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サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サステナブルブランドであるために、コミュニケーションにできることはーー電通と博報堂が共同宣言

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右上から時計まわりに、佐藤氏、大屋氏、吉田氏、竹嶋氏

今、コミュニケーションの世界でも、サステナビリティを軸としたマーケティングやブランディングをどう進めるべきなのかが問われている。持続可能な社会を実現するためには、組織や企業の枠を超え、社会に一つのムーブメントを起こしていくことが重要で、社内外のすべてのステークホルダーに対し、自社がどんな未来を目指し、どんな社会的課題に取り組んでいこうとしているのかを、ストーリー性を持って訴え、共感を得ることが求められているのだ。そこで、こうした課題にどう対応すべきかについて、広告代理店の両雄とも言うべき、電通と博報堂がサステナブル・ブランド国際会議2021横浜のセッションに並んで登壇。「サステナブルブランドであるために、広告コミュニケーションにできることは」をテーマに議論した。そして両社が最後に共同宣言した7つの提言とは――。(廣末智子)

ファシリテーター:
青木 茂樹 サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
パネリスト:
大屋 洋子 電通 PRソリューション局 コミュニケーション ディレクター
竹嶋 理恵 電通 PRソリューション局 コミュニケーション・ディレクター / 電通TeamSDGs プロジェクトリーダー
佐藤 友亮 博報堂 第五ビジネスデザイン局 部長 MDコンサルティング局 マーケットデザインコンサルタント
吉田 啓一 博報堂 MDコンサルティング局 マーケットデザインコンサルタント

広告会社が考えるサステナブルブランドとは

パネリストとして登壇したのは、電通から、電通TeamSDGsという組織を横断したプロジェクトチームでリーダーを務める竹嶋理恵氏と、同じチームメンバーで「食生活ラボ」プロジェクトも主宰する大屋洋子氏、博報堂からは、新設されたマーケットデザインコンサルティング局でコンサルティングサービスを手がける佐藤友亮氏と吉田啓一氏の4氏。いずれも、クライアント企業やメディア関係者らのSDGsやサステナビリティに関する戦略や企画立案をはじめ、ブランドとサステナビリティを融合させるビジネスモデルの構築などをサポートする、広告代理店の醍醐味を知り、仕事に情熱を傾けるプロ集団だ。

セッションは「広告会社から見るサステナブルブランドとは」という議題で始まり、「社会課題を解決する強いブランドパーパスがある」「宣言しているだけではなくアクションまで行っている」「そのアクションは一過性ではなく持続性がある」「そして生活者からの共感をしっかり得ている」の4つのポイントが挙げられた。

サステナビリティ活動は積極的に発信し、コミュニケーションをとるべきだ

続いてファシリテーターを務めるサステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサーの青木茂樹氏が、4氏に「日頃クライアントと接する中で見えてきた、サステナビリティの取り組みの現状や課題」について質問。4氏ともまず「サステナビリティ活動の発信といってもどうしてよいか分からない」とする悩みがいちばん多いことに同意し、次いで「そもそもサステナビリティ活動って大々的にコミュニケーションして良いものなのか?」と自問する企業も多いことを挙げた。

この問いについて博報堂の佐藤氏は、「まさにSDGsというテーマは『絶対善』であり、誰も否定ができないが故にちょっとワクワクしなかったりするし、すごく正しいことって日本的な文化の中では意外と胸を張って言いづらい面があり、クライアント企業の中にもそれを感じることがある。しかし有言することで責任が生まれるという意味でも、むしろ発言するべきだ」、電通の竹嶋氏も「SDGsにしてもサステナビリティにしてもやっていることをちゃんと伝えていかないと、やってないと見なされてしまうことが怖い。昨今、米国でブラック・ライブズ・マターの問題もあったが、これから先は日本企業も含めて、ああいうことが起こった時に自社としてどういうスタンスを取るのかということをはっきりさせないといけない時代が来ると思う」と話し、企業はサステナビリティ活動に対して積極的に発言し、コミュニケーションを取るべきとする意見でまとまった。

またクライアントの中には「今までのCSR活動の延長で良いのか?」と悩む企業もあると言い、これに関しては、博報堂の吉田氏が「それだけではやはり発信力が弱かったり、HPのいちばん奥にあって誰も知らないものになりがちだ」と指摘したのに対し、佐藤氏は「CSR自体、やっていることはすごく正しいことなので、組織的にそれを事業の真ん中に据えるのであれば、僕はむしろ(CSR活動の)延長でもいいと思っている」と肯定する意見も。もっとも最近はサステナビリティ推進室といった経営トップ直轄の専門部署を設置する企業が増えており、電通の2氏は「サステナビリティへの向き合い方が大きく変わっている」(竹嶋)「この1年で問い合わせの幅が広がっている」(大屋)と強調。佐藤氏も「これまで広告コミュニケーションを担当されていた方がサステナビリティの部署にいくような動きもあり、人や組織の循環や融合で、CSR活動とサステナビリティ活動はどんどん合体していくように思う」との見方を示した。

