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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

課題解決しながら自社も磨く──ニューノーマルのDXで選ばれ続ける企業を目指せ

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右上から時計まわりに、町田氏、細田氏、真野氏、及川氏

コロナ禍による劇的な社会環境の変化に対応するため、企業は大きな変革を余儀なくされている。特に人の移動や身体的コミュニケーションが制限される現状において、DX(Digital Transformation)は喫緊の社会課題を解決するためにも必要不可欠だろう。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、「DXでつかむ!時代が求める新しい競争力~選ばれ続ける企業であるために」と題し、DXによる社会課題解決を目指しながらいかにコーポレートブランドに磨きをかけるかを、DX先進企業が具体的な事例とともに議論した。(いからしひろき)

ファシリテーター:
細田 悦弘 中央大学大学院 戦略経営研究科 フェロー、日本能率協会 主任講師
パネリスト:
及川 洋光 富士通 エバンジェリスト推進室 室長 兼)シニアエバンジェリスト
町田 直 NTTドコモ 法人ビジネス本部 DXソリューション部 部長
真野 秀太 みんな電力 ソリューション営業部 部長

パーパスあるDXが求められている

ファシリテーターの細田悦弘・中央大学大学院戦略経営研究科フェローが冒頭で語った通り「DXこそが時代が求める新しい競争力である」と企業人なら誰しもが思っているだろう。しかし、どのように実践していけばいいのか、イメージできている人や企業は少ないのではないか。

まずは、パネリスト3社の取組事例を見ていこう。

富士通のエバンジェリスト推進室室長兼シニアエバンジェリスト、及川洋光氏は、まず自社の発信するメッセージとして「リ・イマジン」を掲げる。ビジョンの再構想という意味だ。新型コロナウイルス感染症の拡大により従来のグローバルサプライチェーンは大きなダメージを受け、コスト・効率重視のビジネスプロセスや企業戦略は見直しを迫られている。しかし、いつまた新型コロナのような未曾有の危機に襲われるか分からない“不確実性”の時代において、長期的なビジョンや未来を見通すことは難しいだろう。

「だからこそ企業のパーパス、存在意義が求められている」と及川氏は力を込める。

どう儲けるかではなく、“どうあるべきか”をもとにして未来のビジョンを描くことができれば、世の中で何が起ころうとも揺るぎない戦略が立てられるという考えだ。

その上で、同社は昨年改めてパーパスを定めた。それは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」だ。このイノベーションはいうまでもなくDX を通じて行われものであり、それを支えるために同社は7つのテクノロジーに重点を置く。

その一つがコンピューティングだ。理化学研究所と共同開発したスーパーコンピューター「富岳」は、すでにコロナ禍の飛沫シュミレ−ション映像でご存知の人も多いだろうが、医療以外にもモノ作りや宇宙、生命の謎の解明、AI、ロボット研究など多くの分野で活用されることで、「社会課題解決の取り組みを支援していきたい」と及川氏は述べた。

NTTドコモ法人ビジネス本部DXソリューション部部長の町田直氏は、同社の数あるDXの取り組みの中から、社会課題解決につながる事例を2つ紹介した。

1つ目が「人口統計」。携帯電話の基地局でつかんだ人の動きのビッグデータをもとに、コロナ禍では繁華街などの人出をビジュアライズして見せ、行動抑制に貢献している。

2つ目が「メガネ型ディスプレイによる現場作業のデジタル支援」である。例えば保守作業の現場で経験の少ない作業員を、このディスプレイを通じてベテランの作業員がアシストできれば、人材不足による作業の停滞解消やコロナ禍での“密”防止に役立つ。

再生可能エネルギーの小売りをしているみんな電力ソリューション営業部部長の真野秀太氏は、本来、形も色も匂いもついていない電気にブロックチェーンというデジタル暗号技術を付加することで、その出自を追跡可能にしたことを紹介。いわゆる電気のトレーサビリティにより、日本全国200ヵ所以上の発電所から持続可能な電気を選べるサービスを提供し、脱炭素や電力の分散化という社会課題の解決に貢献している。

社会性のあるDXは企業の価値を高める

では各社は、こうしたDXによる社会課題解決をいかに自社のブランディングにつなげているのか。

富士通はやはり強みであるテクノロジーを前面に打ち出す。

その例として紹介された「デジタルツイン(Digital Twin)」という技術は、昭和生まれの人間にはほとんどSFの世界である。簡単に言うと「現実世界を双子のようにデジタルで再現する」(及川氏)こと。これが可能になれば、「離れた場所でも物理的な距離をなくし、デジタル上でそこがどうなっているかをリアルタイムに正しく把握することができ、未来予測もできる」(同)という。

例えば、オムロンソーシアルソリューションズとの共創コンセプトである「スマートステーション」は、一つの駅の人の流れや電車の運行をコンピュター上でリアルタイムかつ忠実に再現。車両の混み具合を把握することで混雑防止を図れたり、身体に障がいのある人の所在を予め認識しておくことで有事の迅速な対応ができたりする。

NTTドコモは、VR、AR、MRなどの先端技術の総称で、今後さまざまな領域での活用が期待されている最先端技術「XR」の活用を挙げる。具体的に目指すのはXRによる「セミナー・展示会」「街」「音楽・スポーツ」「教育」の“新しいかたち”の創造である。

すでに同社は、XRのなかでもVR(仮想現実)を用いたセミナーを開催。例えば、球体の会場を歩くといった斬新な体験をすることができる。世界中どこからでも参加できるし。言語、障がいの有無はハンデにはならない。

AR(拡張現実)を用いれば、「街」も便利に楽しくなりそうだ。例えばデパートの空間にスマホをかざすとバーチャルな空間でファッションショーが楽しめたり、樹木や生垣に同じようにかざすと、動くはずのない植物が動いたり、情報提供してくれたりする。さらには、謎解きのイベントを実際の街を舞台に臨場感たっぷりに体験することも可能で、多くの人をより街に出ようと思わせるだろう。

みんな電力は、エネルギー業界での脱炭素と分散化という課題に対して、あくまでもブロックチェーンによる“電気の見える化”をソリューションとして提供していくことを、最大のブランディングととらえている。

同社のサービスは、スマートメーターを用いることで30分毎にどこの発電所で発電された電気を使っているかがPC上で一目瞭然で分かり、それを証明することができる。それは“自然にやさしいエネルギーを使っている”ことを「価値化」することだ。例えば渋谷のパタゴニアショップは、千葉県匝瑳市の農家が作った太陽光の電気を使用しているが、そう公言できるのも同社のブロックチェーン技術のおかげである。

今回、方向性の違う3社が集ったが、いずれも単にデジタル技術を売りにするのではなく、“それをどう使うか、どう伝えていくか”に重点を置いていることが分かった。そうした姿勢はこれから続く企業の参考になるし、3社のような異業種企業が連携すればさらに新たな価値創造がなされ、社会課題解決にドライブがかかるのではないかと期待させるセッションであった。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。