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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

分野を超えた連携で先進的テクノロジーを生かし課題を解決する

社会的課題を解決するには仕組みの改革と同時に、新たなテクノロジーの導入が必要だ。しかし、日々進歩するテクノロジーが実際の課題解決に向けて実装されるためには、多くの壁を乗り越えなければならない。サステナブル・ブランド国際会議のセッション「社会課題を解決する先進的テクノロジー」では、脱炭素などの気候変動対策や海洋プラ問題、地域のモビリティまで、さまざまな課題に対して先進的テクノロジーがどのような役割を果たし、実際にどう社会を変えているのか、そしてそのために必要な分野を超えた連携のあり方について話し合われた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

パネリスト:
川口 伸明 アスタミューゼ テクノロジーインテリジェンス部 部長
ドレテ ニールセン ノボ ノルディスク A/S Corporate Environmental Strategy Vice President
高橋 雅典 日産自動車 Japan-ASEAN企画本部 モビリティサービス事業部 主管

ファシリテーター:
川村 雅彦 サンメッセ総合研究所(Sinc)所長/首席研究員

テクノロジーを分析し未来の社会を予測する――アスタミューゼ

企業や大学、官公庁などに戦略コンサルを提供するアスタミューゼは、膨大なデータベースを基に社会課題に特化したテーマについて社会の未来予測を行うという独特な特徴を持つ。データは世界中の特許情報、判例、企業の財務情報、論文、基礎研究、ベンチャーや研究への投資情報など多岐に渡る。

具体的な手法は、蒐集したデータを「未来を創る有望成長領域176」と、SDGsのテーマを事業に直結したかたちに再整理した「解決すべき社会課題105」の2軸で分析。どういった分野に、どの程度の投資がされているのか、そのテクノロジーがいつ社会に実装されるかを、短期から超長期までさまざまなスパンで詳細に予測する。川口氏の説明によれば、現在の世界の動向としては「自然エネルギー」「核融合」「水素ネットワーク」「電気自動車」「物流DX」に資金が集まっている傾向にあるという。さらに、日本が優位性を持つのは「再生可能エネルギー(再エネ)」「人工光合成」「蓄電池」「水素/FCV」「カーボンリサイクル」といった分野のテクノロジーだ。

「今後、さまざまな企業が事業領域の中でどのような社会課題に取り組むか、が重要になる」と川口氏は話す。同社では定量的な数字を用いて、企業や大学、国などが、それぞれが持つ技術資本を活用してどういう社会課題を解決すればどの程度の社会的インパクトや経済的メリットがあるかを視覚化し、企業などが解決すべき社会課題を特定することに貢献する。川口氏は「企業、大学、国の戦略的なGX(グリーントランスフォーメーション)には、データドリブンのDXが不可欠だ」とテクノロジー活用を最大化する手法について話した。

アスタミューゼは気候変動や脱炭素、水素社会、DXなど、テーマごとのさまざまなレポートの詳細を無料で公開しており、ホームページからダウンロードが可能だ。

連携で目指す「環境負荷ゼロ」――ノボ ノルディスク

デンマークに本社を置くノボ ノルディスクは世界に流通するインスリンのうち約50%のシェアを占める製薬会社。同社は社会課題解決、そしてテクノロジー導入の視点を、製品を含めて広く持っている。登壇したニールセン氏はノボ ノルディスクで環境戦略を担当し、あらゆる場面での環境負荷低減に日々腐心している。

同社では環境課題のマテリアリティを、資源の消費(Resources)、二酸化炭素排出量(CO2 emissions)、廃棄物(Waste)の3点に特定している。それらはすべて、製品の生産過程だけでなく、使用する機器や社用車の運用といった企業活動全般に関わるものとして取り組む。特にインスリンはプラスチック製の装置とともに製品を提供するため、廃棄物の削減やリサイクルは大きなテーマだ。ニールセン氏は、同社の究極的な目標を「環境負荷ゼロの実現」と断言する。「野心的なゴールを目指すことによって、さまざまな技術を駆使してソリューションを生み出す原動力になっている」と話す。

また、ニールセン氏は「サーキュラーエコノミーは環境負荷を最小限にするための手段になり得ると考えている」と話し、その考え方を取り入れた同社の戦略「Circular for Zero」を紹介した。バリューチェーン全体に目を向けて全体を見渡し、サプライヤーと連携しながら、設計段階からリサイクルを見越した製品デザインなどを進めているという。同社はこの戦略に沿って2030年に向けて7つのプロジェクトを開始しているが、その中でも「非常に重要なポイント」とニールセン氏が強調するのが「Circular Products」、製品への取り組みだ。

同社はデンマークで14のパートナーと協力し、使い終わった製品素材の再利用を推進している。例えば、家具メーカーとの連携によって約120本の使用済みインスリン・ペンを椅子へリサイクルするといった例も。ニールセン氏は「少しのクリエイティビティとコラボレーションを生かすことによって、必ずしも新しい技術でなくても、解決策が見つかることもある」と視野を広げることの重要性を語った。

先進技術を駆使したサービスは「ニーズの汲み取り」から――日産自動車

モビリティ分野での先進的テクノロジーの導入事例や、その考え方を披露した日産自動車の高橋氏は、同社で国内のMaaSの構築を担当している。高橋氏は「テクノロジーはどんどん進歩するが、一方で重要なことは既にある素晴らしいテクノロジーをどうやって社会に届けるかだ」と話す。さらに前提として「人の移動の解はひとつではないこと」を示した。都市部と地方では主な移動手段が変わるように、異なる社会構造に適したモビリティのあり方を実現するための要因が先進的テクノロジーだ。つまり、まずは生活者のニーズを汲み取る必要がある。

