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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ESG投資から見るインパクトファイナンス 加速する流れに日本はどう追いつけるか

右上から時計まわりに、寒竹氏、竹田氏、田中氏、森澤氏

今、持続可能な社会の実現に向けた世界的な金融の流れを考える上で、サステナブル・ファイナンスが広がりを見せている。ESG投資が拡大すると同時に、企業は従来であれば財務情報を基に評価を受けていたのが、それと一体化して、ESGの観点による「非財務情報」の面からも評価を受ける流れが進んでいる。世界が脱炭素社会へと舵を切る中、いかに長期的な観点から新しいビジネスモデルへの移行を進められるかが問われているのだ。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、PRI事務局ジャパンヘッド兼CDPジャパンディレクターの森澤充世氏らが、それぞれの立場から、いわば金融を通じたリジェネレーション(再生)の可能性について議論を深めた。(廣末智子)

ファシリテーター:
田中 信康 サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサー、サンメッセ総合研究所(Sinc) 代表
パネリスト:
森澤 充世 PRI事務局ジャパンヘッド、CDP事務局ジャパンディレクター 
寒竹 明日美 tsumiki証券 代表取締役CEO
竹田 達哉 三井住友フィナンシャルグループ 企画部サステナビリティ推進室 室長

投資のハードルを下げ、資産形成の裾野を広げたい

tsumiki証券は、小売業などを手がける丸井グループを経営母体とする証券会社だ。寒竹明日美CEOは「若い世代のお客さまを中心に、クレジットカードや、カードで貯めたポイントを使って、少額投資をしてもらう。とにかく投資のハードルを下げ、分かりやすく、簡単にサービスを提供することによって、資産形成の裾野を広げていきたい」と話し、顧客の約7割が20〜30代で、且つ「投資初心者」であることを報告した。

扱う商品は、「顔の見える運用会社」にこだわった4つの積み立て投信のみ。「例えば、30年間持続的に成長できる企業を選びますという投資方針で、財務だけでなくESG評価も含めて運用している会社の商品を、お客さまにちゃんと理解し、共感してもらって続けてもらう」ことをビジネスの基本としている。

課題は、このコロナ禍でクラウドファウンディングや寄付といった分野は確実に伸び、「若い世代を中心に、お金に気持ちを託して世の中を良くしていこうという流れは着実に来ているのに対し、資産形成というとまだ怖いとか、難しいというイメージが強く、そこの間に壁がある」こと。「この壁をなんとか打ち破りたい。習うより慣れよ、の精神で、投信に対してお客さまに慣れていただいた後に、その商品の良さや投信の素晴らしさを知っていただき、私どももお客さまと一緒に成長していきたいです」。

ESGは企業の「将来財務情報」 日本も欧州と同じ手法が必要になる

続いてPRI事務局ジャパンヘッド兼CDP事務局ジャパンディレクターの森澤充世氏が登壇し、初めに2006年4月に発足したPRI(国連責任投資原則)について、「投資の意思決定プロセスにESG問題を考慮に入れることが、企業の価値を変える原動力になる」とする考えに基づき、「機関投資家が長期的に投資することを促進する枠組み」であると説明した。現在、この枠組みに賛同する署名機関は世界で3300を超えており、リーマンショック後も、そしてこのコロナ禍においても伸びている。ただ、半数以上は欧州で、次いで米国、オーストラリアが多く、中国や、中国以外のアジアでも伸び率が大きいのに対し、日本は90とまだまだ少ないのが現状という。

日本でも、機関投資家の行動規範を整備する「日本版スチュワードシップ・コード」が2014年に、コーポレートガバナンス・コードが2015年に導入されたことで、従来の財務情報に加え、ESGに関する非財務情報の重要性が急速に高まった。森澤氏はこの非財務情報について、敢えてその言葉を使わず、「企業の将来を見るという意味で 『将来財務情報』と呼んでいる」とした上で、企業の将来を長期的に見ていく上でのマテリアリティ(重要課題)が、法律や政策、社会の期待や規範の変化によって大きく変わることを指摘。欧州では今、投資家や企業が十分な情報を得た上で環境に配慮した経済活動に関する投資判断の決定を行えるよう支援するための分類手法である「EUタクソノミー」が規定されているが、「2050年までのカーボンニュートラルを目指すのなら、日本においても、欧州と同じようなことが必要になってくる」とする見解を述べた。

