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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

グリーンサイエンスの時代へ ビジネスの根幹としてのサステナビリティとは――ロレアル アレキサンドラ・パルトCCRO

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世界最大手の化粧品会社であるロレアルは、新しいグリーンサイエンスの時代に向け、ビジネスモデルの変革に挑んでいる。さらに世界が直面する課題の解決に対し、インパクト投資や慈善的な寄付を通じて貢献している。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜の基調講演で、同社の最高社会責任者(CCRO)であり、ロレアル財団のエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントも務めるアレキサンドラ・パルト氏が、サプライチェーン上のすべての人や、コロナ禍で浮き彫りになった立場の弱い女性らの人権問題にも触れながら、「科学と化学に基づいた企業である」とする同社の“ビジネスの根幹としてのサステナビリティ”について語った。(廣末智子)

科学的根拠に基づき、プラネタリー・バウンダリーに寄り添う野心的目標を

同社は2013年から第1弾のサステナビリティ戦略を開始。パルト氏はチーフ・サステナビリティ ・オフィサーとして携わり、2020年を目標に「事業運営の在り方、活動の在り方、研究開発、イノベーション、生産の在り方、そして販売に関して」とすべての面で変革に挑んだ。同氏は、この第1弾の変革を、同社のジャン-ポール・アゴンCEOが最初に語った「これまではすべての幹部ミーティング、ブランドミーティングにおいて、化粧品という意味で、また経済性という意味でパフォーマンスの高い商品開発をお願いしてきました。しかしこれからは社会的責任、そしてサステナビリティという意味でのパフォーマンスの高い商品開発をお願いします。この3つ目のパラダイム(概念)をぜひ考えてください」という言葉が象徴していたと振り返る。

そして今、この第2弾となる、2025年までに全拠点でカーボンニュートラルを目指すことなどを盛り込んだ新サステナビリティ・プログラム「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」に昨年6月から取り組んでいる。この第1弾と第2弾の違いについて、同氏は、「2020年までは多くの企業がとにかく自分たちのやっていることの悪影響を減らす、例えば炭素の排出量や廃棄物の量、そして水の利用量を減らす目標を掲げていました。しかしもはやそれだけでは十分ではなく、さらなる発展が必要だということです」と話した。この間にも気候変動や生物多様性の喪失、水不足といった問題は深刻の度合いを増しており、「さまざまな制約がある中、いろいろな知識を整合させて目標を掲げる」ことをしなければならない。同社はこれに対し、さまざまな科学者や専門家とともに科学的根拠に基づき、さらにプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の理念に寄り添う形で野心的な目標を掲げている=環境目標の詳細はすべて公式文書で開示している=。

バリューチェーン全体の社員と家族にベーシックニーズを満たす賃金を

そもそも同社は化学者によって設立された経緯があり、「科学と化学に基づいた企業である」と同氏は強調する。だが、新サステナビリティ・プログラムにおいては2030年の段階で原材料の95%はバイオテクロジーとグリーンケミストリーに基づいたものに変える予定で「われわれのDNAは大きく変わっていく」と指摘。そして、「新たなグリーンサイエンスの時代に向けて、今後、私たちが使うプラスチックの100%はリサイクルされたもの、そして植物由来のものになり、そのためのイノベーションを積極的に行っていく」と続けた。

さらに新プログラムでは、全拠点で2025年までにカーボンニュートラルを目指し、イノベーションを通じてサプライヤーや消費者も巻き込む形で炭素の排出量の削減を進める。例えばシャンプーのリフィル(詰め替え)や、固形シャンプー、髪をすすぎやすい、あるいはすすぐ必要のない商品などを増やすことで水の使用量も減らしていく計画で、ビジネスモデルの抜本的な改革に着手している。こうした取り組みによって、同氏は「(取引先である)美容院の状況も大きく様変わりするだろう」と述べた。

また同氏は、持続可能な社会への移行に向けて「インクルージョンの視点は欠かせない」と強調し、その中の大きな課題の一つとして「貧困」を挙げた。「なぜなら、貧困である限り、人々は基本的なニーズを満たそうと、活動し続けるからです。彼らにとって持続可能性は後回しになってしまう」。そこで、「この局面に対峙するために、まずはバリューチェーンから始めた」と説明した。もちろん同社では社員に対し、「社員とその家族がベーシックニーズを満たせるだけの生活賃金」を支払っているが、「それと同様のことをサプライヤーにもお願いし、バリューチェーンの関係者全員が、まともな生活を送れるよう賃金を確保していく」のが目的という。

世界の課題解決へ1.5億ユーロをインパクト投資や寄付に

一方、同氏は、世界が直面している課題解決への貢献策として、同社が総額1.5億ユーロ(約195億円)の投資を決めたことを報告した。そのうち1万ユーロは、サーキュラーエコノミーの実現と、生物多様性の喪失に伴う生態系の復元に向けた、それぞれのインパクト投資に5000万ユーロ(約65億円)ずつ充てると説明。「インパクト投資にも当然ROI(投資利益率)が求められるが、それとともに、環境および社会へのインパクトをもたらすことが重要なのです」と強調した。また残りの5000万ユーロについては、暴力を受けていたり、貧困にある人、失業者、障がい者ら、「弱い立場の女性」を支援するコミュニティ団体への寄付に充てることにしたと言い、その理由について、「われわれの社会には未だ女性差別が蔓延していることがコロナ禍を通じても明らかになった。彼女らに対して支援することのインパクトはとても大きい」と語った。

パルト氏はドイツのアムネスティ・インターナショナルなどでも活躍した弁護士でもあり、とりわけ人権についての関心の高さが印象的なスピーチとなった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。