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スズキとダイハツ、トヨタなどの商用車連合に参画 軽自動車のCASE加速へ

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トヨタ自動車とスズキ、ダイハツ工業の3社は21日、トヨタを中心とする電動化をはじめとした技術開発の枠組みにスズキとダイハツが加わり、軽自動車を通じたCASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化)を加速させ、商用車の物流効率化につなげると発表した。同日、共同記者会見を開いた3社の社長は、軽自動車について、「日本の道がつくった『国民車』であり、人々の暮らしと共に進化し続けてきたサステナブルなライフラインである」とする共通認識を示した。各社が連携・協業を深めることによって、小回りが効き、消費者の手に届きやすい価格という魅力をそのままに、軽自動車でも電動化や自動運転を促進し、新たなモビリティ社会に貢献することへの決意をそれぞれに語った。(廣末智子)

トヨタ、いすゞ、日野自動車の共同出資会社にスズキ、ダイハツも

トヨタは今年4月、いすゞ自動車、日野自動車と協働し、商用車の顧客である物流業界の環境負荷低減に向け、電気自動車(EV)や水素燃料による燃料電池車(FCV)などによる新たな輸送技術やサービスを開発する「Commercial Japan Partnership(CJP、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ)」プロジェクトを始動。これに伴いトヨタ80%、いすゞと日野のそれぞれ10%出資による共同出資会社を設立していた。今回、スズキとダイハツはこの出資会社にトヨタの保有株を10%ずつ譲り受ける形で加わり、いすゞ、日野とも連携してCJPの取り組みに参画する。

2社の参画によってCJPは、大型トラックの範ちゅうにとどまらず、軽トラックをはじめとする小型車に関連する技術開発に視野を広げ、主にコネクティッド基盤の構築と最先端の安全技術、良品廉価な電動化の3分野で協働。例えば、東京などの大都市を中心に、大型トラックから「ラストワンマイル」を担う軽の商用車まで、一気通貫でのデータ基盤を構築し、物流の効率化につなげる。具体的な事業としてはこれからだが、各社の得意分野を技術開発に生かすことで、生産者から消費者へと、新鮮なものを新鮮なうちにより早く届けることが可能となり、近い将来、倉庫のあり様なども変わる可能性があるという。

軽は日本の狭い道がつくった国民車

会見で、トヨタの豊田章男社長は、日本の自動車保有台数7800万台のうち、3100万台が「軽」であり、地方に限れば、そのシェアは50%を超えていると紹介。「日本の道路の85%は、『軽』のサイズだからこそスムーズに行き来ができる狭い道路です。まさに軽自動車は、日本の道がつくった『国民車』であり、人々の暮らしとともに進化し続けてきたプラクティカルでサステナブルな日本の『ライフライン』と言える」と続けた。そして「CASE革命やカーボンニュートラルという時代の要請が『軽』の世界にも大変革を迫っているが、どんなに時代が変わっても『軽』をなくしてはいけない、お客さまを置き去りにしてはいけない」と軽自動車に対する熱い思いを述べた。

スズキとダイハツについては、「60年以上にわたってこのライフラインを守り、けん引してきた」とし、中でも2社が農業や配送などを支える軽の商用車をつくり続けていることを「そこにあるのは使命感であり、お客さまのことをいちばんに考えるユーザー目線」と評価。そして、「これからのクルマはインフラとセットで考えることが不可欠」とした上で、「今まで以上に政府には政府の、民間には民間のリーダーシップが問われる。カーボンニュートラルは全国民、全産業が一緒になって取り組まなければ実現できない『みんなの課題』」と問題意識を投げ掛けるとともに、今回のプロジェクトに2社が参画することで、「商用に加えて、軽の軸でも協調の輪が広がり、多くの人が笑顔になる、もっといいモビリティ社会に一歩近づけると思う」と抱負を語った。

スズキ社長「お求めやすい価格でカーボンニュートラルに貢献する軽自動車を市場に送り出す」

一方、スズキの鈴木俊宏社長は「お求めやすい価格でカーボンニュートラルに貢献する軽自動車を市場に送り出すこと、お客さまの生活になくてはならない存在であり続けることがわれわれの使命です。しかし、この使命を実現しようとすると、単独では非常に難しい。社会全体で同じ目標に向かって取り組んでいかないと達成できません」とした上で、ダイハツと一緒に何かできることはないかと相談していた時に、トヨタから「一緒に日本のライフラインを守っていこう」とする呼び掛けがあったことを明かし、その理念、目的に共鳴してCJPへの参画を決めたと話した。

ダイハツ社長「大動脈から毛細血管までを一気通貫する、大きなシナジー生み出せると確信」

続いてダイハツの奥平総一郎社長は、日本の軽自動車の保有台数3100万台のうち約4割の800万台が軽商用車であり、「軽の保有は底堅く推移している上、軽商用車は法人のみならず、個人を含めて根強いニーズがある」と説明。「これだけ多くのお客さまにお使いいただいている軽において、カーボンニュートラルへの対応、CASE技術の普及を実現していくことは、われわれ軽メーカーの責務と考えている」とした。その上で、「商用のプロであるいすゞ、日野に、トヨタのCASE技術が加わり、そこに軽を支えてきたスズキ、ダイハツが参画することで、大動脈から毛細血管までをカバーする一気通貫の商用基盤や、先進技術と廉価なモノづくりの融合による軽にふさわしい電動化の実現など大きなシナジーが生み出せると確信している」とプロジェクトへの期待を述べた。CJPへの参画により、商業事業を起点に取り組みを進めることになるが、今後も軽メーカーとして、ライフラインである軽自動車が消費者にとって身近な存在であり続けるために、「小さく・軽く・安く」にこだわり続け、「この協業でそれを加速する」という。

軽サイズの小型EVを巡っては、日産と三菱、ホンダが開発を進めており、スズキは、まずは主力のインド市場において、2025年までに消費者負担で実質100万円台のEV車を開発・参入することを発表している。一方、ダイハツはトヨタの完全小会社、スズキはトヨタが約5%出資するなど、それぞれ提携関係にある。またトヨタと日産、ホンダ、三菱が充電サービス事業会社に共同出資するなどの動きもあり、脱炭素に向けて自動車業界の連携は今後も加速しそうだ。

軽自動車の歴史・文化の発展は、自動車業界の使命

軽自動車の歴史と文化を守り、発展させていくことは自動車業界の使命だという豊田社長。会見の中で、モリゾウ(レーシングドライバーとしての名前)として一番好きな軽自動車は、「2シーターミッドシップエンジンカー」(軽トラのこと)だと明かした。

また最後に、今年6月25日にスズキの代表取締役会長を退任し、相談役に就任した91歳の鈴木修氏への思いについて聞かれた豊田社長は、「この国に軽を生み、軽を育て、軽を発展させた、いわば、親父だというふうに思う」と愛情をもって表現。鈴木氏が退任時、「生きがいは仕事です。挑戦し続けることは人生であるということでもありますから、皆さんも仕事をし続けてください。バイバイ」という言葉を最後に、感謝で去ったことに触れ、「ここでの皆さんというのは、われわれもそうですし、550万人の自動車業界に関わる仲間たちへのメッセージだと思う。その親父に、いつの日か、今の現役たちがしっかり仕事をし、自動車業界のために、軽のためにいいことをしてくれた、ありがとう、と言わせたい」と述べ、あらためて軽自動車への、またその軽を引っ張って来た恩人への感謝を語った。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。