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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サステナビリティ経営に必要な経営トップの信念とはーーSMBCグループ×大和ハウス工業CEO2氏が対談

右上から時計まわりに、太田CEO、福島氏、田中氏、芳井CEO

社会環境の不確実性が増し、将来の予測がより困難なVUCAの時代と言われる今、サステナビリティ経営をどう進め、事業や企業そのものを、どうリジェネレーション(再生)していくのか――。一昨年には米国の経済団体が「株主至上主義からの脱却」を掲げ、顧客や従業員、サプライヤー、地域社会などすべてのステークホルダーを重視する方針を表明するなど、世界経済は大きく変化している。日本でも企業のあり方を中長期的に見据え、「非財務要素」を重視する動きが生まれてきている。そうした日本の経済界を代表し、三井住友フィナンシャルグループと大和ハウス工業の2社のCEOによる特別対談が「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」で実現した。テーマは「サステナビリティ思考を経営に統合する」。セッションには、上場3社の社外取締役も務めるジャーナリストの福島敦子氏も加わり、CEO2氏の思いを通じて、企業、そして社会が、持続的な成長を実現するために、今、あらためて経営トップにどんな信念が求められているのかを考えた。(廣末智子)

ファシリテーター:
田中 信康 サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー/サンメッセ総合研究所 代表
パネリスト:
太田 純 三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO
芳井 敬一 大和ハウス工業 代表取締役社長/CEO
福島 敦子 ジャーナリスト 

セッションは、ファシリテーターの田中信康・サステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサーの「コロナ禍で大きく経営環境が変化したこの一年をどう捉えるか」という質問でスタート。これに対し、太田純・三井住友フィナンシャルグループCEOは「長期的なメガトレンドは、サステナビリティの観点も含めてずっとあった」とした上で、「人々のデジタライゼーションに対する意識が根本的に変わり、銀行の取引もその中で加速している。また気候変動に対する関心も大きく進化していった」と答えた。一方の芳井敬一・大和ハウス工業CEOは、「いちばん感じているのは、“家”のあり方が大きく変わったということ。これまで、帰る場所だった“家”が、生きていく場所、生きる場所に置き換わった」と、それぞれに感慨を語った。

街をつくった責任果たさなければ “再耕”に本気で取り組む

続いて、プレゼンテーションに臨んだ芳井CEOは、「現存する、私どもが作ってきた街、そして家を再び耕す“再耕”についてまず話させていただきたい」と切り出した。同社は現在、「人・街・暮らしの価値共創グループ」として、過去に開発した郊外型住宅団地の今後をそこに暮らす人々と共に考える「リブネスタウンプロジェクト」に力を入れる一方で、千葉県船橋市などを舞台に、実現性(Reality)と再生エネルギー(Renewable Energy)の活用、災害時にも強靭な回復力を発揮するレジリエンス (Resilience)の3つの「Re」に着眼した街づくり「コRe カラ・シティ」の実現に取り組んでいる。“再耕”は同社の造語で、「リブネスタウンプロジェクト」を象徴する言葉だ。

芳井CEOはこの“再耕”について、「戦後の高度経済成長期、土地を切り拓き、街をつくり、暮らしを育んできた私たち。時代が大きく変わろうとしている今、もう一度、街を耕し、お客さまの暮らしを耕し、この国の新しい未来を耕す」という意味を込めていることを、団地が完成した当時の写真をスライドに映しながら説明した。

同社は1960年代、全国に約60カ所の団地を作った。例えばその一つ、上郷ネオポリス(横浜市、分譲開始1974年)の人口は現在、約2000人。高齢化率は50%を超えている。同社はこの街の住民ともう5年以上にわたり、街の未来に向けた話し合いを続けており、その中で一番多い意見が「住民みんながコミュニケーションを取り続けながら、高齢になっても住み続けたい」というものだという。

それを象徴する場面として、スライドには、上郷のコミュニケーション基地であるというコンビニで、子どもと大人が一緒になって、賞味期限の近い弁当や食品を高齢者の自宅に届ける活動について話し合う写真が映された。コロナ禍でのこの活動は、高齢者はもちろん、参加した子の親からもとても喜ばれたという。さらにスライドには、コロナ禍で中止になった、40年以上続いていた地区の夏祭りを旧暦の七夕の日にあらためて行い、住民が皆で楽しんでいる光景が映し出された。これを見る芳井CEOも心から嬉しそうな表情で、「今、この街はゆっくりと、住み続けられる街へと舵を切りました。高齢化にはどうしてもネガティブなイメージがあるが、私たちはそれを覆したい。人も街も建物も、年を重ねるごとに評価され、味わいが出て健康寿命が伸びる。そうした街づくりを心掛けたい。それこそが、人や建物の循環を促すものであり、サーキュラーエコノミーに対する私たちの回答です。そして高齢化した街こそ、ゆっくり、ゆっくりなデジタル化、スマート化が必要だと考えています」と氏ならではの街づくりの哲学とも言える言葉が語られた。

