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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サステナビリティ広告の潮流から考える、広告コミュニケーションの未来

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左から金田氏、島田氏、村田氏

日本で最も歴史ある総合広告賞である「第73回広告電通賞」に今回初めて「SDGs特別賞」が創設され、1398の応募作の中から、東海テレビ放送(愛知・名古屋)の「報道部 公共キャンペーン(見えない障害と生きる。)」の受賞が決まった。2018年の「カンヌライオンズ」に始まり、世界の大型の広告賞にサステナビリティ部門が生まれるなど、今、広告の世界でも、SDGsやサステナビリティを重視する流れが強まっている。「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜」のセッションでは、日本初の「SDGs特別賞」の選考に携わった委員3氏がその選考の過程を振り返り、広告のさらなる未来について話し合った。(廣末智子)

パネリスト:
金田 晃一・NTTデータ 総務部サステナビリティ担当 シニア・スペシャリスト
村田 友和・日経BP 日経ESG経営フォーラム事業部
島田 由香・ユニリーバ・ジャパンホールディングス 取締役 人事総務本部長 

日本初「SDGs特別賞」広告は「見えない障害と生きる。」

最初に、「第73回広告電通賞 SDGs特別賞」に10人の選考委員の全会一致で決まったという東海テレビ放送の作品「見えない障害と生きる。」を紹介する。

片付けが苦手な女性に、文字を読むのに苦労する男性、電車の音や友達の声が気になり、勉強に集中できず顔をしかめる高校生。細かいごみや汚れが常に気になる性質を生かし、掃除の仕事に精を出す男性。注意力散漫でどこででも大声を出し跳ね回る6歳児に手を焼く母親。約5分間の映像に次々と異なる特性を持つ人々が映し出される。彼ら、彼女らはみんな、何らかの発達障がいを持つ人たちだ。周囲の理解がなかなか得られず、「フツウに苦しめられる」日々。でも見方を変えれば、その障がいは才能でもある。そしてCMの最後には、自閉症でひきこもり経験のある24歳のGOMESSさんが自作のラップを歌い上げる。

「でも僕が僕を諦めずにいられるのは
僕を諦めずに見ていてくれる人がいるから
ただ 側にいてくれるだけでいいんだ
僕ら どんな障害があったって
同じ人間として」

セッションではこのCMが同賞に選ばれた理由について、選考委員の委員長を務めたNTTデータの金田晃一氏が、当事者が直接メッセージを伝えているストレートさと、まさに誰一人取り残さないという、SDGsの持つ多様性への思いが込められているところ、そして、東海テレビ放送がこうした社会的なテーマのCMをシリーズで展開していることから、その誠実さが高く評価された、とする3点を挙げた。

「今やるべきはこれなんだ」緊急性の打ち出しが重要

1398の応募作の中には、企業だけでなく、研究機関やNGO、NPOからの作品もあり、テーマは、災害対応や気候変動、生物多様性といった環境問題から、人種の多様性や長時間労働、障がいや差別といじめなどの社会的問題、そして、SDGs自体の啓発やテクノロジーの活用など多岐にわたった。この中でも、その課題の持つ緊急性、つまりさまざまな社会的課題がある中で、今やるべきことはこれなんだというメッセージをしっかりと出しているか、という点に着目して選考に当たったのが、日経BPの村田友和氏だ。

村田氏は、その指標の一つに、毎年のダボス会議で行われている、政財人750人以上を対象とする「今後10年間に発生する可能性リスク」に関する調査結果を挙げた。その上位5位が2007年には「インフラの故障」「慢性疾患」「石油価格の急激な高騰」「中国経済のハードランディング」「資産価格の暴落」であったのに対し、2020年には「異常気象」「気候変動対策の失敗」「自然災害」「生物多様性の損失」「人為的な環境災害」と環境問題一色となっていることからも、いかに環境問題が緊急性を帯びた社会的課題だと捉えられているかが分かる、というのだ。

村田氏はそうしたデータを示しながら、「だからこそ、こうした緊急課題をいかに広告という形にして、情報として届けるか。やはり国民にいちばん近い情報は広告ですので、そこが一つの基準になる」と説明。さらに『日経ESG』では「徹底予測2021」として、「脱炭素、グリーンエコノミー」「ジェンダー平等」「サーキュラーエコノミー」「(サプライチェーン上の)人権」「サステナブルファイナンス、移行ファイナンスの拡大」の5つを挙げており、これらの観点についても、「企業としてはここをうまく広告につなげていった方がより国民をはじめ投資会社、金融機関の共感を得られるのではないか」などと主張した。

今後は「ESG」の「G」も広告対象に

一方、今後の広告を巡る議論では、金融機関や株主・投資家が関心を持つ“ESG”のうち、G(ガバナンス)の部分をどう広告に結び付けていくべきかという問題提起がなされ、金田氏が、「一つのアイデアとして、社外取締役や、NGOの人たちのコメントを広告にするのも、その会社がいかに誠実にビジネスをしているかが伝わっていいのではないか」などと提案。これに対し、「サステナビリティを暮らしの“当たり前”に」というパーパスを掲げるユニリーバの島田氏は、「当社では特に、ESGという一つひとつの概念で分けてはいないが、ガバナンス というのは、ビジネスを行っていく上でのプリンシプル(原理原則)のようなものだと思う。そうした原理原則がしっかりあることで、どんな変化にもフレキシブルに対応できるのではないか」と述べ、金田氏も「そういうプリンシプルを企業のトップがしっかりと持ち、それをうまく広告に転換することができれば、将来的にはガバナンスも広告対象になる気がしますね」と応じた。

「ユニリーバが男女平等へ採用改革」広告が初めて記事に

最後に村田氏が、日経ESGの誌面で「初めて記事になった、象徴的な広告」として、昨年3月、「ユニリーバが男女平等へ採用改革」という見出しで掲載したユニリーバ・ジャパンの広告について紹介。あらためてその目的を島田氏に質問した。広告の内容は、「採用の履歴書から顔写真をなくします」というこれまでの常識を打ち破るもので、島田氏によると、「LUXというヘアケアのブランドチームが考えたもの」という。LUXには、髪の輝きはもちろん、「女性の輝きに貢献したい」という思いがあり、それをどう社会に伝えていくかと考える中で、「女性が輝いているということは、そこにいる男女共に輝いているということであり、また髪のダメージだけではなく社会のダメージもケアしていこう」という趣旨でこのプロジェクトを立ちあげたそうだ。

「ジェンダーによる差別をなくすには、男性か女性か分からなくするところから始めようという発想で、写真だけではなく、ファーストネーム(日本名での名字ではなく名前)も書かなくても構わないことにしています。もちろん、性別を選ぶ欄もありません。本当ならそんなことしなくてもいい社会にしたいけれど、実際には、性別の情報がポジティブではない方向に向かってしまう現実がある。まずはその現実に目を向けてもらうための一歩と考えています」

この話に金田氏は、「企業が行う事業プロセス自体が広告メッセージとなっている。広告したことをちゃんと活動に転換している」と述べ、これからのサステナビリティ広告について、「会社としての企業理念やメッセージ、パーパスをしっかり伝えることを軸にさらにパワフルになり、発展していくのではないか」と締めくくった。

「SDGs特別賞」は、「第74回電通広告賞」でも選定される予定で、4月1日からの1カ月間、作品の募集が行われる。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。