高橋氏は福島県・浪江町と取り組むモビリティシステム導入の事例を紹介した。東日本大震災の被災地域である同町には、昔から町に住む人、一度避難して戻ってきた人、これから住人になる人、町を再建するために一時的に居住している人などさまざまな人が住み、必要な移動の形態は一様ではない。

「なみえスマートモビリティチャレンジ(通称スマモビ)」は2021年2月8日から2月20日に行った実証実験だ。日常の足に使える「町内公共交通」としてのEVやIoTの活用と、貨客混載で生活を便利にする「買い物配達サービス」からなる。町内公共交通は、自宅から交通の結束点となる町の中心部のハブまで、アプリで手軽に呼べるEVタクシーで移動。町の中心部でも同様にアプリを活用したデジタル停留所を活用して、EVシャトルバスが呼べる仕組み。実証実験では一部に自動運転を採用した。「買い物配達サービス」はイオンと連携。店頭で見て購入し配達するほか、WEBのイオンショップからの注文も可能で、自宅への置き配や道の駅での受け取りにも対応した。

高橋氏は「先進的テクノロジーを導入する実証実験などのほとんどが、現状では助成金を利用して行われている。助成金を活用している以上、継続的なサービスは難しい。パートナーシップによって取り組みを積み重ね、助成金なくしても地域でまわるサービスを目指している」と課題を話した。

事業分野を超えた協業で先進的テクノロジーを生かす

川口氏は「海洋漂流物は医療器具が多く、それらの製品にバイオ素材を使うのは重要だ」として、マリンデブリに対する取り組みについてニールセン氏に投げかけた。ニールセン氏は「プラスチックごみ問題は最大の課題だ」と話す。生分解性で医療用に実用化できるプラスチック素材は、現状では開発されておらず、さまざまな代替素材を模索しているという。

また、CO2排出量削減の取り組みについて、「再エネを使ってもCO2排出量を削減できないケースもある。相殺し、補完するためのテクノロジーが必要だ。ネットゼロを目指すべきか、相殺を考えるのか、まだ明確な答えがない」と話し、CO2の貯留(CCS)やその活用(CCUS)といった、排出量削減だけでないテクノロジーを活用した解決方法の必要性を示唆した。

環境への取り組みの今後の課題を問われた高橋氏は、テクノロジーを活用するための仕組みの構築に言及した。例えば昼間、太陽光で蓄電しても、夜に電力を使わなければエネルギーは循環せず、これではテクノロジーを活用できているとは言えない。「人の生活と、生活の裏側にある技術がかみ合う仕組みづくりが必要だ」と実循環の必要性を訴えた。

川村氏はさらに深掘りし、「経営戦略として。先進的テクノロジーを使うことの意味は何か」と登壇者に投げかけた。ニールセン氏はこの質問を「とても重要なポイント」だと話す。ノボ ノルディスクは根幹に化学がある企業で、化学は同社の中核だ。「新たな治療薬を発見することだけでなく、そのほかの問題解決においても、テクノロジーや化学を最重要視している。テクノロジーは、われわれの環境負荷を低減するために大きな役割を果たす」と答えた。

同社はインスリン提供機器の素材開発のために、医療分野とは無関係なテクノロジー・ベンチャーの支援を行っている。もちろん、そこで開発された素材は同社だけでなく、さまざまな分野で活用されるだろう。また、例えば炭素固定のような新しいテクノロジーの進化について、本格的に検討し始めているという。ニールセン氏は「最初はビジネスケースとして成立しないかもしれない。しかし導入しなければ、それはいつまでも成立しない。常に新しい技術を模索し、いかに使うことができることが模索することが重要だ」と姿勢を示した。

新しいテクノロジーをいかに使うか。高橋氏は「今も一秒ごとに色んなデータが蓄積されている」とMaaSの視点から答えた。「データはあっても、分散・分離していると使いこなせない。また自分にとってデータを使うメリットがなければ、(個人データは)リスクを晒すだけになる。色んな産業や政府が持っているデータを、生活者のためにどう繋ぎ合わせ、生きるデータにするか。民間企業だけでなく場合によっては国全体としてどう推進するかが重要だ」と話し、テクノロジーは単体であるのではなく、連携によって生きることを強調した。

川村氏は「先進的テクノロジーは社会課題解決の必要条件だが、それだけでは終わらない。パートナーシップが必要性だ」とセッションを統括し、ニールセン氏は「パートナーシップが全て。特に重要なサステナビリティのアジェンダだ。共通の土台に立って解決していかなければならない」と同調した。高橋氏は、地方では高齢者の安全の見守りに、テクノロジーを活用した連携が欠かせなくなるだろう、と事例を話した。運転時にハンドルを握れば血圧が測定でき、社内カメラで顔色などを判定できる。必要なときに医療機関と連携することで、その情報を生かすことができるというものだ。

データを活用したコンサル、医療、モビリティと、まったく異なる事業領域の登壇者たち。分野を超えてテクノロジーを生かし、同じ土台で協業することで、課題解決が大きく進む可能性を示唆したセッションとなった。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。