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最期まで住み慣れたまちで暮らし続ける――柏市と学研が少子高齢化時代のまちづくり:第2回全国SDGs未来都市ブランド会議④

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左から成川氏、秋山氏、小早川氏

千葉県柏市は2011年に環境未来都市に指定され、健康長寿のまちづくりを進めている。首都圏の典型的なベッドタウンである柏市は、団塊世代の住人が多く、高齢者の増加による福祉施設の不足が課題となっている。一方、学研は教育関連事業に加え、医療福祉分野へ事業領域を拡大し業態転換を図っている。第2回全国SDGs未来都市ブランド会議の3つ目の事例は、柏市と学研ホールディングスによる少子高齢化社会に必要なまちづくりを紹介する。(岩﨑 唱)

ナビゲーター :
成川 忠之 東海大学 政治経済学部 教授
パネリスト:
秋山 浩保 柏市 市長
小早川 仁 学研ホールディングス 役員室 常務取締役

急増する介護需要にどう対応するか

柏市の秋山浩保市長が「柏市は国道16号線沿いの千葉県北西部に位置しています。国道16号線沿いにはさいたま市、八王子市、横浜市、千葉市など東京郊外の都市が連なっていて、これらの都市では、住民の中で団塊の世代が占める割合が非常に高く、今後、介護需要が急増することが予測されています。柏市の人口は43.4万人。65歳以上が人口の25.7%。これが2030年になると85歳以上の方が倍増し約3万人になり、2人に1人は生活支援が必要になってきます。かつてはご家族がお年寄りを支えていましたが、これからは社会が支えていかなければなりません」と現状を説明した。そして課題について触れ、「SDGsのゴール3『すべての人に健康と福祉を』に掲げられているように、尊厳をもって生活していける社会を実現することが、柏市のまちづくりでの大きな挑戦となっています」と話した。

「サ高住」を中核にした地域包括ケアシステム

学研というと思い浮かぶのが小学生向けの雑誌『科学と学習』。創業者の古岡秀人氏が「戦後の荒廃した日本を復興するには教育が必要だ」との思いから創刊し、最盛期の発行部数は670万部で小学生の2人に1人が『科学と学習』の読者だった。小早川仁常務取締役は「2004年に少子高齢化社会の中で、なにか社会に貢献しなければいけないと高齢者向けの福祉事業を社内ベンチャーで立ち上げました。現在ではこの福祉事業が売り上げ構成の約42%を占めています」と業態変換が進む学研の現状を紹介した。「もともと学研では子育て支援事業をやっていました。高齢者福祉を加えることで0歳から100歳を超えても地域の中で安心して暮らし続けることができるサービスを “地域包括ケアシステム”と名付け、グループ全体で推進しているところです」。

その中核事業がサービス付き高齢者住宅(サ高住)の運営だ。サ高住とは、2011年に高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)の改正によって生まれた高齢者向けの賃貸住宅で、近隣の家賃相場で借りられ、入居一時金が不要、24時間365日の安否確認や生活相談など安心と安全のためのサービスが付いている。「類似施設に比べて、同じ要介護度の人が50~60%程度の社会保障費で生活できることが学研が推進している理由」と説明した。

官民連携で豊四季台団地プロジェクトを推進

柏市には多くの団地があり、その一つが昭和39年(1964年)にできた豊四季台団地。この団地では住人の多くが80歳代になり生活支援が必要な人が増えている。秋山市長は「支援が必要になったからといって施設に引っ越してくださいというのではなく、住み慣れたところで暮らし続けられることが大切。そのために在宅医療やさまざまな介護サポートを連携させて生活を支えようと考えています。古い団地にはなかったエレベーターやバリアフリーの設備を作り直し、あるいは同じ地域にサ高住を建設し、顔なじみの隣人がいる中で一緒に生活支援や介護サービスを受けながら暮らしていくことができるまちづくりを実践しています。その豊四季台団地プロジェクトの中心的役割を担っていただいているのが学研です」と話した。

複数法人のコンソーシアムによる運営に挑戦

小早川氏は「豊四季台プロジェクトでは、サ高住を拠点として地域の高齢者の方に、必要に応じた介護、看護、医療、食事などの地域包括ケアサービスを提供し、住み慣れた地域で暮らし続けることができるまちづくりを実現しようとしています。このプロジェクトの特長は、医療法人、社会福祉法人、他の民間企業とコンソーシアムを組んで地域にサービスを提供することを試みていることです」と述べた。

学研では、このモデルを全国汎用することを想定し、地域の複数の法人と連携して事業を進めようとしている。「別々の法人のスタッフが同じ事務所で働くことは難易度の高いことですが、自治体の理解と協力があり『多職種連携』を実現できた」という。また、数多くの自治体で官民連携の経験がある小早川氏は「スムーズな地域連携には自治体の首長の理解があることが不可欠」と訴えた。さらに、連携を阻害する要因として縦割り組織の弊害や民間とのスピード感の違い、担当者変更に伴う方針変更などを挙げ、改善して欲しいと要望した。

官民のパートナーシップで持続可能なまちづくりを

秋山市長は「これからのまちづくりには、本質的には地域の自治体の役割がとても大事です。しかし実際に医療や介護、生活支援のサービスを提供するのは民間の皆さん。さまざまな専門職の方が一つのチームになって市民を支え、そのチームが縦割りにならないように、また民間事業者の生産性を高められるように、ネットワークや連携をサポートしていくのが行政の役目です。これはSDGsのゴール17『パートナーシップで目標を達成しよう』に該当します。高齢化社会をどう支えていくか、これが先進国の、とくに首都圏の都市課題」と語った。

小早川氏は「超高齢化社会では高齢者の住まいはコンパクト&スマート化すべきです。また、地域包括ケアシステムには、高齢者だけでなく子育て支援の視点が必要になります。複合型サ高住は公的不動産を有効に活用でき、社会価値やソーシャルインパクトを与えることができる」と締めくくった。