この話を受けて、田中氏は、同社がここでなぜ“再耕”という言葉を使ったのか、また、「このプロジェクトに関しては一切のプロモーションを掛けない姿勢を貫いていると聞いているが」とした上で、この事業に対する意気込みを芳井CEOに再質問。

これに対し、芳井CEOは、「大和ハウス工業はこういう形でいろんな街をつくらせてもらい、販売当時のチラシに書いてあったような、夢の第1章は叶えることができたと考えています。もっとも残念ながら高齢化や空き家問題については予想ができず、ともすれば置き去りにしていた、というお叱りを受けることもありました。しかしながら、『つくる責任、つかう責任』ということがSDGsにも掲げられているように、私たちは、つくった責任を果たさなければならない、この街の夢の第2章をお届けしなければならないと考えています」と強調。創業者の「何をしたら儲かるかという発想でことにあたるな。どういう商品が、どういう事業が世の中のためになるかを考えろ。会社は社会の公器やからな」とする言葉を例に、「ここはしっかりと正対して通らなければならない道であり、社会的課題に対して真正面から向き合うことをしなければ、企業は成長しない」と強い覚悟を示した。さらに「街の問題の解決をしようという時に、商売がぶら下がっていては駄目で、チラシなどの投函は一切するなと言ってあります。僕たちはこの街の再耕を本気でやり遂げたいと思っていることを信じていただき、見てもらいたい」と述べた。

自らが変わり、顧客の役に立てる存在に 
新発想で金融の未来を拓く

一方、三井住友フィナンシャルグループの太田CEOは、最初に、脚本家の倉本聰氏が2006年に設立して以来、支援しているという富良野自然塾にある、地球の46億年の歴史を460メートルの道に置き換えた“地球の道”について紹介。「人類が出てきたのは、なんと2センチ手前、産業革命はわずか0.02ミリ手前です。この0.02ミリの長さの中で人類は地球に大きなダメージを与え、地球環境を大きく変えてしまった」と解説した上で、その道に「地球は子孫から借りているもの」と書かれた石碑があることに触れ、「この言葉がサステナビリティの本質を突いているのではないか。もともと地球は子孫から借りているのだから、汚したらきれいにして、子孫に返すのは当たり前だ。サステナビリティは当たり前のことを当たり前にやること。ただ、人類は今、地球の正義や自然の摂理から掛け離れた生活をしており、当たり前のことをするのにもある種の決意や覚悟がいる。“WE ARE REGENERATION”という今回の国際会議のテーマも、その決意を表明したものだと理解できるのではないか」と持論を語った。

その上で、昨年4月に「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を行うとともに、経営理念を2001年の合併以来初めて変えたことについて述べ、それまでの経営理念は、お客さま、株主、従業員というステークホルダーに対するメッセージだったのに対し、新たに社会というステークホルダーを追加したことを説明。「われわれSMBCグループは三井、住友にルーツを持つ企業グループとして400年の歴史がある。日本企業には昔から『三方よし』という言葉があるようにマルチステークホルダーに対してきちんと対応する企業風土があったが、今はそれがグローバルスタンダードになっており、われわれもそれに合った形で世界に発信することを心掛けた」と強調した。さらにそうした理念を具現化するためにつくった10カ年計画「GREEN×GLOBE 2030」について、2030年までにグリーンファイナンスの実行額を10兆円、金融経済教育への参加者数を150万人にするほか、社会貢献活動等に関する社会的インパクト評価を実施するなどのKPIを立てており、今まさにこれらをやろうとしていること、さらに、これらのKPIは「今後も不断に見直していく」考えであることを表明した。

太田CEOは就任以来、従業員に「カラを、破ろう。」と自らの言葉で呼び掛け、これまでの金融機関の枠にとらわれないチャレンジを促してきた経緯がある。金融機関の新たな価値創造に向け、「(これからは)銀行である必要はない」という強い言葉で社内外に発信もしてきた。そしてその強いリーダーシップで、これも昨年策定した2020〜2022年の中長期計画の中でも、トランスフォーメーション(既存ビジネスのモデル改革)とグロース(新たなビジネス領域への挑戦)、クオリティ(あらゆる面での質の向上)の3つをポイントに上げ、金融の情報産業化やプラットフォーム化に積極的に取り組む意向を示している。

