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都心の持続可能なまちづくりとは 千代田区と三菱地所が描く国際都市・東京の未来:第2回全国SDGs未来都市ブランド会議⑥

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左から成川氏、井上氏、印出井氏

第2回全国SDGs未来都市ブランド会議で紹介した5つ目の連携事例は、東京・大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)で行われている、大都市における持続可能なまちづくり。「街を挙げて『大丸有SDGsACT5』をやってみた!」をテーマに、連携する千代田区の印出井一美氏と三菱地所の井上成氏が登壇した。ナビゲーターを務めたのは東海大学政治経済学部の成川忠之教授。(岩﨑 唱)

ナビゲーター :
成川 忠之 東海大学 政治経済学部 教授
パネリスト:
印出井 一美 千代田区役所 環境まちづくり部 計画担当部長
井上 成 三菱地所 エリアマネジメント企画部 担当部長

日本のビジネスや商業の中心地からサステナブルなアクションを

大丸有とは、東京駅と皇居の間に位置する大手町、丸の内、有楽町を合わせた約120ヘクタールのエリア。ここには約100棟の大規模ビルが建ち、約4300の事業所があり、約28万人が働く日本のビジネスや商業の中心地となっている。三菱地所エリアマネジメント企画部担当部長の井上成氏は「1890年に当時の三菱社が武家屋敷の跡地を買い取ってまちづくりがスタートしました。現在のまちづくりは1988年に発足したエリア内の地権者を会員とする『大丸有まちづくり協議会』から始まっています。1996年には『大丸有まちづくり懇談会』が発足し、地域で合意したさまざまな取り決めを千代田区や東京都、インフラ事業者であるJRと共有し、公共と民間の協力・協調(P. P. P.:Public Private Partnership)によってまちづくりに取り組んでいるのが大きな特徴です」と説明した。

2007年には、環境・健康などの社会的課題を解決するための『一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(エコッツェリア協会)』を立ち上げ、さらに道路、広場も含めた公的空間をマネージメントするために『NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(リガ―レ)』が発足している。こうした推進体制を下敷きにして、三菱地所が実行委員長になり、農林中金や日経グループなども加え2020年に『大丸有SDGs ACT5』が始動した。

「サステナブル・フード、気候変動と資源循環、WELL-BEING、ダイバーシティ、コミュニケーションの5つのテーマに沿ってさまざまなアクションを起こしています。われわれの思いとしては、座学や地域へのインプットに留まらず、2030年に向けてSDGsの17のゴールへの解決策をいち早く見つけるために企業が連携してアクションを起こしていくことを念頭に活動している」と井上氏は話した。

「つながる都心」がまちづくりのキーワード

千代田区環境まちづくり部計画担当部長の印井出一美氏は行政側からの取り組みを紹介した。千代田区は都市づくりの長期ビジョンとして「千代田区都市計画マスタープラン」を掲げ、その中で「つながる都心」をキーワードに将来像を描いている。

「千代田区には、400年前に世界最大の都市であった江戸の発祥の地という歴史的な時間軸の積み重ねがあり、夜間人口6万7000人に対し昼間人口が90万人にも及ぶ世界でも類をみない都市です。異なる層の人たちの活動と交流によって成り立っている都市と言えます。この多様な人々をどうつなげるかがわれわれのまちづくりのキーワードになっています」と述べた。一方で、コロナ禍で人口が過密している都市そのものの存在意義が問われていると課題について言及した。

そして「つながる都心」から展開するキーワードとして「インターネット・オブ・プレイス(IoP)」を挙げた。「大丸有エリアでは建物内、公共空間、道路や公開空地を単なる空間としてのスペースを、文脈や機能をもったプレイスと考え、さらにサイバー空間におけるプレイスもつなげることによって新たな価値の創造ができると考えています。それをIoTになぞらえてIoPという形で概念整理し、いま官民連携で研究をしているところです」。

もう一つのキーワードが「グリーン・インフラ」だ。「グリーン・インフラは、グレー・インフラ(下水道や道路)に対する言葉で、われわれは緑をメディアとしてIoPと同様の形でつなげていくことを目指しています。昨年には、丸の内仲通りに天然の芝生を敷く『Marunouchi Street Park』という取り組みを行いました。これは道路を公園に変え、そこにワークスペースやレストランを用意し、公共空間を緑のある価値あるプレイスに転換させました」と事例を挙げて説明した。

開発と持続性が整合したまちづくりを

ナビゲーターの成川氏から、「大丸有エリアでは日本一の高層ビル建築が進められているが、都市開発とSDGsの関係はどのように考えているのか」と質問があった。

印井出氏は「開発のインセンティブと公共性のバランスが大切で、大丸有地域のまちづくりは日本の課題を解決するためのまちづくりです。脱炭素化などさまざまな貢献により都心全体の役割を機能的に果たすことを期待しています」と答えた。

