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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

持続可能なライフスタイルをどう創出するか――第3回未来まちづくりフォーラム(4)

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SDGsを生かした持続可能なまちづくりを考える上では、建物などのハード面の整備に着目するだけでは不十分だ。まちで暮らす人々の生活や働き方、消費者として商品やサービスをどう選択するかの考え方など、ソフト面が重要になる。第3回未来まちづくりフォーラムの特別セッション「持続可能なライフスタイル×未来まちづくり」では、単なるメーカーから「場づくり」中心に事業の考え方を変えたというオカムラや、生活に密接に関わる家庭紙を扱う日本製紙クレシア、そしてエシカルな消費の普及活動を行う一般社団法人エシカル協会が、人々のライフスタイルを創出する好事例を紹介した。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

特別セッション「持続可能なライフスタイル×未来まちづくり」

庵原悠氏 株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 WORK MILL X UNIT デザインストラテジスト
大久保明日奈氏 一般社団法人エシカル協会 理事 / 株式会社オウルズコンサルティンググループ
髙津尚子氏 日本製紙クレシア株式会社 営業推進本部 取締役 本部長
ファシリテーター:瀬田史彦氏 東京大学大学院 工学系研究科都市工学専攻 准教授/博士(工学)

ファシリテーターの瀬田氏は冒頭で「未来まちづくりとの関係でSDGsが重要視されている点は2つある」と前提となるSDGsの意義を解説した。その一つは「SDGsがボトムアップで採択されたこと」だ。SDGsの合意主体とは国家だけではなく、大学の研究者や民間企業、企業の代表者、政府、自治体といった多くのセクターの人々がSDGs全体と各目標について話し合い、合意に至った。「SDGsは参加型で決められた、共通認識としての文書だ」と瀬田氏は強調した。

もう一点は特にまちづくりに関して「都市化を否定せず、都市での幸福も考えている」ことだという。11番目に掲げられる「住み続けられるまちづくりを」だが、2000年に採択されたSDGsの前身とも言えるMDGsでは農村部中心に考えられており、「人々が都市でどう幸福な生活を実現するか」はなかった項目だ。

多様化する「働く場づくり」の実例は

オフィス什器メーカーとして知られるオカムラが「『はたらく』を実践的に研究し、社会に貢献する」をコンセプトとして進めているプロジェクト「WORK MILL(ワークミル)」は、SDGsを意識した場づくりの活動を行っている。国内外で、特にコロナ禍を通して、社会や働き方が今後どう変わるのかを徹底的にリサーチし、その内容を自社のリソースとして留めるだけでなく独自メディアで発信。そして地域や企業と連携して創出する「共創空間」づくりで情報を実践的に生かしているという。

例えば新潟県の「柏崎コワーキングスペース K.Vivo」は産官学を越えた交流の場となる空間を創出した。「ただみんなで集まって働くだけでなく、いかにそこでイノベーションを起こすか」を考えているという。その他にもマンション内に設置するワークラウンジを手掛けたり、奄美大島でワーケーションプログラムを兼ねたワークショップを開催するなど、従来のメーカーのイメージを越えた「場づくり」のプロジェクト事例は多岐に渡る。

最後にオカムラの働き方改革は「WiL BE」だと庵原氏は説明した。「WiL」は「Work in Life」の略。Lifeの中にあるWorkという要素が充実することで、Lifeも充実するという考え方だ。ファシリテーターの瀬田氏は「共創空間という言葉はボトムアップを象徴している。SDGsを体現するような活動ではないか」と述べた。

家庭紙を通して取り組む「四方良し」のSDGs実践

「クリネックス」や「スコッティ」という商品名やそのロゴを身近に感じる人は多いだろう。これらの家庭紙をつくっているのは日本製紙クレシア。1964年に日本初の箱入りティッシュを発売した同社の髙津氏はまず「心にふれるやわらかさを考える、つくる」という企業スローガンを紹介した。17文字であることからでSDGsの17色で彩り、安心、快適な生活、自然を守るという3つの項目と共に社会課題解決の取り組みの指針としているという。

日本製紙グループは「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業」を掲げ、グループでは広大な森林資源を保有する。「木質資源は再生可能であり、カーボンニュートラル。持続可能な社会の構築と非常に高い親和性を持っている」と髙津氏。

グループの中でも消費者に最も近い事業分野にある日本製紙クレシアでは、紙のリサイクルを積極的に行っている。原料となる樹木は、針葉樹であれば紙の嵩高や強度、吸水性に優れ、広葉樹は表面が滑らかになる、といった特性があるという。例えば牛乳パックは良質な針葉樹のパルプから出来ている。この両面にポリフィルムを張り印刷を施しているので、パルプのみを取り出せば非常にきれいなリサイクル原料となる。同社は各施設から牛乳パックを回収しリサイクルしたり、工場に小学生を招待しリサイクル体験をしてもらうことも行ってきたが「規模が小さく、リサイクルをしているから製品が消費者に選ばれる、というところまでは行きついていなかった」と髙津氏は語る。これらのリサイクル促進や啓発に加え、ビジネスそのものによる社会的課題解決が求められている――。そう実感し、物流上の問題を解決する新たな商品を開発した。

