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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

「地球・人・繁栄」3つの成長のバランスを考えた未来へーータイ証券取引所 パコーン・ペタタワッチャイ所長

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サステナブル・ブランド国際会議2021横浜の基調講演では、タイの証券取引所のパコーン・ペタタワッチャイ所長による「バランスのとれた成長への大転換」と題した基調講演も行われた。それによると、タイの資本市場でもコロナ禍は、変化を加速させている。それまでは経済的な繁栄ばかりが話題になっていたのが、新しい技術、人々の行動の仕方、意思決定の仕方、そして環境や社会、ガバナンスといったESGへの関心の高まり、持続可能性が重要になってきており、地球、人、繁栄の3つをいかに共に伸ばし、成長させていくかが重要な、新しい規範となっているという。そんな中、ペタタワッチャイ所長は、「タイ証券取引所では、われわれ自身がよりグリーンな取引所になろうとしている」と強調した。その取り組みを紹介する。(廣末智子)

証券取引所が持続可能な社会づくりに貢献

タイでは1997年、金融危機(アジア通貨危機)が起こった。その時初めて、タイの資本市場が将来的にも成長するには、ビジネスチャンスを考えるだけではだめだと分かり、投資家の権利をどのように扱うのか、また情報開示や会社の透明性をどう推進していくか、といったことに取り組んできた。その過程で、「コーポレートガバナンス、あるいは良き企業法人であるだけではもはや十分ではなく、企業はESGを考慮し、持続的な成長を遂げるための事業戦略を描く必要が出てきた」という。そうして金融危機から20年が過ぎた今、名だたるサステナビリティ・インデックスの構成銘柄に採用されているタイの企業は東南アジアでも有数の規模となり、少なくともいくつかの業界で世界のリーダーとなる企業が上場している。そうした状況の中で、ペタタワッチャイ所長は、「私たちの証券取引所は、まさに世界の中でも持続可能な証券取引所となっている」と胸を張る。その大きな理由が、同取引所自体が「地球、人、繁栄の3つを共に成長させるための貢献者となっている」ことにあるというのだ。

具体的に、同取引所では、3つのケアイニシアティブである「CARE THE WHALE」「CARE THE WILD」「CARE THE BEAR」に取り組んでいる。このうち「CARE THE BEAR」は、上場企業、そして同取引所も含めた事業活動によるCO2の排出量がどれだけあるのかを測定するもので、この1年で約7000トンものCO2排出量の削減を実現した。これは「樹齢5年の木を約80万本植えるに等しい」規模だという。次に、「CARE THE WHALE」は、廃棄物管理を行うもので、どこでどのようにリサイクルを行えば、有害廃棄物を減らすことができるのかという観点から同取引所が考案したプランに沿って、バンコクの、上場企業が集積する地区において14事業者が参加し、2019年以降、約4000トンのCO2が削減できた。その規模を「CARE THE BEAR」と同様に植樹で換算すると「樹齢10年の木を約50万本植えるのに等しい」ことになる。最後に「CARE THE WILD」は、ずばり森林再生プロジェクトであり、関心のある企業が植林を行い、その後、第三者機関がその効果を測定する形で行われている。2020年は約200ヘクタール分の土地に植林し、その効果を測定したところ、CO2換算で約90万キロを吸収するに相当するという結果につながったという。

つまり、同取引所はこうした3つのプロジェクトを、取引所自体はもちろん、上場企業を含むパートナー企業とともに行っており、今後もさらに拡大していく方針という。同取引所では、さまざまな団体がつながり、上記の3つのプロジェクトなどを通して共に活動するためのプラットフォームを今まさに立ち上げようとしている。ここでペタタワッチャイ所長は、「私の意見では、こういった活動というのは、世界や地球、人々を再活性化するだけでなく、また経済の繁栄のためだけでもなく、これを一度限りと言わずに繰り返し、一貫性を持って継続しなければいけないと思っています」と強調した。

人づくりのポイントはファイナンシャルリテラシー

そして、「人づくり」ということに関して、ペタタワッチャイ所長は、「不平等からくる収入格差をなくす上でもファイナンシャルリテラシーが大事なポイントである」と指摘。「一般の人々が、十分なお金を稼ぎ、定年退職後には第2の人生を心地よく生きていくためにも、ファイナンシャルリテラシーを学ばなければいけない」とする考えを示した上で、同取引所では、このファイナンシャルリテラシーについて教育するプログラムの確立を進めていることを報告した。これはあくまで投資目的ではなく、お金の健全性といったものを学ぶためのものであり、学生や高齢者、あるいは新社会人らに対して、対面式やデジタルによるトレーニングを行っているという。

最後に、ペタタワッチャイ所長は株式市場や証券取引の役割について、「もともとこの地球や人々、そして経済の繁栄のために役立てることができるもの。従来の株式市場には、そういったものが備わっていた」と話し、その観点に立ち戻って、新規企業の成長を短期間だけ支援するのでなく、どうすれば持続可能な形で支援できるかという考えに基づいてサステナビリティトレーニングやプラットフォームを提供するとともに、どんな場合にも「効果測定」に重点を置き、活動の結果の正当性を情報発信していくことをあらためて表明。また長期に経済を支えるためには、「スタートアップや中小企業にこそ資金を提供しなければならない。そして資本市場へのアクセスをよくしなければならない」と力を込めた。

「今後、人と地球、繁栄の間での成長のバランスがうまく取れた形で進んでいくことで、より良い未来が待ち受けていると期待しています。世界中で食品ロスや温室効果ガスを削減し、よりクリーンなエネルギーを使いながらリサイクル品を活用し、大気汚染をなくす。そして自然との共存が可能になるように植林をさらに行っていく。そのためにもさらなる協力が必要ですし、みなさまにもぜひ参画していただければと思います。共に、地球と人と繁栄について考えていきましょう」

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。