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大学生が考える、サステナビリティの先にある「リジェネレーション」

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2月24日、25日と2日間にわたって開催したサステナブル・ブランド国際会議2021(以下、SB 2021 Yokohama)では、今年も「次世代教育プログラム」として、小中校の教員や高校生、大学生を対象としたプログラムが実施された。大和ハウス工業は、これまで3年連続で主催してきた大学生向けの「SB University 2021」を今年も開催。パシフィコ横浜ノース会場とオンライン配信によるハイブリッド開催となった今期は、多数の応募者の中から選ばれた35人の学生たちが、会場およびオンライン上に集った。(笠井美春)

SB University 2021のテーマとなったのは「リジェネレーション(再生)」。事前研修により、リジェネレーションの考えを学んだ学生らは、SB 2021 Yokohama で繰り広げられる80以上のセッションに自由に参加。そのうえで2日目、最終日の夕方に再集結し、大和ハウス工業の社員らとともに、リジェネレーションの本質について考え、自らどう行動を起こすかを考えるワークショップに参加した。

リジェネレーションを知る

1月下旬、SB 2021 Yokohama に先駆けて、オンラインで事前研修が実施された。研修のファシリテーションを務めたのは、当日も進行を担当する東嗣了(あずまひであき)氏。同氏は、サステナビリティ・リーダーシップコンサルタント、組織変革コーチとしてこれまで多くの企業研修に携わり、3万人以上の研修、コンサルティングを担当してきた人物だ。

事前研修のスタートにあたり、東氏は「対話を通じて、ともにサステナビリティ、リジェネレーションについて考えていこう」と参加者にメッセージを送った。

また、大和ハウス工業のサステナビリティ企画部長の近久啓太氏も「サステナビリティを語る中で、リジェネレーションという新たな考えが生まれた。まだ議論されはじめたばかりのこの概念について、ぜひ一緒に考えていきたい」と期待を寄せた。

事前研修がスタートすると、まず参加者たちは数人のグループに分かれ、「自己紹介」、「今の心と体の状態」、そして「何が私をこの場に連れてきたか」を語り合った。

続いては、環境・社会・経済のバランスを取ることの大切さを含む「持続可能性」の概念や、SDGsが誕生するまでの歴史を学ぶ時間に。さらにその中で起きた「不都合な真実」として、シベリアの永久凍土融解、気候変動、貧困、プラスチックゴミの問題など、地球規模で今、何が起こっているかを参加者は理解していった。

それを踏まえ、現状は「人類は地球の境界線を越えてしまっている状態。地球2.4個分の資源、自浄能力を使う暮らしを私たちはしているのではないか」と、プラネタリ―・バウンダリーの概念を提示。その中で私たちは、「古い物語を悼み、新しい物語、リジェネーションの物語を私たちが作っていかなくてはならない」と提起した。

これを受けて参加者は再度グループで「古い物語を作ったメンタルモデルとはなにか」を語り合い、「これから作るべき新しい物語」について考察を深めた。

グループ対話を経て、参加者からは「お客さまは神様というメンタルモデルから、従業員もその家族も大切にすべきという概念が出てきた」、「ビジネスは環境を破壊し、労働者を搾取するという古い物語から、企業活動にもサステナビリティが求められるようになった」などの意見が次々と上がった。さらに、「コロナ禍により、これまでの“当たり前”が変化した。今、私たちは岐路に立っている」との見解も示された。

終盤は、「リジェネレーションとは何か」についての考察を深める時間へ。「リジェネレーション」は、回復、修復する力を身につけ、より良い何かを再生をしていくステージなのではないか。さらに、一部ではなく、全体のシステムに影響を及ぼす概念なのではないかと、議論が続いた。

事前研修の最後に紹介されたのは、下記、リジェネレーションを創造する上での「8つの原則とあり方」(以下、リジェネレーションの8原則)だ。

①Rightな関係性
②ホリスティックに豊かさを観る
③変化に対して適応する
④システムの一部としての自覚
⑤多様性、文化、歴史への尊重
⑥境界線から価値を生み出す
⑦再生のための循環
⑧バランス感を追い求める 

「SB University当日はこの8つのキーワードを参考に、この仲間で、新しい物語を考える時間を作ろう」と東氏は、事前研修を締めくくった。

セッションを経て変化する、学生たちの「リジェネレーション」とは

迎えたセッション1日目。2月24日のSB Universityは、ランチミーティングでスタートした。事前研修と同じく東氏のファシリテーションのもと、まず参加者たちは明日のセッションへの抱負などをグループメンバーと共有した。

この日は、自己紹介と事前研修の復習を含む短いセッションではあったが、「自分とリジェネレーションの現在地」をモノで表すという印象的なワークも実施された。

参加者からは、「下から見上げている感じ」、「概念は分かるけどまだ遠くから見ている感じ」など、さまざまな意見が湧き出る。

この距離、関係性が2日間のセッションを経てどう変化していくのか。2日目のワークショップセッションまでの間、学生たちはSB 2021 Yokohama内で開催されるさまざまなセッションに自由に参加し、自分の考えを深めていくことになる。

2日目の最終セッションは、17時にスタートした。会場に集まったメンバーを前に、東氏からは「学びの振り返りをしつつ、リジェネレーションについての考えを、対話から整理し、消化する時間にしていこう」と呼びかけがあった。

最初のワークでは、SB 2021 Yokohamaでのマイベストセッションをグループ内で共有。学生メンバーからは、フィリップ モリス ジャパンのセッションから、「害の少ないタバコを吸うことを提案する」という姿勢に、「誰も取り残さない」というSDGsの考えを感じたという意見があがり、多くの頷きがあった。

