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1次産業の「2050年までに目指す姿」 政府が2020年度「食料・農業・農村白書」発表

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政府は25日の閣議で、2020年度の「食料・農業・農村白書」を公表した。「農林水産物・食品の輸出に向けた新たな戦略」や生産力向上と持続可能性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」など7分野をトピックスとして取り上げ、高齢化や後継者難による担い手不足が恒常化し、自然災害や感染症などさまざまなリスクにさらされる農業現場を持続可能なものにしていくための多岐にわたる支援策を提示。この中で、農林水産業のCO2(二酸化炭素)ゼロエミッション化の実現や、耕地面積に占める有機農業の面積を一気に拡大する野心的な目標を掲げ、日本の1次産業の「2050年までに目指す姿」についても国の方針を打ち出している。(廣末智子)

2020年度の食料自給率は前年度比1ポイント増の38% 低水準傾向変わらず

同白書は、食料・農業・農村基本法に基づき、政府が毎年国会に報告しているもの。主要データの一つであり、国内の食量消費がどの程度国産のもので賄えているのかを知る指標となる2020年度の食料自給率は、前年度比で1ポイント上昇の38%、生産額ベースでも前年と同じ66%だった。日本の食料自給率は、2000年代には40%前後で推移しており、今回もその傾向は変わらず。これについて白書は「新型コロナウイルス感染症の拡大などリスクが多様化している中で食料自給率の向上や食料安全保障の強化への期待はますます高まっている」としている。

牛肉、コメ製品など27品目を輸出重点品目に 日本の強み生かす

2020年度の「トピックス1」に位置付けているのは、「農林水産物・輸出の新たな戦略」。これは2020年12月に農林水産業・地域の活力創造本部において決定した「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」に基づくもので、日本の強みを最大限に生かし、海外で評価される輸出重点品目として、牛肉、果樹、コメ・パックご飯・米粉および米粉製品、ブリなど27品目を選定。これらを海外市場で求められる量や価格、品質、規格に合った状態で継続的に生産・販売する農林水産事業者を資金の供給や輸出産地の形成などにおいて重点的に支援する方針を示したものだ。日本の強みを守るための知的財産の流出防止対策の強化など、省庁の垣根を超え、政府一体となって輸出の障害を克服するという。

2050年までにCO2ゼロエミッション

またSDGsや脱炭素社会への対応が重視され、持続可能な食料システムの構築が急務であることから、「トピックス2」には、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するための「みどりの食料システム戦略」を設定している。同戦略は諸外国において持続的な生産・消費が活発化するとともにESG投資が拡大し、2020年5月にはEUが欧州グリーンディール政策の一環で、持続可能な食料システムの構築に向けて策定した「Farm to Fork戦略」を発表。これを国際ルールに反映させようとする動きが見られる中、同戦略は日本でも独自の検討を開始したものだ。EUは、2030年までに有害性の高い農薬の50%削減、肥料の使用の20%削減、家畜および養殖に使用する抗菌剤の販売の50%削減、農地面積に占める有機農業の割合を25%まで上昇、消費段階での一人当たりの食品ロスの50%減といった数値目標を定める。白書では、2021年3月の中間取りまとめ時点で示された「みどりの食料システム戦略」の基本的な考え方を紹介している。

それによると、革新的な技術の開発や生産体系を順次開発し、社会実装することにより、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化などの実現を図るとともに、同年までに化学農薬や化学肥料の使用量の低減、有機農業の取り組み面積の拡大、食品製造業の労働生産性の向上、持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現などを目指すこととしている。

