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教育現場から伝えるリアルな世代像――コロナ禍でこそ重要なESDの現場とは

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上段左から住田氏、黒宮氏、池田氏、下段左から伊藤氏、目黒氏、田路氏

教育によって持続可能な社会の実現を目指すESD(持続可能な開発のための教育)。既存の教育の在り方を見直す必要に迫られている教育現場では現在、新型コロナウイルスの影響で、新たな学びの形の模索が加速している。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では「教育現場から伝えるリアルな次世代像」と題し、全国各地の小中学校、高校、大学で生徒と向き合う教員らが、それぞれの現場の取り組みを紹介した。会場で耳を傾けていた高校生らからも質問が飛び、終了後まで対話が続くなど、注目度の高さが伺えるセッションとなった。(横田伸治)

ファシリテーター:
住田 昌治 横浜市立日枝小学校 校長
パネリスト:
田路 政義 埼玉県久喜市立栗橋西小学校 教諭
目黒 英樹 福島県只見町立只見中学校 教諭
黒宮 祥男 名古屋国際中学校・高等学校 教務主任・国際教育推進主任
伊藤 丙雄 東京工科大学 デザイン学部 学部長
池田 孝  横浜市教育委員会事務局 学校教育企画部小中学校企画課 指導主事

ファシリテーターを務めたのは、横浜市立日枝小学校の住田昌治校長。住田氏はESDの魅力として「変容」をキーワードに挙げ、教員の変容、学校の変容、地域社会の変容だけでなく、既存の教育を再方向付けする「教育という営み全体の変容」がESDの本質だとした。さらに「コロナ禍で今まで通りできない教育を、どう持続可能な未来につなげていくのか。今こそESDという時代になっている」と指摘し、各登壇者らによる事例紹介に移った。

埼玉県久喜市立栗橋西小学校の田路政義教諭は、校内で「SDGs実践計画表」をまとめ、教科を横断したカリキュラムを作成したことを説明。学習指導案にもESDの視点を明記し、体験活動・振り返り・課題意識の言語化・思考ツールの活用・板書の構造化など、具体的に教育内容を改めてきたという。結果、学力としては埼玉県や久喜市の平均を大きく上回ったとの効果を語った。さらに今後に向けては「課題は発信力。現状は子どもたちの活動を教員が発信している。子どもが自分で発信したいと感じるようになれば、中学・高校で必要とされる能力が備わっていくと思う」と発展に向けて意気込んだ。

福島県只見町立只見中学校の目黒英樹教諭は、自然豊かな人口約4000人の小さな町、只見町が、町の教育方針に「故郷只見を愛し、誇りに思う心を育てるESD」を掲げていることを紹介。同校では、山間に位置し、海とは接していない同町にあって、水の循環を通して「只見に降る雪も流れる川も海につながっている」と考える海洋教育の視点を入れたESDに力を入れる。学校を挙げて海でゴミ拾いを行う中で、子どもたちが率先して海洋ごみ問題に取り組むようになったという。具体的には新聞紙を再利用したレジ袋を考案し、月間約500枚を生産、地域の商店9店舗で採用され、全国でも話題となった。目黒氏は「地域を巻き込んだ活動で地域との絆が強くなることが、子どもたちの励みになる」と意義を強調した。

名古屋市の名古屋国際中学校・高校の黒宮祥男教務主任は「今の高校生はアイデアが斬新で、本当にすごい」と称賛。それは、「学校を飛び出し、教員以外の『先生』との対話を通して、商品の開発や発信につなげてきた」という新たな学びを実践してきた経験から出た言葉だ。同校では、選択教科として「サステナビリティ」の授業を採用しているだけでなく、SDGs未来倶楽部という部活動を創設し、さらに、関心のある生徒を対象にゼミ形式での探究活動も行っている。2020年度は企業との協働で「サステナブルえびせんべい」といった商品の開発までこぎつけ、黒宮氏は「サステナビリティを学んだ生徒が増えると、企業の意識も高まり、社会も変化する。『学校が世界を変えていく』ための唯一の方法は、そうした生徒を生み出すことだ」と訴えた。

東京工科大学の伊藤丙雄・デザイン学部長は、同校で取り組んだ「サンクスナース」プロジェクトの内容を披露。医療の最前線で活躍する看護師に感謝を伝えるというもので、同校が擁するデザイン学部と医療保健学部のコラボレーションで生まれた。シンボルマークの作成時には、想定していたデザイン学部生だけでなく医療保健学部生からも応募があったことに触れ、「学生には社会に貢献したいという強い思いがある。プロジェクトを通して、チーム力、集中力、提案力など、社会貢献のための力を育んでいる」と振り返った。
 
横浜市教育委員会事務局の池田孝指導主事は、市内の小中学校が地域や企業と連携して地域活性化などのアイデアを披露するキャリア教育イベント「はまっ子未来カンパニープロジェクト」を紹介した。例えば市立能見台小学校は、コロナ禍の昨春、卒業生を十分に送り出すことができなかった経験をもとに、今春卒業の6年生に向け、5年生が地元の和菓子店の協力を得て「春におめでとうが伝わる和菓子」を開発したという。このほか、市立高田中学校ではカップ麺「マルちゃん」で知られる東洋水産と連携し、学生が食べたいと感じるようなオリジナルのカップ麺商品を開発。ターゲット、コンセプトなどの策定や、プレゼンテーション方法などを学んだという。
 
各登壇者には、会場からも質問が相次いだ。例えば企業と連携した教育について「学校としては、生徒と企業が直接関わる場面のコーディネートが必要になる。教員はその場で、どのような役割を担うのか」と、生徒の自主性に任せる程度についての質問が飛ぶと、黒宮氏が「最初は教員が、企業と対話を行う方法を教えている。その上で、本校では自主的に企業に連絡を取り、インタビューの依頼を取り付けてくる生徒も出てきた。最終的には生徒が自走してくれる」と、段階的に生徒に任せていくべきとの意見を述べた。

また、セッションを聞いていた東京学芸大附属国際中等教育学校2年(当時)で、海洋プラスチックごみ問題に取り組んでいる櫻井ひろ花さんは、「私たちも、学生目線で企業と学生をつなぐ活動を行っているが、連携するだけでなく発信も必要だ。効果的な情報発信手段は何か」と問いを投げた。伊藤氏がこれに対し、「学生の発信力が高いことは間違いない。続けていれば必ずどこかで人の目に留まる。発信し続けてください」とエールを送り、さらに池田氏が「大人になったら社会人になるのではなく、高校生のあなたも、一緒に世の中をつくっている社会人の一員。そのことを私たち大人が受け入れて、分け隔てなく協働していくことが大切だ」と述べ、セッションを締めくくった。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞記者として愛知県・岐阜県の警察・行政・教育・スポーツなどを担当、執筆。退職後はフリーライターとして活動する一方、NPO法人カタリバで勤務中。