次に森澤氏はCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)について「いち早くESG投資の重要性を見出して、投資家が企業の環境情報開示を促し、開示によって得られたデータを投資に生かすシステムを構築した」と説明。CDPが多くの投資家に代わって一つの質問書を企業に送り、企業が一度回答すると多くの投資家に情報開示できるようになったことで、「一機関だけでは企業に影響力を与えられなくても、多くの機関が集まって企業に働きかける、共同エンゲージメントの手法を通して、企業に行動を促すことができるようになった」とその成果を強調。質問書の内容は「気候変動」と「水セキュリティ」「森林コモディティ」に分かれ、それぞれの回答をもとにスコアリングを実施する方式で評価が行われ、2020年には最も高評価とされる気候変動Aリストに日本企業から53社が選出された。

誰もが「年金基金」を通じてESG投資に関わっている

続いて、メガバンクを代表して、三井住友フィナンシャルグループの企画部サステナビリティ推進室室長の竹田達哉氏が、「ESGをめぐるカネの流れ」と題した図表を携えて登壇。図の中で、「個人」と「事業会社」に挟まれて中心に位置する「金融機関」を示しながら、「私ども銀行は、セッションの文脈で言いますと、お客さまからお預かりした預金で、責任のある融資を行い、ポジティブなインパクトを出していきたいと考えています。また一方では、機関投資家から投資をいただいている立場の事業会社でもあり、機関投資家からはポジティブなインパクトのある事業をするよう求められています」と分かりやすく説明を始めた。

話はそこから、これまで財務情報をもとに「信用格付け機関」によって信用情報の格付けを受けていた金融機関が、足元の動きとして、CDPのような非財務評価機関によってESG情報をもとに評価され、これを受けてCDPがその情報を機関投資家に提供するという流れが生まれていることに及んだ。ここで竹田氏は「さらに今、この信用格付けの世界と、非財務評価の世界が統合されようとしています。非財務と、従来の財務が一体となって、企業を評価する流れが進んでいます」と語調を強めた。

竹田氏は「実は、ESGに対する感度に関係なく、われわれ誰もがESG投資をやっているということになります」として、図表の中で、「個人」から「年金基金」へと向かう矢印を示した。この「年金基金」は、世界最大の機関投資家とも呼ばれるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を指し、「つまり、ここで運用されているお金は国民の皆さんが積み立てている年金であり、ESGは自分に関係ないと思われている方でも、自分たちのお金が年金基金を通じてすでにESG投資として企業に流れている、ESG投資に関わっているんだということを認識していただきたい」と力を込めた。

ESG投資は日本に向いている

3氏のプレゼンテーションを経て、ファシリテーターを務めたサステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサーの田中信康氏は、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、昨年末に金融庁が「サステナブルファイナンス有識者会議」を設置したことに触れ、「ようやく、という感はあるものの、本当に良い流れになってきている」とサステナブル・ファイナンスを巡る国内の動きを評価。「今、ESGがメインストリーム化していることは間違いない」として、あらためて森澤氏に、日本におけるESG投資の“本気度”をどう捉えるか、と質問した。

これに対し、森澤氏は、「短期売買ではなく、長期的に投資先を見るのは、日本に向いている投資だ」とした上で、これに対する世界の動きとして、「欧州ではグリーンファイナンス、グリーンリカバリーということが言われ、お金を集中的にどこに向けていけば良いのかを考えている」ことを挙げた。「世界中で新型コロナウイルス感染症によるさまざまな影響が生じている中、今後、どのような投資が必要になってくるか。長期的に考えた場合に、限られたお金をどのように使っていくのがいいのか。この流れは日本も同じです」と述べた。グリーンリカバリーに関しては、「投資先の人権問題をはじめ、生物多様性や気候変動への対応を見ていかなければならない。これはもう世界中の投資家がそう考えています」と強調した。

インパクトファイナンスを広めていきたい

一方、竹田氏は、「昨年1年間というのはインパクトの年であり、それを最後に駄目押ししたのが菅首相のカーボンニュートラル宣言だった」と振り返った。そして、個人的な考えとした上で、「通常、資本主義ではファイナンスのリターンは金銭的な価値で得られたのが、そこにインパクトという概念が入ってきた。ステークホルダー資本主義やマルチステークホルダーといった考え方が同時並行で現れる中で、新しい価値判断基準が求められ、インパクトが大事だということに皆が気付き始めたのだと思う。より良い、持続可能な社会をつくるためにお金を使うとはどういうことか、その結果として得られるインパクトとはなにかと。そこで従来のリターンに加えて、社会にどう貢献しているかが問われるようになっている」と、日本の金融市場を支えるメガバンクの一員としての思いを吐露した。