日本の生活者もサステナビリティを求め始めている

次に、「日本の生活者はどこまでサステナビリティを求めているのか」、また、「サステナビリティ活動はバリューチェーンでいうとどこが対象なのか」といった命題に頭を悩ませる企業も多いことが挙げられ、前者について、電通では毎年、SDGsに対する生活者調査を行っており、昨年は29%だったSDGsの認知度が、今年は大きく伸び(セッション時点で数字は未発表だが、4月26日に54.2%に上ると発表)、また“脱プラ”や“サーキュラーエコノミー”“エシカル消費”といった言葉に対しても「今後、自分の生活に取り入れたい」とする人の比率がSDGsの認知度を上回る結果が出ていることを根拠に、竹嶋氏は「確実に波は来ているというか、もうここにある実感がある。また若い人たちは学校でも学び、生活の中に染みついているので、その人たちがこれから消費の真ん中にくることを考えても、大きな流れがくる」と断言。

また後者については、大屋氏が「おそらくバリューチェーンすべて、が答えだ」と述べ、さらに「今やSDGsが事業活動の基本OSのようになっており、アウターはもちろん、この会社に勤めていて良かったと社員が思えるような、インナーに対するコミュニケーションも大事になってきている」と付け加えた。

トヨタの広告は「ブランドに人格を与えているよう」

セッションは、このような課題を踏まえた上で、では実際にどういう広告コミュニケーションが今、企業ブランドに必要なのかという議論に移り、両者がいくつかの企業に見られる広告コミュニケーションの好事例を紹介。電通は、まずステークホルダーに共感を呼ぶ力やストーリー性の高さといった観点で、KDDIの「私たちの『つなぐチカラ』は未来のためにある。」とするサステナブルアクションや動画、そしてユニチャームの2030年に向けたビジョンやステートメントの例を挙げた。

一方の博報堂は、2050年までにCO2排出量を80%以上削減し、容器やレジ袋のプラスチック対策を100%進めるなど4つの取り組みテーマを掲げ「未来への約束」を果たすことを目指すセブン&アイ・ホールディングスの「GREEN CHALLENGE 2050」の新聞広告を挙げ、「未来についてすごく語っているようで何も言っていないような企業が多い中、従業員や一般のお客さまにこれだけ分かりやすく説明している。もちろん達成できてこそ、ではあるが、少なくともスタート地点に立っていることを感じさせるのが素晴らしい」(佐藤氏)と評価した。

また両社がともに高評価したのが、オウンドメディアである『トヨタイムズ』などを通じて豊田章男社長が自らの強い言葉で社内外にビジョンを示すトヨタ自動車だ。同社が静岡県に建設中の壮大な実証実験都市である「ウーブン・シティ」について、竹嶋氏は「コンセプトとして未完成ということを挙げ、常に進化していくというという姿勢にすごく共感できる」、また豊田社長のメッセージについて大屋氏は「聞いているだけでワクワクする。社長が自分の言葉で語るのはいちばん本気度が伝わり、ことサステナビリティやSDGsということになるとすごく重要だ」、吉田氏は「今、トヨタと言ったら、豊田社長の勢いのある姿が浮かぶ。まるで、ブランドという抽象的な概念に人格を与えているようだ。トヨタはもう車の会社から未来の会社になっているなあと本当に思う。必ずしもトップでなくても良いので、発信力のある人がブランドのある意味“化身”となって話すことの重要性を感じる」と話した。

電通と博報堂の共同宣言7カ条

このようにいくつかの企業の好事例について両社が意見を述べ合った後、セッションはいよいよクライマックスである「電通と博報堂の共同宣言(7カ条)」の発表へ。最初に竹嶋氏が「これは、私たち4人からみなさまへの提言ですが、完成形とは思っておらず、この先、変えていくこともあるでしょうし、あるいは一緒につくっていくということもあると思う。みなさまが考えるきっかけになれば、と思い、7カ条にいたしました」と断った上で、各氏が交互に宣言の中身を読み上げた。その内容は以下の通りだ。

第1条 独自視点のある社会課題(ファクト)を捉える
第2条 企業やブランドの理念/志と結合し、戦略をストーリー化
第3条 目標や活動を定量的/具体的に示し、旗を立てる
第4条 サステナブルブランドとしての顔をつくり、本気感を伝える
第5条 ステークホルダーと共創関係になるモチベーション設計
第6条 未来を見据えるために、若い世代を巻き込む
第7条 アクションをベースに、プロセスも含めて継続的に発信

提言を終えた両社は、博報堂の2氏が「社会課題の解決と事業成長の両輪を回し、持続的拡大を図る」ことを軸に据えたコンサルティングサービスを、また電通の2氏はSDGsウォッシュにならないための「コミュニケーションガイド」や、バリューチェーン全体を対象にサーキュラーエコノミーの構築を支援する「SDGsビジネスソリューション」の提供などを手掛けていることを紹介。「みなさんぜひ恐れずにコミュニケーションし、情報の発信をして、仲間を一緒につくっていきましょう」(竹嶋氏)などと呼び掛けた。

最後に青木氏は、今回のサステナブル・ブランド国際会議2021横浜で初めて実施したJSBI(Japan Sustainable Brands Index)の結果、サステナビリティに対する企業の実績や思いと、消費者が持つイメージとの間に乖離があることが判明したことを例に、「やはりお客さまを巻き込まないとサステナビリティが経済のエンジンにならない。そういう意味でまさに課題が突き付けられているところに、両社の共同宣言を通じて、企業のサステナビリティをそもそものところから理解し直し、構造化、ストーリー化をしてお客さまへのラストワンマイルにつなげる仕組みについて勉強させてもらった」と締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。