さらに、「ファッションはエシカルを欠いては生きていけない」のセッションに参加した学生からは、「ファッション業界全体の取り組みを知ることができて非常に面白かった」という意見とともに、自分たちの生活に当てはめて考えさせられる内容であったという声があがった。

なかでも、「どんなに企業が素材や生産の仕組みを工夫しても、消費する私たちの意識が変わらなければ、社会は変わっていかない。エシカルな“生産ストーリー”の後に、私たちが創る“購入後のストーリー”が、どうあるべきかを考えるきっかけとなった」という言葉は、参加者に大きな共感を生んだ。

続いては、リジェネレーションについての学び、気づき、疑問をグループで共有するセッション。

ここでは、「既存のサプライチェーンの中で私たちが作ってしまったゴミを、別の視点から生かすことがリジェネレーションなのではないか」という気づきを挙げる学生などがいる一方で、日本のリジェネレーションに疑問を感じたという意見も上がった。

1月までドイツに留学していたという学生が投げかけたのは、「日本はまだサステナブルという“応急処置”の段階にあり、リジェネレーションという“治療”の段階には進んでいない」という率直な感想だ。ドイツではリユース、サーキュラーエコノミーが当たり前であり、まだまだ日本はそこに到達していないという鋭い指摘だった。

東氏はこうしたさまざまな意見を受けて、「日本はこの段階を経て、次のステージに進もうとしている。応急処置、体質改善、治療、さらに運動をして人間は元気になっていく。社会環境におけるこの流れの中で、皆さんにはリーダーシップを持って進んでいってほしい」とメッセージを送った。

その後は、「リジェネレーションの8原則」を軸に、「今、自分には何ができそうか」を考えるセッションへ。

床に大きな円を描くように書かれた8つの言葉に、参加者たちは、まず自分の思いを重ねた。そして最も自分の思いに近いキーワードのエリアに移動。東氏の呼びかけにより、その場所で、ジェスチャーによって自分の思いを表現した。

例えば、「多様性のあるコミュニティー」を選択した学生は、歴史、文化を重んじる大切さを「本を読むジェスチャー」で表現。その他、「境界線から価値を見出す」を選択した学生は、地域、行政、住民が手を取り合うことによって価値が生まれるという意味で「手をつなぐジェスチャー」をするなど、多様な意見が体で表現されるユニークな時間となった。

セッションの最後に、東氏は円の中央に花束を置いた。そして「この花は社会そのもの。ここに集まったメンバーがそれぞれの場所で行動を起こすことで、ここに、どんな変化が生まれるか想像してみてほしい」と参加者に呼びかけた。

参加メンバーは思い思いに変化を想像。「花が自分から立ち上がっていく」「花の周りでみんなが手をつないでいる」「枯れたりしつつも、再生していく」「それぞれの心に残り、花そのものは消える」などの意見が次々に湧き出すラストシーンとなった。

そして最後に、全員の声による「WE ARE REGENERATION」の言葉が会場に響き、2日間のセッションは終了した。

すべてのセッションを終えて、見出された次のステップとは

セッション前に、「大学生のみなさんがどのような視点でリジェネレーションを捉え、実行をしていこうと考えるのかを知りたい。社員も大学生の意見に触れ、おおいに刺激を受けてほしい」と語っていた大和ハウス工業の近久氏。終了後は「体を使ったワークショップは、目に見えないリジェネレーションという概念を体現し、深く考えるいい機会となったのでは」とセッションを振り返った。

また、参加した大和ハウス工業社員からは、「大学生の現状を知る良い機会であり、これからの社会づくりに彼らがどのようなスタンスで関わってくれるのかを知ることができた」との声があった。加えて、社会的課題、サステナビリティについてしっかりと教育を受けてきた大学生世代と、自らの世代との意識の差に触れ、「彼らが社会に出た際に、その考えを企業内で発信できる土壌をつくり、経営陣との橋渡しをする役割を果たさなくてはならないと感じた」と語ってくれた。

さらに数人の学生には、1日目に感じた「リジェネレーションとの関係性」は、セッションを終えて、どう変化したかを聞いてみた。

ある学生は「距離感はさほど変わっていないが、昨日はまだモヤのかかっていたリジェネレーションの姿が、少しくっきりと見えるようになった」と語った。

他の学生からは「リジェネレーションは何かの物質を作ることではなく、あらゆる方向からアプローチすることができる概念なのだと気づくことができた。また、人が主体となって、感情、行動を伴ったものであるべきだとも学んだ」という意見も。さらに、「昨日はリジェネレーションを見上げるような立ち位置にいると感じていたが、まっすぐに向き合うことができたのでは」と、その手ごたえを表現した。

今回、特に学生から多く集まったのは、「人と対話し、意見を出し合うことがとても刺激的だった」との声だ。ハイブリッド開催でありつつも、対話によって、リジェネレーションを巡るそれぞれの考えを発信し、受け取ることが、彼らにとって新たな一歩となったようだ。

東氏、近久氏も述べていたように、リジェネレーションはまだまだ新しい概念だ。それをどう捉え、実行に移していくのかは、これからの私たち一人ひとりが考えていかなくてはならない。誰もがリジェネレーションを模索する中で、この2日間のSB Universityは、次世代のリーダーシップを育み、彼らと社会をつなぐ、一つの結び目となったのではないだろうか。

笠井美春(かさい・みはる)

愛媛県今治市出身。早稲田大学第一文学部にて文芸を専修。卒業後、株式会社博展において秘書、採用、人材育成、広報に携わったのち、2011年からフリーライターへ。企業誌や雑誌で幅広く取材、インタビュー原稿に携わり、2019年からは中学道徳教科書において創作文も執筆中。