コロナ禍により、キリンの担当者の現地訪問は2019年2月が最後となっているが、それ以降も事務局を通じて、現地の報告書をやり取りし、状況確認の質問を行うなどの対応を続けている。

2025年までに1万園の認証取得を目指す

この結果、活動開始から8年目となる2020年末時点で、同社の支援によりレインフォレスト・アライアンス認証を受けた紅茶葉大農園は93園までに拡大。この数字は、スリランカで同認証を取得している紅茶葉大農園の3割に当たり、取得農園の増加は各農園の収益増はもちろん賃金増にもつながっているほか、衛生環境の向上により、農園の住民の疾病率も低下しているという。2018年からは大農園の下に連なる、家族経営がほとんどの小農園についても支援を広げ、2020年末で120 園が認証を取得(小農園の監査費用については大農園がカバーしている)。さらに2000園が現在も認証取得に向けたトレーニングを実施しており、2025年までに1万園の認証取得を目指している。

「レインフォレスト・アライアンス」の日本事務局によると、日本企業による認証マーク付き商品の全体数については把握できないものの、ローソン全店のマチカフェで販売しているコーヒーが認証農園のコーヒー豆を使用しているほか、リプトンのティーバッグ製品が日本でもすべて認証茶葉を使用、またマクドナルドのコーヒーや生協の扱う紅茶やコーヒー、バナナなどに認証マークが付けられるなど、広がりを見せている。一方、キリンのように産地を支援する方式は国内企業ではほかになく、「画期的な取り組みと言える」としている。さらにキリンはこの活動を拡大し、2020年4月からベトナムのコーヒー農園でも同様の取り組みを進めている。

アニメーションCMを公開

こうしたスリランカの紅茶農園への支援活動の象徴として、同社は「午後の紅茶ストレートティー」の250ml紙パック製品を8月3日から、同社初の「レインフォレスト・アライアンス認証」のマークの付いた製品に順次切り替え、全国でリニューアル発売することを決定。同認証のマークは認定茶葉を90%以上使用することが条件とされていることから、同商品でも認定茶葉の使用は90%以上とした。これはストレートティーの味覚を担保するため、あえて認証茶葉だけで製造することを避けたもので、認証茶葉100%による「通常茶葉」と、認証茶葉ではない「粉砕した茶葉」を同時抽出する「マイクロ・ブリュー製法」を採用しているという。紙パックについてもFSC認証紙を使用する。

また商品をアピールするテレビCMに、スリランカの紅茶農園に生まれた少女の物語を描いたアニメーションを制作。紅茶農園の鮮やかな緑を背景に「スリランカから、世界に認められる質の高い茶葉を作りたい」という農家の思いを伝える内容で、今後、SNSとも連動させながら、消費者に、茶葉の生産者であるスリランカの農家の取り組みや、そうした農家に対する同社の感謝の思いを訴求していく考えだ。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。