これを受け、田中氏は、「三井住友フィナンシャルグループは外部への融資の評価においても、あるいは社内で新しい価値を見出すという意味でも、非財務情報に重きを置いておられますが、この金融市場における課題はどの辺にあると感じていらっしゃいますか」と質問。これに対し、竹田氏は、「非財務情報を使ってお客さまのアセスメントをし、融資の判断をする上で、お客さまによって開示の状況が異なるところもあり、まだ発展途上だと思っています。ただ、ESG情報については当然把握していきたいので、お客さまとのエンゲージメントを通じて、きちんとご理解をいただきながら、通常の財務情報と同じように開示をしていただけるような世の中をつくっていきたい」と述べた。

また社内の取り組みについては、昨年発表したサステナビリティに関する長期の計画の中に盛り込んだ「社会貢献活動などを含めてインパクト評価をし、社外に公表する」というKPIについて言及。実は竹田氏自身がかなりの思いを持って導入したものであり、その理由について、子会社のSMBCコンシューマーファイナンスがこれまで約100万人に対して金融経済教育をやっているのに対し、「100万人に対して金融経済教育を行った事実は素晴らしいが、それによって社会がどう変わったか。具体的には、その教育を受けた生徒たちがどういう行動変容を起こし、その子たちが大きくなった時にどういう効果があったのかということを測りたい。これをまずは社員に知ってもらって、インパクトを評価するということや、社会に対するインパクトを出すとはどういうことなのかということをしっかりと広めていきたい。そうすることがインパクトファイナンスを広めていくことになる」と思いを語った。

これを聞いた寒竹氏は「弊社でも投資の裾野を広げるということで取り組んでいますが、竹田さんのお話を聞いて、まだアウトプット止まりなのかなと思った」と感想を述べ、「ただ弊社のお客さまの中にも投資を始めたことによって視野が変わったとか、自己の成長につながっているという若い方が増えているので、弊社でも、そうした方々がその後どう変わっていったのかということをきちんと出していくことにもトライしたい」と抱負を語った。また寒竹氏は、日本の金融資産でみると、その多くを個人が握っており、約1900兆円もの家計の金融資産の半分以上が現金と預金であることを指摘。「私どもは個人の力をもっと動かしていくことで国や世界は変わるはずだと思っており、やはりそこを楽しく共感できるやり方で動かしていきたい。そこが私の大きなチャレンジです」と語った。

移行の遅れはビジネスチャンスの喪失に

またインパクトファイナンスの定義について、森澤氏は、「サステナビリティ問題が投資判断にどういう影響を与えるかというところがインパクトになってくる」という見方を示した。その上で、2017年に東京都が日本の地方自治体として初めて実施した「東京グリーンボンド」を例に挙げ、「この頃はまだインパクト投資という言葉が広がっていませんでしたが、海外の方と話す中で、これは非常にインパクトがあると。つまり、同じようなことでも最初にやるということが非常にインパクトを与えますし、日本でそういったことをやられるところがどんどん増えていけばいいなと思います。これからの可能性で言えば、女性の役員の比率を高めている企業に投資家が投資をしていくようなソーシャルボンドであるとか、そうした投資が進むことによって市場を変えていくことができます。それを待ち望んでいます」と話した。

さらに森澤氏は、自身が日頃、Just Transition(ジャスト・トランジション)という言葉を「理にかなった移行」と訳し、世界が脱炭素社会に向かう中、労働者や地域社会がそこに取り残されないようビジネスモデルを移行させなければならないと主張していることの意味について、「自分たちのビジネスをどう変えていかないといけないのか。トップが早く気付いて、戦略の中に落としこんでいかなくてはならない。これが遅れれば遅れるほどビジネスチャンスを失い、そうすると従業員が職を失い、雇用が揺らぎ、サプライヤーにも影響を及ぼすことになる。ですから、経営者が早く決断し、サプライヤーに対してもエンゲージメントしていかねばなりません」と再度、強調。その上で、「日本企業は古くから従業員を大切にする風土があり、ESGの観点でいうと、欧州や米国よりも合っている。この分野で、世界で一番になってもおかしくないとずっと思っています」と述べ、あらためて企業はESGの観点から長期的な戦略を立て、投資家はそこを見て投資していくことの重要性を指摘し、セッションを締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。