井上氏は「経済、社会、環境というトリプルボトムラインに目配せしなから、バランスをとって開発を行うのが重要だと思っています。また、運営のクオリティを高めていかないと持続可能性を棄損します。SDGsの視点で省エネルギー、廃棄物などに考慮していくことがSDGsにつながります。さらに、大丸有エリアは、地方に支えられて成り立っています。どうやって地方に還元していくかも大きなテーマの一つ。昨年のACT5では旅客用高速バスの空トランクを活用し、地方の物産を大丸有エリアで販売する試みを実施しました。地方との関係性も十二分に視野に入れながらまちづくりを運営していくことでサステナビリティと開発が整合するのではないか」と述べた。

SDGsは人を奮い立たせる運動になっているか

左から青木氏、藤田氏、原田氏

SDGsを中心に据えた新時代のまちづくりに取り組む5つの自治体・企業の連携事例の紹介を終え、最後に「SDGsを地方創生にいかにして活用すべきか」をテーマに、第2回全国SDGs未来都市ブランド会議の総括が行われた。登壇したのは、同会議を主催する地域デザイン学会に所属する3氏だ。

ファシリテーター:
青木 茂樹 サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
パネリスト:
原田 保 地域デザイン学会 理事長
藤田 直哉 日本映画大学 映画学部 准教授

もっとシビアに

地域デザイン学会理事長の原田保氏は「まだきれいごとのレベルを出ておらず、もう少しシビアに取り組む必要があると思う」と前置きし、3つの点を指摘した。「感心したのは柏市と学研ホールディングスの事例。高齢者福祉という最大のマーケットに対して最大の力をかけて利益獲得に取り組んでいる。しかも、地域や国家に還元している。こういうアプローチが経済と社会を結び付けることになる」と述べた。観光に関する事例に関しては「従来の観光ビジネスから脱却できる新たな価値を見出さないといけない」と主張。そして、大丸有エリアの事例について「ゾーニングによる新たな価値や意味、それを伝えるメッセージをもっと発信してはどうか。あのエリアは日本だけではなく、世界に対してアピールしていかなければならないエリア。世界の大都市のどのゾーンと競争し、あるいは連携していくのかを考える必要がある」と提案した。

人の心を惹きつけるワクワクさが必要

日本映画大学映画学部准教授の藤田直哉氏は、いくつか気になった点があると前置きし「未来とかブランドといって次世代のことを考えるなら、もっとワクワクするものにする必要があるのではないか。確かにいい取り組みですが、脱炭素社会とかエコ、それだけでは人の心をキャッチできない」と語った。さらに、藤田氏が関わっている地域アートの芸術祭を例にとり、地方の存続やまちづくりについて、「他の人がやらないような思い切った戦略をとる必要があると思います。SDGsは、未来に対して意欲がない人たちに意欲を出させ、クリエイティブな人材が課題解決の事業を起こすための仕組みでないといけない。できれば考えたくないさまざまな課題を、あえてチャンスと捉え、課題を解決する自分たちはフロンティアなんだ!と思わせるのがSDGsの重要なポイント。そういう点から見ると、どの事例もまだワクワクが足りないのでは」と評した。

人を奮い立たせる運動になっているか

原田氏は「課題だらけの未来に対して意欲をなくしている主体が世の中にはたくさんいる。そういう人や企業などがSDGsをツールとして自分の価値を発現できるかどうかということに意味があります。人を奮い立たせるための運動になっているかどうかということを、まず問うべき」と訴え、藤田氏は「ワクワクさせるというのは、自分を解放できる場があり、自分がありのままに生きられる未来があることを感じさせ、その人の能力を発揮してもらうために必要なのかもしれない」と述べた。

青木氏が会場のオーディエンスからも意見を求め、渋谷教育学園渋谷高等学校1年生の女生徒が「確かに自分一人の力では解決できそうもない課題がたくさんあります。その中で唯一私たちの世代が希望を託せるのがSDGsで、最後の砦。ワクワクを定義するのは難しいですが、お二人の話を聞いて、自分ももっとやりたいと思いました。そういう奮い立たせる力が教育者や子どもに接する人には大切です。子どもがそういう力にもっと接することができ、輪が広がっていくといい。SDGsのワクワクさって大事だなと思いました」と感想を話した。

最後に青木氏が「SDGsは誰でも参加できる、いままでになかったプラットフォーム。これを一つの手段として実行し、実現していくべき。今回はそこにワクワクをつくろう!という答えを導けた。来年もワクワク感をつくれるような全国SDGs未来都市ブランド会議を開催したい」と締めくくった。