こうした戦略について聞かれた太田CEOは、「金融業は、GDPビジネスであり、GDPが伸びないところで金融業だけ伸びるのはありえない。日本社会の今後を考えた時、少子高齢化が進み、潜在的なGDPの成長率が1%にも満たない中で、金融事業が伸びるどころではないんです」とあらためて強い危機感を表明。預貸金や決済といった「金融の機能」は残るが、「それを今後誰がどういう形で担っていくかはどんどん変わっていく」とする予測を示した上で、「必ずしもそれは銀行がやらなくてもいい仕事かもしれない。そう考えると、われわれ自らが変わり、お客さまの役に立てる存在になっていかないと生き残っていけない」と強調。「既存の概念や先入観、慣れ親しんだ方法から飛び出して、新しい発想をしないともう金融事業が成り立たなくなる、と従業員にも口を酸っぱくして言っている」と説明した。

少子高齢化を見据えた事業としては、高齢者の身の回りの世話に始まり、健康に関する相談や介護施設の紹介、そして資産承継など、総合的なサービスを提供するプラットフォームを構築すると言い、「そういう意味でも、もはや銀行でなくていいと言っているのです。トランスフォーメーションとグロース、クオリティの3つの言葉にはそのような思いを託しました」と述べた。また、「われわれが持っている資産の中には目に見えないものがたくさんあり、その一つが情報であり、データです。この目に見えないアセットをどういう形でマネタイズし、PLに落としこんでいくかということが今後の課題だ」とし、今後の方向性として、情報産業化とプラットフォーマー化、さらに、顧客のさまざまな悩みに対して付加価値の高いソリューションを提供する「ソリューションプロバイダー」としての金融機関のあり方が示された。

背中押すのも社外取締役の役割

ここで田中氏は、2社の共通点として、「その根底にはESG経営や統合思考経営がしっかりとあり、且つ人のハートに問い掛けるような商売の流れを大切にしていることを感じた」などと総括。その上で、現在、上場3社の社外取締役として活躍し、これまでに700人を超える経営陣への取材やインタビューを行った経験を持つジャーナリストの福島氏に感想を聞いた。社外取締役として単年度の業務成績を見るのでなく、常に、それが企業の中長期的な成長につながるのかどうかという視点で議論に加わっているという同氏は、「お二方とも非常に中長期の視点を大事にされているのを感じた」とする一方、「社会的課題の解決といってもすぐに成果が表れるものではなく、長い時間軸で考えていかねばならない。経営者としては収益性との両立ということでも悩まれ、とても覚悟がいることだと思う。それでも中長期的な視点で、本当に大切なことは何かと考えれば、これはやった方がいいと背中を押すことも、社外取締役の重要な役割だ」と話した。

セッションは次世代育成も話題に。芳井CEOは、「私は父親に小学校の先生になれ、と言われて育ちました。小学校の先生なら、いろんな角度から子どもを見ることができるから、という理由です。この思いは未だに変わりません。当社の社員にもいろいろなタイプがあり、時間を掛けて育つ者もいる。ですから、いろんな長所を軸に人を見、あらゆる人にチャンスを与えたい」という自身の原点にある思いを吐露した。その上で、創業者生誕の地、奈良に竣工予定の「みらい価値共創センター」を例に、「広い施設内を歩きながら、誰もがどんな研修も見られるようにしています。子どもたちにも見てもらって、そこで何かをキャッチし、成長してほしい。創業者もまさに社是の1番目に『事業を通じて人を育てよ』と書いています。僕がバトンを受け継いだのも、人を育てて次の代でしっかりと伸びていく、そこが役割だと思うので、それをやり続けたい」と決意を表明。太田CEOも「若い人の才能をすくい上げて会社の力にしたい」と述べ、アイデアを出した社員を社長に抜擢し、次々と事業化していることを報告。また社内SNSなどを通じて社員の能力向上や社内活性化を図っており、「そうした相互作用で社内の雰囲気が随分と変わってきたのを実感している」などと話した。

多様な人材が意思決定し、イノベーション生む組織づくりを

これを聞いて、福島氏は、「今の時代、どこで優れたアイデアが生まれてイノベーションが生まれるかは分からない。だから情熱を持ってこういう課題解決を私はやりたい、僕はやりたいという人たちにどんどんチャンスを与えてトライしてもらう。そして次につながる前向きな失敗は評価する。そういう企業カルチャーを作っていくことが今のリーダーには求められている」と見解を述べた。そして「VUCAの時代になればなるほど、多様な人材が意思決定をし、チャレンジをしてイノベーションを生んでいく、そういう組織をつくっていくことが、企業の持続的な成長につながり、ひいては持続可能な社会の実現につながっていく。でもそれにはやはりトップの強い覚悟や信念がないと進まないので、今日は2人のリーダーの熱い思いを伺って、未来に向けて非常に明るい光を感じさせていただいた」と締めくくった。

最後に、芳井CEOは「当たり前のことをあたり前にやる大切さと、やるべきことはしっかり果たす、そのことを今日ここであらためて強く覚悟しました」、太田CEOは「社員の皆さん、どんどん失敗してください。その失敗を糧に次のステップへと一緒に頑張っていきましょう」とそれぞれメッセージを発信し、セッションを終えた。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。SDGsを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。