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人生100年時代:がんとの共生に必要なのは、がんを正しく知り恐れ過ぎないこと

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右上から時計まわりに、中村氏、岡山氏、林氏、白水氏

人生100年時代。それは長く働き続けることでもある。しかしがんと診断されても、社会復帰して再び働き続けられるだろうか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、「人生100年時代、がんとの共生社会に向けて①:より長く働く時代、“がん”と “働く”の両立の方向性を探る」と題し、がん専門医やがん治療中の当事者達が集まり意見を交わした。そこで見えてきたのは、社会の「がんに対する誤ったイメージ」だった。(いからしひろき)

ファシリテーター:
岡山 慶子 朝日エル 会長、キャンサーリボンズ 副理事長
パネリスト:
中村 清吾 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門 教授、キャンサーリボンズ 理事長
白水 千穂 キャンサーリボンズ サバイバーボードメンバー
林 和彦 厚生労働省がん対策推進企業アクション アドバイザリーボードメンバー、神楽坂乳業 CEO

がんと診断された人のうち、34%が仕事を失っている現実

人生100年時代、それは「長く働く」ことでもある。しかし、がんなどの病気の治療と両立しながら、働き続けられるのだろうか。現在、がんと診断された勤務者の34%が仕事を失っているという。

がんと診断されても働き続けられる環境をつくるために、厚生労働省がん対策推進企業アクションのアドバイザリーボードメンバーとして活動しているのが聖マリアンナ医科大学客員教授の林和彦氏だ。がん対策推進企業アクションは、がん検診受診率の向上や両立支援など、職域でのがん対策の推進をサポートしており、加盟する推進パートナー企業は3500 社近く、総従業員数は789万人にのぼる。

中村清吾氏は昭和大学乳腺外科の教授で、NPO法人キャンサーリボンズの理事長である立場から、治療と仕事の両立を支援。治療の予定と仕事の予定、体調の変化などを管理するための『「がんと働く」リワークノート』を推奨している。そのキャンサーリボンズのサバイバーボードメンバーである白水千穂氏は、がんサバイバーとしての経験を語ってくれた。

白水千穂氏は2015年に虫垂がんを発症。手術は成功したものの、鼻にチューブを入れた状態で勤務先や親族、保険会社などへ連絡し、仕事の調整や治療費の工面など「人生で最も辛い2週間」を過ごしたという。

さらに復帰後しばらくして失職。生活と治療の両立という困難に直面する。しかしがん相談支援センターに相談したことで道がひらけた。

治療チームとも連携しながら社会復帰するが、職場でのコミュニケーション不足により心身に不調をきたし、退職してしまう。そうした経験を糧に、現在勤めている建設会社では、同僚に自らの病気や症状を伝え、仕事しやすい環境づくりを心がけているという。

白水氏は、「一人で解決できることは思いのほか少ない。相談することや頼ることは決して恥ずかしいことではないから、周りにいる医療や社会福祉のプロに伝えて欲しい」と、語りかけた。

必要なのは情報の共有と余裕のある職場環境

1.仕事との両立を可能にする治療法の進歩について

中村氏は、「副作用対策の薬」を挙げた。特に吐き気止めの薬が進歩しているという。しかし働きながら治療を受けるということは負担もあるので、その人を守る仕組みが必要不可欠だという。

さらに中村氏は、「医療者と企業の連携の重要性」を説いた。従業員の病気をよく理解し、ふさわしいポジションを与える必要があるからだ。その橋渡しとなるのが診断書であり、電子化されることが望ましいという。

2.がん患者が当たり前に働ける企業の制度や風土づくり

林氏は2020年、35年勤めた大学病院を辞めて起業した。がんと診断されても働きつづけられる企業のあり方を自ら体現しようと考えたからだ。林氏が立ち上げた「神楽坂乳業」という会社は、1日5時間勤務が標準。それなら治療との両立も可能になるし、子育てや介護をしている人も無理なく働ける。しかも時短でありながら国の平均賃金以上を支払うことを目標にしている。これはがん治療中の人のみならず、すべての人にやさしい働き方の参考になるだろう。

白水氏は、これまでさまざまな職場で働いてきたが、必要なのは情報だという。がん治療中の人と企業が、それぞれどのように“安心して働ける仕組みづくり”に取り組んでいるか、それをキャンサーリボンズとの関わりで知って「すごく心強いし、だからこそ自分がしてきたことを参考にしてもらえたら」と語った。

中村氏は、「働く環境にのりしろがないといけない」と述べた。現場に2人しかいなければ1人が休むだけで大変だが、3人いれば1人欠けても2人で乗り切れるからだ。そのためには人を多めに雇い、ITなども活用して、効率的に仕事を回すことだという。

3.がんサバイバーの発信について

白水氏は、「自分は意識して発信してきたわけではない。話してみると“わかる、わかる”と共感してくれる人がいたから話すようになった」という。やはり、だれでも遠慮なく自らの病気について語れる社会をつくることが急務だ。

林氏もそうした世の中の実現のためには「子どもへの啓発活動が有効」と説く。大人に比べて子どもたちの方が、がんという病気を“自分事”として考えられる思考の柔らかさがあるからだ。

「そうした子どもたちが10、20年後、大人になった時に社会は変わるのではないか」(林氏)

最後に「人生100年時代」というテーマについて、がんサバイバーである白水氏が「病気になってもならなくても、色々なライフイベントが起きる。しかしそれぞれに解決の糸口はある。それをがんの経験者として伝えていくことが、自分としてのサステナビリティだ」と力強く語ったのが印象的だった。

ファシリテーターを務めた岡山慶子氏の「持続可能な社会をつくるということは、一人ひとりの幸福が社会全体の幸福になること。そのためには皆の知恵を結集していかないと実現できない」とのコメントも的を射ていた。

がんとの共生は、そうした世の中を実現するための試金石なのかもしれない。

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。