「家庭紙は空気を運ぶようなもの」と言われているという。トイレットペーパーのロールは芯があるため、11トントラックに実際に積載できる紙は5トン程度だ。そこで同社が開発したのが、従来の大きさと変わらず、3倍の量の紙を巻いた製品だ。もちろん従来の高い品質は維持している。消費者からすればトイレットペーパーの取り換え回数が減り、持ち運びが楽で省スペース。販売店にとっては売り場効率が上がる。そして運搬効率が劇的に上がるためコストと共にCO2排出量を削減でき、包装材も大幅に減らすことができる。髙津氏は「消費者・流通・メーカー、そして地球環境にも良い『四方良し』だ」と自信を見せる。

「今後のまちづくりの中では、ごみとして廃棄される資源の有効活用が課題だ。ティッシュの外箱やトイレットペーパーの芯、段ボールもリサイクルができるかもしれない。連携の環を広げながら解決していきたい」(髙津氏)

「エシカルなまちづくり」実践する3つのポイント

「エシカルなまちづくり実現のために重要なポイントは3つある」と解説したのは大久保氏だ。まず「自律と分散」。それぞれのまちには、住む人や地域に根付いた企業などによる個性がある。それらを生かし地元企業が得意な分野や地域文化を生かしたコミュニティを形成することで、自律したまちが日本に展開し、東京一極集中ではないサステナブルな分散型社会を目指すことができる。

次に「目の届く範囲から」。まちづくりの文脈では多くの投資が必要になる。大久保氏は「敢えて伝えたいのは」と前置きし、小さな規模の投資からスタートすることを推奨した。例えば施設の建設の場合、大規模投資を前提にすると、まちにとって「大きすぎる」「豪華すぎる」施設になってしまう可能性がある。一方で小さな投資からスタートすれば、地元の文化や伝統を活用した創意工夫のある施設がつくられ、唯一無二の個性が輝くための投資となる。

そして一番重要なことは「我慢するのではなく楽しんで持続可能性を実践していくということ」だ。大久保氏は「我慢をすると長く続かない。生き生きと楽しめるようなまちづくりを」と呼びかける。まちの中で楽しくサステナビリティに触れられるタッチポイントをつくれば、そこで楽しんだ経験を自宅に持ち帰ってライフスタイルの中で実践し、また街へ出るという好循環が生まれる。

エシカル協会が取り組む具体的なライフスタイル創出事例として、大久保氏はソーラーシェアリングの活動を紹介した。家庭から排出されるCO2の47%が電気によるものと言われる中、「まず電気をエシカルに」という思いで始まった。農村にソーラーパネルを設置し、農業に使うだけでなく地域の家庭でも利用する。さらに同協会とボーダレス・ジャパン(東京・新宿)が手掛けるハチドリ電力、農業生産法人Three little birds(千葉・匝瑳)が連携してソーラーシェアリング進める「エシカル・マジカル発電所」をつくろうと計画しているという。

瀬田氏は最後に「政府だけ、協会だけ、企業だけでなく、色んな主体が関わることが環境課題に重要だし、ボトムアップによって、皆で実践するというSDGsの重要な側面」だとセッションを総括した。

「SDGsの主流化」反映した第3回未来まちづくりフォーラム

「クロージング・セッション」
笹谷秀光氏 未来まちづくりフォーラム実行委員長

「第3回未来まちづくりフォーラム」は、過去の開催同様に多くの最新事例や、連携の具体的な進捗が語られたが、コロナ禍にあって特に「社会の変革」や「価値観の変遷」に即した協創事例が語れた。クロージングで笹谷氏は「なぜ私は協創力というテーマを設定したのか。改めて考えると、人と人が分断されたからだ。今回のフォーラムでは皆でディスカッションし、確認し合って、分断の中でオンラインも含め、ー度集まってみた。このフォーラムはSDGsが主流化し、あらゆる人がSDGsを実行していることを反映している」と開催を振り返った。

SDGsは参照事項ではなく、実際に、ビジネスや自治体運営の中で「使う」段階にある。笹谷氏は「であれば、しっかり使いましょう」と促し、「日本には根っこがある。日本が持っているポテンシャルを生かすために何が必要か。『空気を読め』では厳しい。重苦しい空気感を変えていくのはわれわれだ。皆さんだ」と発信の重要性を改めて語った。

「日本創生SDGsモデルという流れは必ずできる。グレート・リセットはあらゆるものに影響を与え、価値観が大幅に変わっている。今こそ新たなクリエーションをしなければならない」(笹谷氏)