耕地面積に占める有機農業の割合、2050年に25%

このうち、有機農業の取組面積については、世界的に見ても、有機食品市場が欧米を中心に2008年から2018年までの10年間で倍増しているのに呼応する形で同期間に倍増しており、例えば2018年の欧州における取組面積は1560万haにまで拡大したが、それでも欧州全体の耕地面積に占める割合は3.1%に過ぎない。それと同様に日本でも有機食品の市場規模が2009年の1300億円から2017年には1850億円と8年間で1.4倍になったのに比例して、取組面積も2010年度から2018年度にかけて4割拡大し、2.4万haに増えているが、全耕地面積に対する割合はわずか0.5%にとどまっている。これを「みどりの食料システム戦略」では2050年までに25%、100万haへと拡大する目標を掲げた。

もっとも有機農業の取り組みの拡大について国は、2020年4月に定めた「有機農業の推進に関する基本的な方針」の中で2030年までに6.3万haにまで拡大する方針を示していた。これを、そこから20年でさらに100万haにまで増やすのはかなり壮大な計画と思われるが、白書によると、農林水産省が生産面では人材育成や産地づくり、消費面では販売機会の多様化や消費者の理解の増進などを促進する。2020年度からは既に都道府県が有機農業指導員の育成や、有機農業に新たに取り組むための技術習得支援などを開始するなど、目標達成に向け、全国各地で有機農業の産地づくりが推進されているという。さらに、2020年9月には国産の有機食品を取り扱う小売事業者らの協力の下、国産有機食品の需要喚起を促すためのプラットフォームである「国産有機サポーターズ」も立ち上げるなど、食料システムを構成する農林漁業者・食品企業・消費者による行動変容を後押しすることで、目標を下支えする素地を形成していく考えだ。

また生産力の向上と持続性の両立に向けては、食料生産を支える肥料などの資材原料やエネルギーの調達を輸入に依存しているのが現状であることから、これらを国内で調達する割合を高めるため、営農型太陽光発電などによる地産地消型エネルギーマネジメントシステムの構築を推進する。さらに農業生産の担い手が年々高齢化、減少し、労働力不足など生産基盤の脆弱化が深刻な課題となっていることに対しては、スマート技術によるピンポイント農薬散布や小型除草ロボットといったAIなどの最先端技術を活用し、高い労働生産性と持続性を両立する生産体系への転換を促進。白書では、これらをアジア・モンスーン地域の持続的な食料システムのモデルとして打ち出し、2021年9月に予定されている国連食料システムサミットなどにおける国際ルールづくりに参画する方針を示している。

「みどりの食料システム戦略」の中で、日本の一次産業が「2050年までに目指す姿」として明記されているのは次の通り。

2050年までに目指す姿

・農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
・低リスク農薬への転換、総合的な病害虫管理体系の確立・普及に加え、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
・輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減
・耕地面積に占める有機農業の取引面積の割合を25%(100万ha)に拡大
・2030年までに食品製造業の労働生産性を最低3割向上
・2030年までに食品企業における持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現を目指す
・エリートツリー等を林業用苗木の9割以上に拡大
・ニホンウナギ、クロマグロ等の養殖において人口種苗比率100%を実現

またトピックス3〜7は「2019年度スマート農業実証プロジェクト」「農業・食関連産業でのデジタル変革の推進」「鳥インフルエンザ、豚熱への対応」「植物新品種の海外流出対策」「フードテックの現状」となっており、さまざまな先進事例とリスク対応の具体策などが示されている。このうち「フードテックの現状」の中では、日本における取組事例として代替肉や、健康・栄養に配慮した食品、人出不足に対応するロボット、昆虫を活用した環境負荷の低減に資する飼料・肥料の生産などの分野で、スタートアップ企業などが事業展開し、研究開発を進めていることが報告されている。国としても2020年10月に立ち上げた「フードテック官民協議会」の活動を通じて、「代替肉や、健康・栄養に配慮した食品、昆虫を活用した飼料・肥料の生産など日本の強みを生かしたフードテックの新たな市場創出を進めていく」としている。

今回の白書では、新型コロナウイルス感染症の影響について特集ページを設け、農業や食料消費への影響だけでなく、地方への関心や働き方に関する新たな動きにまで範囲を広げた詳細な調査結果を掲載している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。